《家族に死に際を見せた父ちゃん》「お腹はまだ温かいね」夫の最期に母娘で寄り添った倉田真由美さん 緩和ケア医・萬田緑平さん「死んでいく姿を見せるのは大切なこと」
漫画家の倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)を自宅で看取った。叶井さんが愛してやまなかった娘、そして妻はその刻をどう迎えたのか――。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』に収録された在宅緩和ケア医・萬田緑平さんとの対談から、一部抜粋してお届けする。 【全3回の第2回】
家族に「死に際」を見せた父ちゃん
萬田緑平(以下、萬田):娘さんは、近くでお父さんの姿を見ていたんでしょ?
倉田真由美(以下、倉田):夜中に亡くなった時、娘は自分の部屋にいたから、「父ちゃん、死んじゃったよ」と伝えて。訪問医の先生が来るまでの時間に、娘と二人で夫のお腹に触れていました。手は冷たくなっているのに、お腹はまだ温かいねって…。
萬田:子どもや孫に死んでいく姿を見せるというのも大切なことなんですよ。最期まで頑張って生きて、食べられなくなって、動けなくなって、目が覚めなくなって、亡くなっていく。死後、体が冷たくなって最後は骨になる。その過程を間近で見る経験をすることで、その後の人生観が変わると思います。
倉田:そうですね。私も初めて人が亡くなる瞬間を見届けました。その瞬間に立ち会うことって、そんなにないですよね。
うちは父親が病院で亡くなっているんですけど、最期は人工呼吸器をつけていたので。延命治療はしないと決めていたのに、医師にこのままだと死んでしまうからと言われて、母が受け入れてしまった。
結局父はその状態で3週間、病院のベッドで生きていたのですが、最期は意識はないのにとても苦しそうでした。それを見て妹がかわいそうだって、泣いていて…。
萬田:医師の仕事は、少しでも生存率を上げて、死亡率を下げることですからね。患者さんを死なせないために、少しでも長く延命させなければならない。最期に病院に行ってしまったら、そういう看取りになってしまうんです。
倉田:夫は最期まで家にいられてよかった。私もこういう風に逝きたいと思うようになりました。
萬田:いい看取りができていると、自分もそうしたいと思うご家族は多いですよ。お嬢さんが父親の姿を見ているから、あなたのその願いが叶う確率は高いと思います。
医療ケアの態勢を整えれば、旅もできる
萬田:私は常々、「病気と診断される前から、やりたいことはやっておくべき」だと発信しています。人はいつ死ぬかわからないから、いつ死んでもいいように生きたほうがいい。がんと診断されたら終わりじゃなくて、「世界一周旅行に行くぞ」と思えば、見える景色が変わると思いませんか。
倉田:確かにそうですね。夫は病気になってからも国内や近場の旅はしていましたけど、やっぱり海外は躊躇していたかも。何かあった時どうするんだろう、とかね。
萬田:医療ケアの態勢を整えれば、旅もできるんですよ。余命宣告されたとしても、そして元気な人も、悔いのない生き方をしなくちゃ。私自身、生きているうちに叶えたいことをメモしておいて、ひとつずつクリアしているんです。この夏、妻と世界一周船の旅でオーロラを見にいくんですよ。この旅はがん患者さんとのクルーズツアーの下見を兼ねているんですけどね(笑い)。
倉田:萬田先生らしいですね。
医師と患者をつなぐコーディネーターに
萬田:治療法にしても、終末期の過ごし方についても、医師の言いなりになるんじゃなくて、自分がどうしたいのか、どう生きたいのかを優先してほしいと思います。
患者さんが医師から病状や治療の説明を受ける時、そこに同席する専門の医師がいたらいいなと思うんですよ。その医師は、あらかじめ患者さんの意向や希望を聞いて、主治医の説明をかみ砕いて、伝えるコーディネーターのような役割をする。
納得いかなかったら、主治医に別の方法はないかと、言えるじゃないですか。そんな役割を担う医師をいずれやってみたいなと思っています。
倉田:それ、いいですね。患者は医者の言うとおりの選択しかできないことが多いですから、専門の人が同席してくれたら、患者さんも家族も後悔しない選択ができるかもしれませんね。でも萬田先生が同行したら、医者は嫌がりそうですけど(笑い)。
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「幸せな最期の迎え方」をメインテーマに、約2時間に及んだ対談の内容は多岐にわたっている。家族とともに、最期までどこでどう生きていきたいか、考えるきっかけを与えてくれる内容となっている。
取材・文/桜田容子 撮影/五十嵐美弥

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