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プロが教える在宅介護のヒント 在宅で療養する場合|在宅医・鈴木央さん<第3回>

在宅療養に「制限」や「条件」はある?

Q: 在宅では十分な医療が受けられないのでは?

A: 在宅医療が提供するのは「癒し、支え、見送る医療」です。治らない病気や障害を抱えている患者さんの生命力に任せ、小康を維持し、痛みや苦しみが日常生活になるべく影響しないよう、十分なケアを提供します。

 最期も、病院のような延命治療はしません。治らない病気や障害なら手術や入院はせず、自由に暮らし、静かに逝きたいという患者さんの希望に添うことが可能です。

 一方、「治す医療」という視点では在宅で提供できる医療は十分ではないので、病院で治療が必要です。

 病院の多くは療養する場所ではなく、できるだけ命を伸ばそうとする「治療の場」です。患者さんが最期まで積極的な治療を望むなら、病院では延命治療も進歩していて、患者さんの意思に応えられるかもしれません。

 医療は、どちらを選んでいただいても「十分」に応えるように努めます。ただし、どちらを選んでも、残念ながらすべての命には限りがあるので、僕は「自分が望む場所で療養したい」というご本人の希望は無視できるものではないと考えています。

Q: どんな病気や障害でも可能?

A: 特別な医療機器や環境が必要でない病気や障害なら、在宅で療養することができます。また、高齢者はいくつかの病気や障害を併せ持つことが多いですが、それも心配ありません。

 医師会などを中心に、医療の分野では在宅対応力を向上させる取り組みを積極的に行っています。医師の経験や、得手不得手がまちまちであっても、在宅に提供される医療の質が保たれるよう、在宅医は、横の連携を強め、補い合っています。とくに高齢者の在宅医療で起こりやすい心や体の問題に対するケアについては勉強しています。

 とはいえ、僕は、在宅医として1人前になれたと自覚するまで10年かかりました。ですから、在宅医の医療に対してご心配はもっともだと思います。

 在宅医を選ぶときには医師の経験や、考え方、仲間の有無などを尋ねるといいかもしれません。

 また、ご家族から「体の病気と違って、認知症の場合は在宅療養や看取りは難しいのでは?」と問われることがありますが、僕は「そんなことはありません」と答えています。認知症という病気を理解すれば、むしろ病院に入院するなどして環境が変わるより、住み慣れた場所で療養する方が、症状が安定することが多いためです。

 入院すると、患者さんはそこが病院だと分からず、家に帰ろうとして止められることで混乱し、症状が悪化することがあります。患者さんの意思や症状、ご家族の介護負担、家庭の事情などを総合的に考えて療養の場を選ぶのがよく、在宅医やケアマネジャーが相談にのることができます。

Q: 「老々介護世帯」「独居高齢者世帯」では無理?

A: 患者さんが「家にいたい」と強く希望している場合、どのような家庭環境にあっても希望を叶えるにはどうするか、医療・介護のプランを考えるのが在宅医やケアマネジャーの役割です。家族構成に条件はなく、高齢者世帯も、独居も在宅で療養することができます。

 僕の患者さんで、独居の認知症の人がいらっしゃいましたが、ご近所さんのサポートがあり、希望通り自宅で生活を続け、最期を看取りました。

 一方、大柄な患者さんと小柄な介護者のご夫婦では、患者さんが手すりに捕まっても立ち姿勢を保つことができなくなった段階で療養の場を見直すお手伝いをしたことがあります。患者さんやご家族の意思、状況は変わりますから、臨機応変に考えます。

平穏な日常の中にある在宅での療養、看取り

 在宅療養が始まるとき、患者さんやご家族のほとんどが不安を口にします。介護を経験するのが初めてだったり、家で人が療養したり、亡くなったりすることに立ち会ったことがなければ、不安は当然のことです。

 患者さんやご家族の不安に対応することも、僕ら医療・介護のチームの役割なので、不安や疑問をぶつけ、解消してください。気兼ねせず話せるようになる頃には多くのご家族が「最初は不安だったけれど、自分たちにもできる気がしてきた」などとおっしゃるようになります。

 看取りについても、恐ろしいことが起こるのではないかと心配される場合もありますが、医療・介護のチームが支援すれば穏やかな最期を迎える人がほとんどで、ご家族も安堵されます。

 病院では、亡くなる瞬間も心臓マッサージを施すなどがしばしば行われ、患者さんにとってそれが幸せか、ご家族が苦慮されることもありますが、在宅医療では無理な延命治療は行わないので、僕の印象では病院に比べて患者さん、ご家族の苦痛は少ないように思います。

 患者さんが亡くなった後、ご遺族の悲しみが深く、専門的な援助が必要な場合、医療・介護のチームは引き続きご家族を支えます。このケアを「グリーフケア」と言います。ここで詳しいことをご紹介するのは避けますが、深い悲しみによって日常生活に支障をきたすような場合、遺族はグリーフケアを受けることができることを知っておきましょう。

 次回は在宅療養中に容体が悪化するなど困りごとが起きた場合の対応についてお伝えします。

 

鈴木央先生

鈴木 央さん:鈴木内科医院(東京、大田区大森)院長、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長。都南総合病院の内科部長時代には在宅診療部を立ち上げ、在宅医療推進の必要性を実感。1999年、日本のがん緩和ケアの第一人者であった父の鈴木荘一前院長と共に「患者の生活を支える町医者になる」と決め、副院長に就任。同院はその数年前から内科、消化器内科、老年内科の外来診療の傍ら、認知症などがん以外の病気も含めて在宅療養を支える診療所として365日、24時間対応している。「長生きをするための情報はたくさんあるが、どのように最期を迎えるかは情報が少ないですね。皆で、穏やかに逝くためにはどうしたらいいか、考える時代に入ったと思います」。

取材・文/下平貴子

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