難聴の予防につながる生活習慣&改善におすすめのアイテム8選「聞こえづらさの放置は危険禁」【専門家解説】
難聴の患者数は約1430万人(日本補聴器工業会調べ)と推計され、国民全体の約10%に及ぶ。難聴は認知症リスクを高めるため、早めの対策が必要だ。生活の中で実践できる「聴力アップ術」について専門家に教えてもらった。
教えてくれた人
坂田英明さん/『川越耳科学クリニック』院長。著書に『【読む常備薬】図解 いちばんわかりやすい耳鳴り・難聴の治し方「医師がすすめる名医」の最善・最短メソッド』(河出書房新社)などがある。
樫出恒代さん/漢方薬剤師・漢方ライフクリエーター。『漢方カウンセリングルームKaon』代表。『Kaon漢方アカデミー』代表。吉川千明さんとの共著に『内側から【キレイ】を引き出す 美肌・漢方塾』(小学館)がある。
耳の聞こえづらさは放置しておくと危険
日本人は聞こえづらさに鈍感で、細胞の傷みにも気づきにくいという。川越耳科学クリニック院長の坂田英明さんは言う。
「加齢による聴力の衰えは高音域から始まるため、体温計の電子音などが聞こえにくくなります。また、日本語の音域は英語や中国語よりも低いため、会話で違和感を覚えにくく、聞こえづらさを自覚するのが困難なのです」(坂田さん・以下同)
しかし、“ただ聞こえづらいだけ”と放置し難聴が進行すると、認知機能の低下も招く。
「周波数の高い音は脳を活性化させます。つまり、高音域が聞き取れないままでいると脳の機能が停滞してしまう。耳からの情報量が減ると脳への刺激が減少し、脳幹の情報処理速度も遅くなり、認知機能が低下してしまいます」
認知症のリスクは、健康な聴覚の人に比べ、軽度難聴で約2倍、重度では約5倍にもなるという。
しかし、あきらめる必要はない。難聴の発症や進行を遅らせる具体的な方法を見ていこう。
専門家が教える聴力アップ術&改善をサポートするアイテム8選!
聞こえづらいけど補聴器はつけたくないというあなた、放っておいたら悪くなるばかり!難聴の予防につながる生活習慣と改善におすすめのアイテムを紹介する。
【1】騒音の許容基準を知る
下表はWHO(世界保健機関)による、騒音の1日の許容時間と目安となる音の種類。街頭の騒音や地下鉄の車内は予想以上の音量だ。
「75dBを超える音には制限を設けられていますが、地下鉄の車内でも騒音レベルは100dB。日常には多くのリスクが潜んでいます。大きな音がする場所で長時間過ごす場合は耳栓などで防御しましょう」(坂田さん)
静かな図書館(40dB):リスクなし
ふつうの会話(60dB):リスクなし
掃除機(75dB):リスクなし
街頭の騒音(85dB):8時間
地下鉄車内の騒音・ドライヤー(100dB):15分
救急車や消防車のサイレン(120dB):9秒
※「許容時間」を超えると難聴の可能性が増す。
【2】イヤホンは最大音量の60%が目安
大音量で音楽を聴くと、有毛細胞の減少に拍車がかかる。
「イヤホンを使用する場合、最大音量の60%程度を意識すると、リスクのない約60dB(ふつうの会話レベル)まで音量が下がり、耳への負担が軽減します」(坂田さん)。
連続使用は控え、1時間に1回、10分程度は耳を休ませよう。
【3】耳鳴りや耳閉感(じへいかん)は漢方で改善
東洋医学には「病気を治すのではなく、病人を治す」という言葉がある。「前出の『腎』の気は更年期以降に不足し始め、老眼や難聴、腰痛、更年期障害、白髪、シミなどいわゆる“老い”の症状が出現します」(漢方カウンセリングルームKaon代表の樫出恒代さん)。
漢方薬の「滋腎通耳湯(じじんつうじとう)」は耳鳴りや聴力低下、めまいに有効だ。
「このほか更年期障害による耳鳴りの緩和には『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』、耳閉感を感じる場合は“水滞(すいたい)”の症状を緩和する『苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)』がよいでしょう」
※耳閉感/耳が詰まった、ふさがれた、覆われたような不快な症状。
<小さな声が聞き取りにくい人におすすめの漢方>
『滋腎通耳湯エキス錠クラシエ』。オウゴンやオウバクなどのエキスが「腎」を潤し、滋養する。120錠入り2970円 第2類医薬品/クラシエ薬品
【4】自然の音で耳を養生する
自然の音は耳をリラックスさせる。
「聞こえづらさや耳閉感などを感じたら、散歩がてら木々のざわめきや風の音、川のせせらぎなどが聞こえる場所で耳を澄ますとよいでしょう。東洋医学はまず養生があり、漢方薬はその次です。まずは心地よい音で耳に“栄養”を与えましょう」(樫出さん)
【5】「聴宮(ちょうきゅう)」のツボを刺激
耳の軟骨の前にあり、口を開けた際にくぼむ部分が「聴宮」のツボだ。「耳全般の不調を改善します」(樫出さん)。
<耳全般の不調を改善するツボ押しの方法>
<1>湯船につかりながらタオルをお湯で浸し、耳に1分間あてる。
<2>聴宮のツボを中指で3秒押す。5回繰り返す。
【6】カラーリングを減らす
カラーリング剤に含まれるアニリン色素の誘導体は、頭皮に染み込みやすく排出されにくい特性がある。
「特に耳や目の働きをコントロールする前庭小脳(ぜんていしょうのう)が影響を受けやすく、めまいや難聴、耳鳴りを起こしやすくなります」(坂田さん)
ヘナなどの植物性染料に切り替えたり、グレイヘアを検討してみては。
【7】テレビ音を聞きやすくする
補聴器以外にも頼れる機器がある。テレビから聞こえる言葉の聞こえづらさを改善するスピーカーは、テレビの横に設置するだけで、音量を上げずに言葉がくっきりとクリアに聞こえる効果がある。
<テレビの音が聞き取りにくい人におすすめのアイテム>
『ミライスピーカー・ミニ』。平板を湾曲させた曲面振動板の「曲面サウンド」により、広く遠くまでハッキリとした言葉を届ける。1万9800円/サウンドファン
【8】イヤホンで聴覚を補助
Appleのワイヤレスイヤホン「AirPods Pro 2」には、聴力を補助する機能が搭載されている。
iPhoneとペアリングし、ヒアリングチェックを行うと、わずか5分で難聴の有無を判定できる。難聴と判定された場合は、周囲の声や音を聞き取れるように調整可能。
この機能は軽度~中等度の難聴に対応し、聞こえやすさをサポートしてくれる。
<聴力をサポートしてくれるワイヤレスイヤホン>
『AirPods Pro 2』。状況に応じてノイズをコントロールし、周囲の様子が聞ける外部音取り込みモードなどの機能も搭載。3万9800円/Apple
取材・文/藤岡加奈子 イラスト/鈴木みゆき、PIXTA
※女性セブン2025年2月20日・27日号
https://josei7.com
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