「たくさん食べる」「寝溜め」「甘いもの」は逆効果?日本人の約8割が抱える“疲労感”を回復する『攻めの休養術』<疲労チェックリスト付き>
しっかり食べて寝ているはずなのに、なぜか体の疲れが取れないーーそんな悩みを抱えている人は多い。日々の生活で疲労が蓄積されるのは「間違った休み方をしているから」だと休養の極意を知り尽くす医学博士は指摘する。疲労を回復する「攻めの休養」を教えてもらった。
教えてくれた人
片野秀樹さん/医学博士・一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、著書に『休養学』(東洋経済新報社、2024年2月刊)
「疲労感」「発熱」「痛み」が身体の異常を知らせるアラート
「国内推計7000万人が“疲労状態”にある」そう話すのは一般社団法人日本リカバリー協会代表理事で医学博士の片野秀樹さんだ。近著『休養学』(東洋経済新報社、2024年2月刊)が15万部を超えるベストセラーとなっている。
「日本リカバリー協会のネット調査(20〜79歳の国内の男女約10万人を対象)では、ここ数年、全体の約8割が疲労を抱え生活しているとの結果が続きました。総務省の人口統計に当てはめると約7000万人。2024年の最新結果でも、日本人の疲労傾向は高止まりしたままです」(片野さん。以下「」内同)
長時間労働やスポーツで体を動かした後は誰しも一定の「疲れ」を感じるが、片野さんらの調査で8割が訴えた「疲労を抱えた生活」は趣きが異なる。そもそも「疲労」とはどんな状態を指すのか。
「日本疲労学会の定義では、『過度な肉体的、精神的活動のあとの活動能力が減退した状態』を疲労と呼びます。肉体を使う運動や労働だけでなく、仕事や勉強などいわゆる“頭を使う活動”のあと、(回復前の)本来の活動能力が下がった状態であり、疲労時に感じる“だるさ”や“しんどさ”などの不快な感覚が『疲労感』と呼ばれるものです」
前出のアンケートで8割の男女が訴えたのは、日常的な「疲労感」だ。
「疲労感は『これ以上活動を続けると危険だ』という身体からの“アラート(警告)”です。その警告を無視して活動を続ければ、いずれ破綻し、様々なケガや病気のリスクが生じることになります」
危険なのは、そのアラートを無視したり軽視することだという。
「身体の異常を知らせるアラートは、疲労感のほか発熱と痛みがあり、合わせて“3大生体アラート”と言われます。発熱と痛みは素直に受け止めて対処する人が多く、社会的にも休んで安静にするべきとの共通理解があります。しかし疲労は本人ですら容易に受け止められないうえ、『疲れているから』と休むことは周囲にも理解されにくいのが現状です」
だが、そこにこそ「疲労」の怖さがある。
「人の脳は使命感や責任感、報酬への期待などがある時には一時的に疲労感をマスキング(覆い隠す)して活動を継続し、急場を凌げるようになっています。しかし、疲労状態では本来のパフォーマンスが発揮できないうえ、マスキングしたまま継続すると疲労が蓄積し、少しの休養だけでは回復しづらくなっていきます」
結果として訪れるのが、さらなる心身の不調だ。
「疲労が溜まることで顕著なのは、自律神経の乱れです。自律神経の乱れは肩こりや眼精疲労、不眠などとして現われるほか、便秘など胃腸系の不調にも関連すると考えられます」
あなたはいくつ当てはまる?<現代人の疲労チェックリスト>
【1】寝ても寝ても眠い
【2】体は疲れているのに、いざ寝ようとすると寝つけない
【3】朝起きた瞬間からすでに疲れている
【4】休日は思い切り朝寝坊し、そのままゴロゴロして過ごす
【5】有休がとりづらい職場に勤めている
【6】残業は当たり前
【7】人間関係に悩んでいる
【8】育児や介護などで絶え間なく働いている
【9】最近、つまらないことでイライラする
【10】眼精疲労や肩こりがある
【11】入浴は湯船に浸からずシャワー派だ
【12】夜の付き合いが多いが、毎朝9時には出社する
【13】栄養ドリンクやコーヒーを飲まないとやる気が出ない
【14】性欲が低下してきた
【15】最近、著しく気力・体力が衰えた自覚がある
何個当てはまった?
<2個以上>今のところ比較的元気。不調のサインを見逃さないよう注意
<5個以上>そこそこ疲れている。ゆっくり休むことを心がけて
<10個以上>かなり疲れている。しっかりと休み、疲労対策を
<15個以上>危険水域。忙しくても休むことを真剣に考えて
コーヒーや甘いもの、ゴロ寝は疲労回復につながらない
では、どうすれば疲労を溜めずに回復することができるのか。片野さんは、「多くの人が休養の取り方を間違い、疲れたまま活動を開始する悪循環に陥っている」と指摘する。
「休日にダラダラと寝溜めをして疲労回復を図ろうとする人がいますが、『睡眠=休養』と考えるのはNGです。生理学的に体力のピークは20代前半までと言われます。『寝れば大丈夫』と若い頃と同じ習慣を繰り返すと、疲労は徐々に回復しにくくなります。ソファでゴロゴロ過ごすような休み方もよくない。こうした休養は『守りの休養』であり、真に疲れを取ることはできません」
そうではなく、「加齢に負けず休養を主体的に取りにいく『攻めの休養』」が疲労回復の鍵になる。
「1日寝て過ごすだけでも、骨格筋の中のタンパク質が約1%減少するとの研究結果もあります。疲労感がある時はむしろ過眠に注意して、休日や昼間こそ身体を動かすようにすることで、夜間の質のよい睡眠=休養に繋げることができます」
体力回復のために「たくさん食べる」ことも逆効果だという。
「疲労時のストレスなどから過食してしまうと、必要以上に消化器系を動かすことになり、その分、身体の負担を増やしてしまいます。栄養バランスよく摂取できていれば、『食べ過ぎない』ことが疲労回復の効率を高めることになります」
同様に、甘いものに頼るのもNGだという。
「糖分を多く摂るほど血糖値が急上昇して乱高下が起こります。その調節のために副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンは、交感神経を優位にするためリラックス状態から遠のいてしまう。疲れて甘いものに手が伸びる気持ちはわかりますが、疲労回復の観点からは逆効果です」
飲食の点では、コーヒーにも注意が必要だ。
「覚醒作用のあるカフェインが一時的に疲労感をマスキングしてしまい、疲れや眠気を感じることができなくなります。こうして十分な休養を取らずに活動を続けていると、今度は少し休んでも疲れが回復しなくなる。疲労の蓄積の始まりです」
※週刊ポスト2025年2月28・3月7日号
●米スタンフォード大学が認めた注目の「温冷入浴法」疲労回復効果を医師が解説