【親の認知症】周囲にうまく伝えて、介護の輪を広げた実例
認知症の母の介護を、東京―岩手と遠距離で続け、その様子を介護ブログや書籍などで公開している工藤広伸さん。息子の視点で”気づいた””学んだ”数々の介護心得を紹介するシリーズ今回は、家族以外の周囲の人に、親の認知症をどのように伝え、結果どうなったか、体験をふまえてアドバイスしてもらった。「しれっと」をモットーとする工藤さんの介護サバイバル術、必見だ!
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自分の親が認知症になったとき、そのことをご近所や友人、親族に伝えますか?
わたしは「伝える」という選択をしました。
わたしの場合、認知症の母が1人暮らしであったことに加え、東京と盛岡の遠距離介護のため、誰かの協力がないと介護が成り立たないということもありました。中には、「誰にも伝えずに隠し通す」という選択をする方もいるかもしれません。
今日は、親が認知症になったという事実を、周囲にどう伝えていったか、伝えた結果、どのようなことが起こったかについてお話します。
介護を始めてすぐは、とても小さな輪だった
まずは、こちらをご覧ください。
これは、わたしが介護を始めた2012年12月当時の、母の介護を支える人たちを構図にしたものです。認知症の母を中心に、わたし(家族)、ケアマネージャー、ヘルパー、たったこれだけです。
この1年後、介護の輪はこのようになりました。
認知症のお薬をセットしてくれる「訪問看護師」と「薬剤師」、地域住民の相談に乗ってくれる「民生委員」、手足の不自由な母のリハビリを担当する「作業療法士」、24時間体制で「在宅医療を行う病院」、「ご近所」など、介護の輪はこんなに大きくなりました。
なぜたった1年で、ここまで介護の輪は大きくなったのでしょう?
介護の輪を大きくするために
まず、母を病院へ連れて行き、認知症と診断されたことで、医療だけでなく、介護にも強いかかりつけ医から、たくさんのアドバイスがあったことが大きいです。訪問による服薬管理やリハビリを提案してくれたことで、関わる人数がグッと増えました。
祖母の死も関係しています。祖母が亡くなった際、わたしは喪主を務めたのですが、葬儀で、めったに会わない親族が集合したので、この機会を逃すまいと、すべての親族に母が認知症であることを伝えたのです。また、葬儀で来客が増えて騒がしくなったご挨拶で、ご近所を回った際も、母が認知症であることを説明しました。
1年で介護の輪が急拡大したのは、介護者であるわたしが積極的に認知症であることを伝えたからだと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
「チャンスが巡ってきたら、自然の流れで認知症であることを伝える」というスタンスだったのです。
認知症であることを伝えるメリット
母が認知症であることを伝えたお陰で、近くに住む親族や古くから知っているお隣さんが心配してくれて、家の様子を見に来てくれるようになりました。
ただ定期的に家に来てくれるわけではなく、あくまで訪問する側が気になった時に来るので、介護の戦力として期待はできません。しかし、東京と岩手を往復する私にとっては、精神的な支えになっていることは間違いありません。
認知症であることを伝えるのが、難しいケースもあります。例えば、母の住む実家には、町内会があります。地区の班長に伝えたいと思うのですが、班長は任期制で次々と変わるため、把握できず伝えられません。また、民生委員も任期があるため、同じようなことが起きます。
認知症であることを伝えるデメリット
ご近所に、母親が認知症でわたしが遠距離介護をしている事実を伝えたら、「火の元は、どうしているの?」という質問を受けたことがあります。
ご近所の方は、認知症の母が火元になって、自分の家に火が燃え移る心配をされて、そのように質問したのだと思います。自動消火装置の付いたガスレンジに変えたことを伝えると安心していましたが、認知症の人が近くに居ることで、自分の家に何か影響があるのではないか?と考える人もいるようです。
亡くなった認知症の祖母が、近所の庭に入ってしまったことがあったのですが、前もって伝えておくと、何かあった時に介護する側も安心ですし、ご近所もその理由を理解してくれます。
わたしは恵まれている方だと思いますが、中には認知症に対するネガティブなイメージから、事実を伝えたことで逆に介護がしづらくなるケースもあると思います。判断はそれぞれの家の事情によりますが、まずは地域の事情をよく知る民生委員などに相談してみるところから始めるといいと思います。
伝えることで、さらに大きくなる介護の輪
わたしは、本やブログなどで母の認知症介護について書いています。すると、全国の医療・介護職の方々、同じ介護家族から、たくさんのアドバイスが寄せられるようになりました。
他にも、認知症の講演会や介護仲間が集まるイベントに参加する機会が増えたことにより、介護仲間や医療・介護職のメンバーと知り合い、介護の輪はさらに大きくなりました。
他人の目が気になって、認知症であることを伝えられないという人もいると思います。しかし、誰かに伝えないと、ひとりで介護を抱えるということになり、介護者自身が精神的にも肉体的にも追い詰められてしまいます。
わたしが4年半もの間、遠距離介護を続けられているのは周りの支えがあるからです。認知症であることを伝え、介護の輪を大きくしておいて本当によかったと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)