【脊柱管狭窄症】自己流ウオーキングを続けて症状が悪化…理学療法士が指南!痛みを和らげる4つのセルフケア法
体に痛みや不調を感じる原因はさまざまあるが、中でも脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)による腰痛やお尻の痛み、しびれに悩む人は多い。そこで、現役理学療法士の黒木綾乃さんに、これまで対応してきた体験談をもとに脊柱管狭窄症の症状を和らげるセルフケアや自宅でできる簡単ストレッチ方法を教えてもらった。
教えてくれた人・文
黒木綾乃(くろきあやの)さん/理学療法士・ヨガインストラクター・介護予防運動指導士・パーソナルトレーナー
理学療法士として総合病院、訪問リハビリ、老人保健施設、デイケア、デイサービス、有料老人ホーム、介護施設役員などを経験。さまざまな現場でリハビリテーションを提供する。長年のリハビリテーションの経験から予防の発展と普及のため、医療ライターとしても活動中。現在は現場でのリハビリテーションの傍ら、一般の方へ腰痛や肩こり予防のパーソナルトレーニングも行っている。
日常生活にも支障をきたす「脊柱管狭窄症」とは?
脊柱管狭窄症とは、背骨にある神経の通路である脊柱管が、骨の変形や椎間板、靱帯の突出などにより狭くなる病気です。今回は脊柱管狭窄症の辛い症状を和らげるためのセルフケアを、実例から紹介します。
脊柱管狭窄症と診断されたAさん。「年齢を考えると手術はしたくない」
Aさん(70代、女性)は主婦で、若い頃からの腰痛持ちでした。ぎっくり腰を繰り返し経験し、椎間板ヘルニアの既往歴もありました。
腰痛・脚のしびれの症状が悪化し、整形外科を受診。脊柱管狭窄症と診断されます。鎮痛薬や血流改善の薬が処方され、医師からは手術を勧められましたが「年齢を考えると手術はしたくない」と保存療法を希望しました。
投薬により一時的に疼痛は軽くなり、Aさんは「歩けなくなると困る」からと自らウオーキンングをして、ケアに努めていました。しかし、徐々に症状が悪化したためリハビリテーションが開始されました。
脊柱管狭窄症による痛みを和らげる4つのセルフケア
Aさんは骨盤が前方に変位し、いわゆる反り腰姿勢、腰部が伸びきった状態で骨盤、腰回りの筋緊張が高く、硬くなっていました。また、足首の硬さも目立っていました。Aさんには、狭窄部位の神経根への血流改善を目的にした施術と並行して、自宅でのケア方法を指導。その後、靴の指導や歩行指導を行い有酸素運動を開始していきました。
痛みの緩和が期待できる4つのセルフケア
実際にAさんに指導したセルフケアを写真付きで詳しく解説していきます。
【1】太ももの付け根ストレッチ
【2】足首のストレッチ
【3】足の裏ストレッチ
【4】寝たままお尻ストレッチ
【1】太ももの付け根ストレッチ
反り腰の原因になっている太ももの付け根の筋肉(腸腰筋)をストレッチし、姿勢を改善します。
●回数:30秒×2~3回
<やり方>
1 . クッションや丸めたタオルと椅子を用意する
2 . リラックスして低めの椅子に手をつき、片足を前に踏み出す
3 . 踏み出した足の付け根にクッションを丸めてはさむ
4 . 腰を丸めるようにして踏み出した足にゆっくりと体重をかける
5 . 反対の太ももの付け根を意識しながらストレッチしていく
6 . 前足はつま先と膝がまっすぐになるようにする
7 . 深く深呼吸をしながら、30秒ほどキープ、左右同じ動きで行う
<NGの体制>
モモの付け根を伸ばそうと腰を反ってしまうのはNG
【2】足首ストレッチ
凝り固まったふくらはぎ(下腿三頭筋)や足首をゆるめ、姿勢改善・脚全体の血流を改善します。
●回数:30秒×2~3回
<やり方>
1 リラックスして椅子や壁などに手をつく
2 少し腰を丸めるようにして脚を前後にひらく
3 アキレス腱伸ばしの姿勢で足首をストレッチしていく
4 前足や後ろ足はつま先と膝がまっすぐになるように意識する
5 深く深呼吸をしながら、30秒ほどキープ、左右同じ動きで行う
【3】足裏ストレッチ
不良姿勢の原因になりうる偏平足(足のアーチ低下)などの足の機能低下を改善します。
●左右同じ動きを行う
<やり方>
1 リラックスして椅子や壁などに両手をつく
2 少し腰を丸めるようにして脚を前後にひらく
3 ゴルフボールやマッサージ用ボールを用意して足裏にセット
4 足を前後左右に動かしながら足の裏の筋肉をほぐしていく
5 足の裏の内側・真ん中・外側を丁寧にほぐす
まず最初はリラックスして椅子や壁などに両手をつくところからスタート
【4】寝たままお尻ストレッチ
凝り固まったお尻の筋肉(殿筋群)を圧迫ストレッチでゆるめ、神経への血流を改善します。
各30秒間、左右3か所ほど行う
<やり方>
1 リラックスして仰向けになり、両ひざを曲げた状態になる
2 テニスボールを用意し(無ければ固くしばったタオルでも良い)お尻の下に入れる
3 深く呼吸をしながら、ゆっくりとお尻にボールを押し当てるようにし、筋肉をほぐしていく
4 1箇所を20秒~30秒行ったら、数センチずらして軽い痛みを感じる部分を3箇所ほどほぐしていく
5 深部に届くようなイメージで行う
症状軽減につながる生活のポイント
ストレッチを行った結果、Aさんの骨盤や股関節周りの筋肉の柔軟性が向上し、脚への血流も改善。腰痛としびれが軽くなり、以前よりも安定した姿勢での歩行が可能になり、歩行補助具を導入し、外出を楽しめるようになりました。
結果に繋がった1番の要因は、自宅でのケアを継続的に取り組んだことです。Aさんの場合は、腿の付け根や足首の柔軟性向上が最終的に痛みの軽減につながったと言えるでしょう。脊柱管狭窄症は完治していないものの、痛みが軽減したことでAさんの外出への意欲が上がり、QOL(qualityoflife:生活の質)改善につながりました。
歩行時に重要な2つのポイント
脊柱管狭窄症は、長時間の歩行で痛みやしびれが現れやすく、痛みや転倒への恐怖心などで外出を控える人が多くいます。しかし、今回の症例のように60代〜70代の方は「このまま歩けなくなると困る」という不安から、積極的にウオーキングをしてしまうことも少なくありません。その結果、症状が悪化する場合もあるので注意が必要です。
歩行時は杖やシルバーカーを使う
脊柱管狭窄症の歩行ポイントは前かがみの姿勢で狭窄部位への血流を確保した状態で、適度な運動を継続することです。脊柱管は前かがみの姿勢で広くなり神経の圧迫が軽減します。そのため歩行時は杖やシルバーカーを押して腰をかがめると脚の痛みが楽になります。外出時には適切に歩行補助具を使用しましょう。
ただ腰をかがめた姿勢を長期間続けることは腰痛の悪化につながることがあり、長期間その状態を続けることはおすすめできません。あくまで、外出時や運動としてのウォーキングの補助具として杖やシルバーカーを上手に使用することが重要です。とくに全身体力が低下している場合は長時間歩くのを避け、低負荷かつ高頻度の運動を心がけましょう。
また、運動後は筋肉が硬くなりやすいため、今回紹介したストレッチなどのケアを継続してみましょう。
歩く際は運動靴
靴は踵部分がしっかりとした構造で、運動靴が最適です。腰が悪くなる人に多くみられる偏平足や踵の内外反を補い、土踏まず(足のアーチ)形成にもつながるため、歩行の補助をしてくれます。
また、チャック付きなど着脱がしやすく、底面に滑り止めがついたものが最適です。着脱が面倒だからとさっと履けるサンダルやパンプスは足の機能を落とすので控えましょう。
まとめ
脊柱管狭窄症は特に高齢者に多く見られる疾患です。脚の痛みやしびれだけでなく、悪化すると歩行が困難になり、生活レベルを落とす原因にもなりえます。脊柱管狭窄症の症状改善には、継続的なケア・定期的な運動と適切な休息が大切です。
脊柱管狭窄症でお悩みの方は、今回紹介した自宅でのケアを取り入れて、症状を軽減するケア習慣を始めてみてはいかがでしょうか? その際には、歩行時のポイントや靴選びのポイントは押さえておきましょう。今回の症例のように、セルフケアや症状を悪化させない適切な運動を続けることで、完治は難しくても辛い症状が和らぐ可能性は高いです。ぜひ参考にしてみてください。