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「最期まで自宅で幸せに生きる」在宅緩和医と終末期の患者家族に密着した話題の映画、見るべきポイント

 映画『ハッピー☆エンド』は在宅緩和ケア医・萬田緑平さんの患者とその家族が、住み慣れた自宅で悔いなく生きようとする日常を描いたドキュメンタリーだ。最期を迎える場所はまだまだ病院が多い中、「在宅死」とはどんなものなのか――。映画の見どころをレポートする。

5人の在宅がん患者を追ったドキュメンタリー

「俺の講演会に来てくれたのが監督との出会い。最初は映画なんて撮れないだろうと思っていたけど、撮影が始まってからは患者さんもご家族たちもみなさん協力してくださって…」

 医師の萬田緑平さんは、監督のオオタヴィンさんとの出会いについてこう振り返る。

 映画で描かれるのは萬田さんが実践する“在宅緩和ケア”。「延命治療はせず、痛みを取りながら最期まで自分の家で過ごす」患者とその家族の暮らしに密着したドキュメンタリーだ。

在宅緩和ケアを実践する5人の笑顔

 映画に登場する5人の末期がん患者は、みんなとても幸せそうに見える。ある肺がん・食道がん患者(90才)は退院時、歩行はおろか話すことも笑うこともままならい状態だったが、退院して自宅で暮らすようになってからは見違えるように元気になり、庭を走れるほどに。

 またある男性患者(78才)は、肺がん・膵頭部がん・胃がんを患いながらも、自宅に戻ってからは趣味のボートレース観戦に出かけ、昼間から大好きな焼酎をおいしそうに飲むなど、充実した生活を送っている。

 これまでの入院生活やしんどかった治療から解放され、住み慣れた家で自由な日常を取り戻すと、医師から宣告された余命をはるかに超え、中には5年以上生きている人もいるという。

「本人が望むように生活すること。心が元気な状態であることが大切」と、萬田さんは語る。

「患者さんと対等でいたい」と白衣は着ないという萬田さんは。Tシャツとデニムのカジュアルなスタイルで、愛車の黄色いコンパクトカーに乗って訪問診療に向かう。

 患者さんの自宅では家族の一員のようにくつろぎ、手品をしたり冗談を言ったり、患者さんもご家族も笑いが絶えない。終末期の在宅医療とは、もっと深刻なものなのかと思っていたが、とても穏やかで幸せな形もあるのだと、この映画は教えてくれる。

生きるために「歩こう!」

 萬田さんは医学部卒業後、約17年にわたり大学病院で外科医として手術や抗がん剤治療に携わってきた。胃ろうや点滴などのチューブにつながれ、過酷な延命治療の果てに亡くなっていく患者さんたちを見るにつれ、「どうすればつらくない終末期を実現できるのか」と自問するようになった。そしてたどり着いたのが、「在宅緩和ケア」だ。

 2017年に地元の群馬に「緩和ケア 萬田診療所」を開業。痛みに苦しむことなく、患者本人が自宅で好きなように過ごせるように訪問看護師らとチームを組み、サポートしている。

 萬田さん流の在宅緩和ケアとは、「患者さんたちは治療を諦めて自宅に帰るのではない。自宅に帰って、運動して歩いて、精一杯生き抜く。そのためのサポート」なのだという。萬田さんは「棺桶に歩いて入ろう!」と日常生活で歩くことを基本とし、好きなものを食べ、食欲がなくなったら「食べなくていい」ともいう。

 そんな萬田さんと患者さんに半年間カメラを向けた、監督のオオタさんは、これまでにも医食同源をテーマにした『いただきます みそをつくるこどもたち』(2017年)や、自由教育の現場を一年間追った『夢みる小学校』(2021年)などドキュメンタリーを撮り続けている。

 オオタさんの映画製作をする根底には、「幸福なドキュメンタリーを作りたい」という想いがある。今回の映画『ハッピー☆エンド』でも、患者さんの幸せそうな笑顔が印象的だった。

穏やかな最期、お別れの言葉に落涙

 映画の後半では、患者さんたちの「ハッピーエンド」が描かれる。訪問看護師や子供たち、孫が集まって「お別れ会」をする。

「ありがとうね、いい人生だったよ」と言って、満面の笑みで孫を抱き寄せる。本人も家族も悔いのないように「生きている間に感謝を伝える」ことを、萬田さんが後押しする。

 映画を見て記者は、末期がんにより病院で亡くなった母のことを想った。感謝やお別れの言葉を伝えるタイミングを逸してしまったことは今でも悔いが残っている。母は最期をどこで過ごしたかったのだろうか――。

 終末期を迎えたとき、延命のために痛みを我慢しながら病院で治療を最期まで続けるか、緩和ケアで苦痛を和らげながら残された日を我が家で自分の好きなように過ごすのか。病院で死ぬのか、自宅で死ぬのか。どちらがよいかは患者さんにより異なるし、正解はない。ただ、いろいろな選択肢があることを知っているのと知らないのとでは、大きな違いがある。

「この映画を通じて在宅医療、在宅での看取りのあり方を知っていただけると思います。2人に1人はがんになる時代。これから先、自分がどう生きてどんな最期を迎えるのか、この映画で描いた『在宅緩和ケア』という選択肢があるんだということを覚えておいていただきたいんです」(オオタさん)

【データ】
映画『ハッピー☆エンド』4月18日よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
https://www.happyend.movie

出演:萬田緑平(在宅緩和ケア医)、樹木希林
ナレーション:佐藤浩市、室井滋
監督:オオタヴィン (C)まほろばスタジオ

取材・文/桜田容子

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