「悔いのない幸せな最期だった」女優・杉田かおるさんが振り返る母の在宅介護と看取り|幸せな在宅死のために医師が教える大切な5つのこと
「病院で延命治療を続けるよりも、自宅に戻って最期を迎えたい」。人生最後の過ごしかたとして在宅医療を選ぶ人も増えている。実際に母親を自宅て看取った女優の杉田かおるさん(60才)は「貴重な時間だった」と当時を振り返る。穏やかな最期を自宅で迎えるために、大切にしたいポイントを医師に聞いた。
教えてくれた人
杉田かおるさん/女優、岩間洋亮さん/東京都品川区医師会理事・心越クリニック院長
自宅で母を看取った杉田かおるさん「在宅医療は“母と過ごせるご褒美の時間”」だった
「ものすごく大変だったけど、家で母と過ごした時間は何物にも代えがたいものでした」
こう振り返るのは、2018年に母親を亡くした女優の杉田かおるさん(60才)。亡くなるまでの約4年間、自宅で母を看た。
「母はかねてから慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患っていて、13年8月に倒れて救急搬送された際に余命は最長で4年だと告げられました。退院時には高齢者施設も考えましたが、これは“母と過ごせるご褒美の時間”だと思い、在宅医療を選びました」
24時間の在宅酸素療法が必要な状態だったため、自宅に重い酸素ボンベを運び込み、「母を看取ることが私の仕事」と心を決め、俳優の仕事を休んで介護に専念した。
胃腸が丈夫で食欲もある母のために、栄養バランスを考えながら朝昼夜の食事を作った。トイレや入浴の介助、移動のたびに車椅子に乗せるなど体力的な負担は大きかったが、それ以上に苦労したのが、血中酸素濃度のチェックだった。
「母の血中酸素濃度はちょっと動くだけで変わってしまうので、片時も目が離せない。命の見張りをするような毎日に、私も睡眠不足と過労で体調を崩してしまったこともありました」(杉田さん)
訪問医には月2回、看護師には週1~2回来てもらい、状態に応じてケアマネージャーともこまめに打ち合わせをした。
COPDは回復の見込みはなく、徐々に衰えていく姿を見守り続けることも精神的に辛かったが、それでも「母の笑顔が救いだった」と杉田さんは言う。
「たまたま、テレビで私のデビュー作『パパと呼ばないで』(日本テレビ系)の再放送をしていた時期があったんです。母と一緒にドラマを見ながら“あの時は、あんなことがあったわね”と思い出話がたくさんできて、すごく幸せでした。
介護ベッドを置いた部屋が病室みたいにならないよう、オシャレなインテリアにして、アロマを焚いたり音楽かけたり。母は読書が好きだったので、分厚い本も置いて読めるような書見台を用意したり。俳句好きだった母のために自宅で俳句の会を開いたこともあります。病室では決してできない自宅ならではの生活でした」
母の容体が急変したのは、2017年秋のことだった。呼吸リハビリテーションの病院に向かう介護タクシーのなかで心肺停止に陥り、ICUに運ばれたのだ。この時は一命を取り留めたものの、重篤な症状のため在宅医療に限界があり、入院せざるをえなくなった。
そして2018年1月6日、母は息を引き取った。
「本当に眠っているようで、若返ったようにきれいな顔をしていました。とても穏やかな表情で、安らかに逝けたのだなとホッとしました」
亡くなる1週間前、杉田さんは母にこう聞かれた。
「お母さんといて楽しかった?」
杉田さんが「すごく楽しかったよ」と答えると、母は笑ってこう言ったという。
「“お母さんはもっと楽しかったよ”って。自宅で共に過ごす日々があったからこそ迎えられた、悔いのない幸せな最期だったと思います」(同前)
在宅で看取る際、ひとりで頑張りすぎないことが大切
母を自宅で看た4年間、杉田さんが気をつけていたのは「無理をしすぎない」ことだったという。
「在宅介護の日々は、避けられない“死の恐怖”を少しずつ取り除いていく時間でもありました。自分の心に余裕がなくなれば感情のコントロールができなくなって、イライラをぶつけてしまうかもしれない。とにかく穏やかに過ごすことを意識していました。
もちろん、それでも頑張りすぎてしまうことはあって、やはり患者の家族の負担は非常に大きい。綺麗ごとでは済まないし、一人で背負うのはとても無理です。医者や看護師の方々に頼りっぱなしでした」(杉田さん)
東京の品川区医師会理事で地域の在宅医療全般を担う心越クリニック院長の岩間洋亮医師もこう話す。
「在宅で看取る際、ひとりで頑張りすぎないことが大切です。しっかりと訪問診療や訪問介護に頼りきる。その点を忘れないでください」
だからこそ、穏やかな在宅死を実現するには自分に合った訪問医選びが欠かせない。医師によっては希望する処置をしてくれないケースも少なくないからだ。
まず自治体の地域包括支援センターでケアマネージャーを探し、そこから訪問医と契約をするのが一般的だが、杉田さんは「どこにどんな訪問医がいるかは地域包括センターでも分からないことが多かった」と振り返る。
医師が勧める「地域の医師会」
そこで岩間医師が勧めるのが、「地域の医師会」に聞くことだ。
「“自宅での看取りを考えているのですが、いい訪問診療の先生はいますか?”と聞けば、医師会はちゃんと教えてくれます。もしその訪問医が合わないと思ったら、ケアマネさんに相談して、別のクリニックを紹介してもらえばいい。相性のよくない医師に我慢しながら従っていると、自分が望まないような医療を提供されることにもなりかねません」
訪問医選びは費用にも関係してくる。
健康保険の監査などを担当する品川区医師会保険部の理事も務める岩間医師は、訪問診療における保険料支払いのなかに不可解な出費を見つけることがあるという。
「本来、在宅医療は入院よりも費用が低く抑えられるものです。75才以上で1割負担の人なら、夜間の電話対応や材料費なども含めて、ひと月当たり6000~8000円程度の医療費で済むことが多い。ところが訪問医のなかには必要のない高額の酸素吸入機器を使ったり、不当に高い交通費を取ったりするケースが見受けられるのです」(同前)
合わなければ替えていい
医者と同様、ケアマネージャーも相性の良し悪しはある。
「“替えてはいけない”と思っている人も多いのですが、ケアマネ自体も替えていいのです。ケアマネの質によって患者が受けられるサービスの幅がまったく違うものになりますから。信頼できる訪問医とケアマネを見つけ、つながっておくことが大切なポイントだといえます」(同前)
いつかは必ず訪れる“その日”のために、万全に準備をしておきたい。
幸せな在宅死を迎えるためのポイント
上記に記載されているほかに、幸せな在宅死を迎えるために意識すべき点を5つにまとめた。
【意識すべきこと1】
地域の医師会で訪問医を探す。
<理由>
地域包括支援センターでも探せない、在宅医療のスペシャリスト医師を紹介してくれる。
【意識すべきこと2】
ケアマネや訪問医が合わないと思ったらすぐに替える。
<理由>
相性の悪いケアマネや医師に我慢して任せていると、望まぬ治療行為が行なわれかねない。合わないと感じたら速やかに変更したい旨を申し出る。
【意識すべきこと3】
救急車を呼ばない。
<理由>
意識を失った際など家族が救急車を呼んでしまうと、そのまま入院させられるケースが多い。いざという時は救急車ではなく担当の訪問医を呼ぶ、という点を家族で共有しておく。
【意識すべきこと4】
本人の意思を最優先する。
<理由>
家族が過度な治療を求めてしまうケースは多い。だが「どう死ぬか」は本人の意思が最優先。家族全員で本人の意思を共有し、委ねる気持ちを持つ。
【意識すべきこと5】
家族は頑張りすぎない。
<理由>
看病する家族が倒れてしまうことも。訪問医や訪問看護師を「頼り切る」という姿勢が大事。
※週刊ポスト2025年10月10日号
●専門医が教える「自宅で最期を迎えるための準備」訪問診療と家族への伝え方