「脊柱管狭窄症」腰の痛みを和らげる生活習慣<ベタ足歩行・5本指ソックス・軽い布団>【専門医解説】
運動不足や不適切な姿勢など、毎日の何気ない行動が腰痛を引き起こしている。症状が悪化すると排便・排尿障害や最悪の場合、寝たきりになる可能性もあるため注意が必要だ。腰の痛みを予防する日常生活のポイントを専門家に聞いた。
教えてくれた人
清水伸一さん/清水整形外科クリニック院長
バッグ、靴下、お風呂…。腰の痛みを左右する選択
推定1200万人とされる日本の腰痛患者。この国民病のなかで、特に多くの患者を悩ませているのが脊柱管狭窄症だ。
腰痛治療に精通し、「Dr.清水式」と呼ばれる脊柱管狭窄症の治療メソッドを確立した清水伸一さん(清水整形外科クリニック院長)が指摘する。
「背中を縦に貫く神経の通り道『脊柱管』が加齢などで狭くなり管の中の神経が圧迫され、足腰に痛みやしびれを生じます。人により排便・排尿障害を引き起こし、歩行困難や『ロコモティブシンドローム(運動器症候群)』の大きな要因となります。転倒して大腿骨の骨折などを招くと最悪の場合、寝たきりとなり要介護状態のリスクを高めます」
日本整形外科学会の調査では70代の10人に1人が罹患しているとされる脊柱管狭窄症だが、「長年積み重ねた生活習慣によるところが大きい」と清水さん。
「『体の前後左右のバランス』が崩れる姿勢を続けることで腰椎を構成する椎骨や椎骨をつなぐ軟骨の椎間板にダメージが溜まります。長時間座る仕事や運転をする人は腰の筋肉が凝り、血流を悪くするだけでなく姿勢の悪化によって椎骨が前後にズレてしまうと神経を圧迫します。また、よく頬杖をつくなど体の片側に重心がかかる姿勢を続けると腰椎が横に曲がる腰椎変性側弯症を起こします。これらが脊柱管狭窄症の主な原因となります」
日常生活ですでに痛みが出ている場合、どんな点に注意をして生活を送るといいのか。
「痛みを和らげるには少し前屈みの姿勢を取ることが大切です。この姿勢になると狭まった脊柱管が広がって神経の圧迫が緩みます。例えばカバンを持つ場合は肩掛けのショルダーバッグよりリュックを背負うほうがいい。片方の肩で重い荷物を持つと重心が崩れて腰に大きな負担がかかりますが、リュックは重心のバランスが取りやすいため痛みの改善につながります。リュックの上部に重い物を入れるとよりバランスよく背負えます」(清水さん、以下「 」内は同じ)
靴下にも痛みを和らげるヒントがある。
「5本指ソックスを履くと歩行時に足の踏ん張りが利いてバランスが改善されます。また、つま先とかかとを同時に地面につけて足底全体で歩く『ベタ足歩行』を心がけると前後左右に体が偏らず腰を痛めずに歩くことができます」
入浴はシャワーで済ませるのではなく、毎日湯船に浸かって腰の筋肉の緊張をほぐすことも大切だ。
このほか、痛みを消す習慣として清水さんは就寝時の姿勢を挙げる。
「横向きで寝る際は、ひざを曲げて腰を丸めるようにしましょう。仰向けの場合はひざの下に座布団などを挟んで寝ると腰の負担が減ります」
サンダルでの移動やあぐら座りは腰に悪影響
腰痛を悪化させる要因になるのが、サンダルを履くことだと清水さんは指摘する。
「特に歩くたびにかかとがパタパタ開くようなサンダルはよくない。地面を踏ん張って歩くことができないため腰に負担がかかります。近所に出かける時でも必ず靴を履きましょう。クッション性のあるスニーカーが理想です」
床であぐらをかくのも避けたい。
「背骨のバランスが崩れて痛みが悪化します。室内でも椅子に座るようにしてください。ただし、長時間同じ姿勢で座り続けるのも腰に悪影響です。30分に一度はやや前方に腰を伸ばすことを忘れずに」
就寝時は横向きか仰向けが望ましいとしたが、かける布団には注意が必要だ。
「重い掛け布団は寝返りが打てず足腰の血流が悪化します。痛みが出ている時は軽い布団にしましょう」
ラジオ体操は腰痛にとって逆効果になりかねない。
「症状によっては腰を反らして大きくひねる動きによって痛みが悪化する人もいるので、注意しましょう」
腰の痛みを消すor悪化させる習慣
「腰」に精通する名医に聞いた「痛みを消す」or「悪化させる」習慣を一覧にした。毎日の生活で無意識に行っていないかチェックしよう!
腰の痛みを消す習慣
※項目/ポイント
【1】リュックを背負う
重心のバランスが取りやすい。肩のベルトは伸ばさずに体にフィットさせる
【2】5本指ソックスを履く
歩行時に足の踏ん張りが利いて体のバランスが改善される
【3】ベタ足歩行をする
つま先、かかとを同時に地面につけて足底全体で歩くと転倒を防いで腰を痛めにくい
【4】自転車に乗る
腰の深部筋肉が鍛えられる
【5】片ひざをついて荷物を持ち上げる
重い荷物を持ち上げる時は片ひざをついてしゃがんで持ち上げる
【6】毎日入浴する
筋肉の硬直をほぐし、腰の痛みを軽減する
【7】横向きか仰向けで寝る
横向きは少しひざを曲げて腰を丸め、仰向けはひざの下に丸めた座布団などを挟んで寝る
【8】フルーツを食べる
椎間板の主成分のコラーゲンを作るのに必須
腰を悪化させる習慣
※項目/ポイント
【1】ショルダーバッグを身につける
同じ側の肩にばかり負荷がかかると背骨や骨盤が歪む
【2】サンダルを常用する
つま先が開いていると地面を踏ん張って歩くことができず、腰に負担がかかる
【3】同じ姿勢で長時間座り続ける
事務作業中は30分ごと、運転中は1時間ごとに休憩して腰を伸ばす
【4】うつぶせで寝る
腰が反って痛みが出やすくなる
【5】重い掛け布団で寝る
寝返りが打てなくなり腰の血行が悪くなる
【6】ラジオ体操する
症状によっては腰を反らしてひねる動きが腰痛を悪化させかねない
【7】あぐらをかく
背骨のバランスが崩れ、痛みが悪化しやすい
※週刊ポスト2025年5月9・16日号
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