【歯科医師解説】部分入れ歯のお手入れ方法と洗浄剤の選び方「金属の有無で異なるので注意が必要」
50代から装着率が増えるとされる「部分入れ歯」。今は、高齢になってもいわゆる「総入れ歯」より「部分入れ歯」を使っている人の割合が多い。そこで、高齢者の口腔ケアにも力を入れている歯科医師に、部分入れ歯のお手入れ方法や洗浄剤の選び方、使い方の注意ポイントについて聞いた。
入れ歯を清潔に保つお手入れ方法
「部分入れ歯も総入れ歯も、入れ歯についた汚れや細菌は、水洗いするだけでは落ちないため、洗浄剤を使うのがおすすめです」
こう話すのは、高齢者の口腔ケアにも力を入れている、歯科医の相澤明江さんだ。
「入れ歯のお手入れは、専用の歯ブラシや超音波洗浄器を使って食べかすなどの汚れを落としてから、洗浄剤を使うことで効果的に洗浄でき、清潔な状態で使うことができます」(相澤さん、以下同)
入れ歯の洗浄剤には、さまざまな種類があり、目的や用途によって選び方が異なるという。正しい選び方を相澤さんに解説いただいた。
入れ歯洗浄剤のタイプや選び方
「入れ歯には金属が使用されていないタイプと、バネなどの金属が使われているタイプがあり、それぞれ使える洗浄剤が違います。まずは、使っている入れ歯に金属の金具や部品が付いているか確認してください」と、相澤さん。
部分入れ歯には多くの場合、金属が使用されているため、選んではいけない洗浄剤があるという。
「部分入れ歯を含め、入れ歯洗浄剤には、『中性』や『アルカリ性』『酸性』など薬性のタイプがあります。パッケージに記載されていているので、必ず確認してください。
市販の洗浄剤は、『中性』や『弱アルカリ性』のものは安全性が高く、もっとも普及しています。
ほとんどの入れ歯洗浄剤には除菌効果はありますが、さらに食べかすなどのたんぱく質汚れを分解洗浄してくれる『酵素』を配合しているものを選ぶことで、洗浄力が高まります。
また、たばこのヤニや茶渋などの着色汚れを落としたい場合は、『アルカリ性』のものや『漂白成分』を配合したものを選ぶといいでしょう。
一方、『酸性』は、歯石汚れを落とす効果は高いのですが、入れ歯に使用されている金属が変色してしまうものもあるため、注意が必要です。心配な場合は、『部分入れ歯専用』のものを選んでおきましょう。
ただし、『酸性』でも、一般家庭で安心して使える有機酸を使っている場合は、金属のバネが変色する可能性は低いと考えられます。
また、歯科医院専用の『酸性』『アルカリ性』タイプは、取り扱いに注意が必要なのでご使用の際には医師に相談する必要があります」
・汚れをしっかり落としたいときは「酵素入り」を
「しっかり洗浄したいときには、『酵素』配合の洗浄剤に一晩つけおきすることをおすすめします」
・「生薬」を使った入れ歯洗浄剤もおすすめ
「洗浄剤の中には、お茶の成分であるフラボノイドや蜂蜜に含まれるプロポリスなど天然の成分で消臭や除菌をするタイプもあります。
主成分が生薬系のものは、安全性が高く、入れ歯調整剤などを使用している場合にもご使用いただけます。ただし、消臭・除菌がメインなので汚れを除去する効果は期待できないものがほとんどです」
入れ歯洗浄剤の形状
入れ歯洗浄剤の形状は、錠剤のほか、泡で出てくるタイプ、シート状、顆粒などさまざまなものがある。
・泡タイプで手軽に洗浄
「自宅で毎日使うには錠剤を使い、時間はがないときには泡タイプの洗浄剤で入れ歯を手軽に洗浄するという方法も」
「泡タイプのものは、食後に歯磨きする感覚で入れ歯を洗浄する際の歯磨き粉代わりに使えます」
・顆粒やシート状など用途に合わせて選ぶ手も
「手や指先が不自由な高齢者の方など、包装から錠剤を取り出すことが困難な方には、ワンタッチで使用できる顆粒タイプもあります。
また、外出時には、入れ歯用の洗浄シートなど、持ち運べるタイプもおすすめです」
効果的な入れ歯洗浄剤の使い方
「洗浄剤を水に溶かすときは、水の温度が低いと効果が弱まる場合があります。40~50度のぬるま湯を使用すると発泡力がアップして、より洗浄効果が高まるのでおすすめです」
ただし、60度以上の高温で洗浄すると入れ歯が変色変形するので、熱いお湯の使用は厳禁。使用する際は、取扱説明書を確認すること。
入れ歯の洗浄の頻度と注意ポイント
「入れ歯はなるべく毎食後に取り外して洗ってください。そして、寝る前には入れ歯用ブラシで磨いてから、洗浄剤につけておきをしましょう。また、翌朝使うときには、入れ歯を洗浄剤から取り出してよく洗ってから装着してください」
洗浄剤を使うときは、以下の点に注意してほしいという。
・普通の歯ブラシや歯磨き粉の使用はNG。
・必ず入れ歯専用のブラシを使用する。
・洗浄剤は決められた量を使用する。
・入れ歯を使う前によく水洗いをする
「歯ブラシや歯磨き粉を使って入れ歯を清掃するのはやめましょう。入れ歯を歯ブラシで強くこすったり、研磨剤の入った歯磨き粉で磨くと、入れ歯に目には見えない細かい傷が付き、かえって汚れや細菌が付着しやすくなります。必ず入れ歯専用のブラシを使うか、超音波洗浄器で洗浄するようにしてください。
また、洗浄剤は決められた量を守ること。たくさんの量を入れても洗浄力が上がるということはありません。
高齢者の方にとっても口腔ケアは大切です。総入れ歯も部分入れ歯もきちんと洗浄し、お口の中を常に清潔に保つことが、より健康な生活にも繋がっていきます。洗浄剤は正しい用法を守って、使用してください」
教えてくれた人
歯科医・相澤明江さん
日本抗加齢医学会 専門医、日本歯周病学会 認定医。昭和大学歯学部を卒業後、勤務医を経て2015年に「あいさわ歯科医院」(東京都中央区)を開業。https://aisawa-dental.com/ 子供から高齢者までの幅広い世代の口腔ケアや治療に尽力している。昭和大学高齢者歯科学教室・研究生在籍。顎関節症の症状を緩和するエステサロン「panacea」も併設。https://www.panacea-lp.com/
取材・文/本上夕貴
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