【高血圧対策】減塩を意識せず“カリウム”を含む食材を“ちょい足し”するだけ「牛丼やカップラーメン、コンビニ飯もOK」にする方法を管理栄養士が伝授【1週間の献立付き】
欧米では尿に含まれるナトリウム(塩分)とカリウムの比率を指す「尿ナトカリ比(以下、ナトカリ比)」という指標が高血圧対策として注目されている。日本の“減塩”とは異なる、普段の食生活に「ちょい足し」する方法を専門家が解説する。
教えてくれた人
渡辺尚彦さん/“ミスター血圧”の異名を持つ医師・日本歯科大学内科客員教授、望月理恵子さん/健康検定協会理事長・管理栄養士
天然の降圧剤「カリウム」。無理なく高血圧を改善しよう
昨年10月に日本高血圧学会はナトカリ比の「目標値」を初めて発表。同学会は、腎臓病などの持病がない、健康な人の実現可能な目標値を「4未満」と定めた。
しかし、尿でナトカリ比を正確に測るのはハードルが高いことも事実だ。“ミスター血圧”の異名を持つ日本歯科大学内科客員教授の渡辺尚彦さんが言う。
「これまでナトカリ比が知られてこなかった理由のひとつに、『複数日にわたり24時間蓄尿が必要』という尿検査の手間があったことが考えられます。日本高血圧学会はそれを簡素化し『週に4日以上、無作為に異なる時間帯に採取した尿から平均値を算出する』ことを推奨していますが、それでもまだ気軽に測定できるとは言えません」
現在は、自宅で採尿し検査機関に郵送することでナトカリ比が測定できるキットなどが数千円で市販されているが、尿中のナトリウムやカリウムの濃度は前日の食事などの影響で大きく変化するうえ、日常的に把握するのは困難だ。
渡辺さんは細かい数字にこだわるのではなく、日々の食事でナトカリ比を意識することが大切だと説く。
「ナトリウムとカリウムはほぼ食事から体内に入るため、推定摂取量からおおよその比率を算出することができます。塩分を摂取した分、カリウムも増やすことで、ナトカリ比を改善することができるのです。カリウムは、“天然の降圧剤”とも呼ばれる優れた成分なので、例えば『今日は塩分を摂りすぎたので、カリウムが多いホウレンソウを足しておこう』といった発想で取り組むと、過剰な減塩や降圧剤に頼ることなく、普段の食生活で無理なく高血圧を改善することは十分に可能です」
実際に、渡辺さんの指導で野菜や果物などのカリウム摂取を心がけた患者のなかには、ナトカリ比を0.9〜1.5程度に保ち、3か月後には上の血圧が160mmHgから110〜120mmHg台まで下げられたケースもあったという。
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子さんが語る。
「カリウムは普段の食生活でも身近な栄養素のひとつです。例えば野菜ではホウレンソウなどの緑黄色野菜やキャベツなどの葉物、ジャガイモ・サトイモなどの芋類、納豆や豆腐などの大豆製品に多く含まれます。肉や魚で多いのは豚肉やマグロ、ホッケ、サバなど。また、バナナやキウイ、メロンなどの果物もカリウムが豊富な食材です」
本誌は食事摂取の時点でのナトカリ比を、日本高血圧学会が定める目標値「4未満」に抑える1週間(21食分)の献立案を作成。望月さん監修のもと、本文下部の図に示した。
牛丼やラーメン、コンビニ飯もOK!“ちょい足し”で血圧を改善
朝・昼・夕とも主食や主菜はご飯物からパン・麺類と肉・魚などが並ぶ。減塩を意識しなくとも、付け合わせの副菜を少し工夫するだけで、ナトカリ比は毎食4未満に収めることができる。
例えば月曜の昼。トンカツとご飯に「ちょい足し」するのは、定番の千切りキャベツと温泉卵だ。それだけで、ナトカリ比は0.54に収まる。
「トンカツとキャベツの組み合わせは、ナトカリ比で考えると賢い選択です。肉はロースでも構いませんが、ヒレのほうがカリウムとタンパク質を多く含むのでよりお勧め。千切りキャベツを温泉卵の味わいで食べることで調味料の塩分を抑えて効率よくナトカリ比を下げられます」(望月さん)
同様の工夫は牛丼でもできる。
「牛丼チェーン店で外食する際も、トッピングで大根おろしと温泉卵を追加すれば、約300mgのカリウムがプラスできます」(望月さん)
通常の塩分制限では“禁断”とされるラーメンも食べて大丈夫だと望月さん。
「トッピングの茹でキャベツやわかめでカリウムを足し、さらに食前や食後に牛乳を飲めばナトカリ比が改善できます。
カップラーメンも同様に、茹でもやしや豆サラダを付け合わせればナトカリ比は目標値内に収まります。茹で大豆など、缶詰や密封パックに入った豆類の食品はコンビニでも売られています。ちょい足しにはとても便利です」
晩酌ではどんな工夫が可能か。
「前提として適正量を守りつつ、お酒の種類を意識することが大切です。アルコール類ではビールとワインにカリウムが比較的多く、なかでも黒ビールは350ml缶で約190mgのカリウムが含まれます。おつまみの冷奴には醤油を使わず、ぬか漬けの塩分で食べれば、その分ナトカリ比の改善が可能です。ただし、カリウムは水溶性なので、ホウレンソウなどの野菜は茹ですぎないことが大事です。少量の水で電子レンジ調理をすると、カリウムが水に溶け出しにくくなります」(望月さん)
21食分の献立を通して見れば、塩分制限を意識しない従来の食生活でもナトカリ比を下げる余地が十分あることがわかる。
さらに渡辺さんはこう助言する。
「ナトリウム排出の観点からはカリウムの同時摂取が望ましいですが、昼に塩分の多いラーメンを食べたから夜は生野菜をたくさん食べる、という“後から戦略”でも構いません。その辺のゆるさ、いい加減さも大事な継続ポイントです」
もちろん、人によっては糖分や脂質にも気を配る必要がある。
「特に腎機能に異常がある人は、重症度によっては体内のカリウム濃度が高くなり不整脈などを起こす高カリウム血症のリスクがあるため、摂取が制限される場合があります。自己判断せずに、医師に相談のうえ実践してください」(渡辺さん)