転倒を招く7つの原因|下半身の筋力低下を防ぐ1分体操「ギリギリスクワット」とは?【専門医解説】
高齢者にとって最も注意すべきなのが「転倒」だ。転倒は骨折を引き起こし、寝たきりや要介護状態を招くことで、健康寿命を大きく縮める要因となる。早稲田大学の金岡恒治教授(整形外科専門医)は、足の衰えには7つの原因があると指摘する。「適切な対策を行えば、転倒は防げます」と語る金岡教授。今日から始められる“1分体操”で、歩く力を取り戻そう。
教えてくれた人
金岡恒治さん/早稲田大学スポーツ科学学術院教授・整形外科医
健康寿命の最大の敵は転倒
人生100年時代、健康寿命に立ちはだかる最大の敵は「転倒」である。転倒は骨折から要介護状態や寝たきり直結する。日本人男性の健康寿命は平均寿命より9年短く、転倒しない「健脚」を保つことが肝要だ。『よくつまずく 転ぶ・ふらつく 自力で克服!名医が教える最新1分体操大全』(文響社刊)の著者で、早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡恒治教授(整形外科専門医)が指摘する。
「健脚を保つ第一歩は、日常生活で美しい姿勢をキープすること。そのうえで『段差につまずく』『足がもつれる』といった日常生活での症状から歩く力が衰えた原因を見極め、原因別の対策を行なうことが重要です」(以下、「」内は金岡教授)
美しい姿勢
・肩甲骨を背骨側に寄せる
・視線はまっすぐ
・あごを引く
・お腹をへこませる
歩く力の衰え、考えられる7つの原因
金岡教授によれば、歩く力の衰えには7つの原因があるという。
「【1】足首と股関節の可動性低下、【2】下半身の筋力低下、【3】脳と筋肉の協調性の衰え、【4】体幹のコンディション不良、【5】目・耳・足裏のバランス感覚の衰え、【6】足腰の痛みや病気、【7】薬の影響です。
7つ目の『薬の影響』は不整脈の薬や降圧剤などが原因となることがあるため、医師への相談が必要ですが、残りの6つは原因に応じて『1分体操』を行なえば、自力で克服できます」
金岡教授の診療を受けた80代男性は、内臓の病気による2週間の入院で足腰が弱りふらつくようになったが、後述する1分体操の「ギリギリスクワット」などを実践し、ふらつきが減って転倒リスクが解消されたという。
小さな段差でのつまずきが増えたら「ウェイト・シフト・スクワット」
小さな段差でつまずいたり、爪先がひっかかったりするのは、足首と股関節の可動性低下のサインだという。
「足首の可動性が低下すると爪先が十分に上がらず、つまずきやすくなり、股関節の動きが悪くなると太ももが上がらず歩行不安定になる。関節は動かさないとどんどん硬くなって他の関節や筋肉に悪影響を及ぼします」
そこで役立つのが前スポーツ庁長官で東京科学大学副学長の室伏広治氏が考案した「ウェイト・シフト・スクワット」だと金岡教授は指摘する。
「スキーの動作のように足裏を左右に傾けて行なうスクワットです。足を曲げ伸ばしして股関節の可動性を向上させ、足裏の角度を変えることで足首の可動性を高める。おしり、太もも、足裏の筋力も強まります」
「ウェイト・シフト・スクワット」のやり方
足首と股関節の可動性低下を改善する「ウエイト・シフト・スクワット」。1セット【1】~【3】を3回行う1日1セット。
【1】ふらいつた時に手がつけるように壁の近くで行う。両足を肩幅ほどに開いて立ち、両手を腰にあてる。
【2】左足の親指側と右足の小指側に体重をかけ、体の重心を右側に移動する。(左足裏…小指側の足裏を浮かせ、親指側の足裏に体重をのせる。右足裏…親指側の足裏を浮かせ、小指側の足裏に体重をのせる)
【3】【2】の状態のまま、ゆっくりと可能なところまで腰を落とす。落としきったら、ゆっくりと立ち上がり【2】の姿勢に戻る。次に重心を左側に移動させ、同様に行う
※体操の出典:スポーツ庁ホームページ 室伏広治東京科学大学副学長考案の「動作改善エクササイズ」(Koji Awareness)
踏ん張りがきかない、足元がふらつくなど下半身の筋肉の低下には「ギリギリスクワット」
おしりや太もも、すねやふくらはぎなど、下半身の筋肉は「歩く力」の土台となる。加齢によりこれらの筋肉が衰えると、転倒やつまずきのリスクが一気に高まる。
踏ん張りがきかない、足元がふらつくといった症状がある人に、金岡教授が推奨するのが「ギリギリスクワット」だ。
椅子に腰掛ける際、そのまま座るのではなくおしりが座面に着く寸前で体を止め、5秒間キープする。継続することで筋力低下の予防が期待できるという。
「ポイントは、呼吸を止めないようにし、背中を伸ばしたまま行なうことです。椅子や洋式トイレに座るときなど日常生活の腰掛け動作のついでに習慣づけると、知らず知らずのうちに筋肉が鍛えられていきます」
「ギリギリスクワット」のやり方
下半身の筋力低下を改善する「ギリギリスクワット」。1セット【1】~【3】を3回行う。1日2セット。
【1】椅子の前に立ち、背筋を伸ばして両足を肩幅ほどに開く。
【2】口から息を吐きながら、おしりを後方にひいて椅子に腰掛けるようにゆっくりと腰を落とし、お尻が座面につく寸前で止めて5秒キープ。この間は自然呼吸をする。
【3】鼻から息を吐きながらゆっくりと【1】の姿勢に戻る
取材・文/池田道大 イラスト/タナカデザイン
※週刊ポスト2025年11月7日・14日号
