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難聴と認知症にまつわる最新事情を専門医に聞きました!【専門家が教える難聴対策Vol.13】

 補聴器技能者で補聴器専門店を経営する田中智子さんは、来店されるお客様から「聞こえにくいことで高齢の親と意思疎通がままならない。認知症も心配で…」などと相談されることが増えたという。認知症は気になるが、実際のところ難聴と関係があるのだろうか? 医師の解説を交えながら、最新事情をレポートする。

教えてくれた人

医師・神崎晶さん

独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室 室長。耳鼻咽喉科専門医・指導医、耳科手術暫定指導医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、騒音性難聴担当医、めまい相談医、アレルギー専門医、気管食道科専門医。慶應義塾大学医学部卒業、静岡赤十字病院、静岡市立清水病院を経て慶應義塾大学医学部大学院に入学し、2002年大学院医学研究科修了(医学博士)。1999₋2001年ミシガン大学聴覚研究所にて内耳遺伝子治療の研究のため留学。現在、難聴と認知症に関する臨床研究を行っている。

認定補聴器技能者・田中智子さん

うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/

難聴の要因や対策、最新事情を専門医に直撃!

 ここ最近、来店されるお客様から、「聞こえにくいまま過ごしていると、認知症が心配なので…」とお話されるかたが増えてきました。また、「80代の父親はかなり難聴が進行していて…。話しかけても反応しないから、近所の人に認知症じゃないかと心配されているんです」というお客様もいらっしゃいました。

 最近、NHKの健康番組ほかテレビやメディアでもこの話題が取り上げられる機会が増えてきたからかもしれません。

 また、日本耳鼻咽喉科学会による「聴こえ8030運動」のサイトでも、認知症予防のために「難聴対策」が重要であることが発信されるようになりました。

■一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「聴こえ8030」ホームページ。
https://kikoe8030.jibika.or.jp/kikoenaito

 そこで認知症と難聴の関連性について、改めて最新の情報も交えてお伝えしていいきたいと思います。

2017年、難聴と認知症の関係を初めて示唆

 難聴と認知症の関連性について初めて言及され、世界的に認識が広がるきっかけとなったのは、2017年にランセット国際委員会で発表されたレポートです。このレポートでは、認知症の危険因子(リスク因子)として、高血圧や肥満、糖尿病などの要因と一緒に、「難聴」が挙げられました。これらのリスク因子は修正可能で、認知症の予防や進行を遅らせることができるとされています。

 難聴は、これまでは「耳が聞こえにくい=年だから仕方がない」と済まされることも多かったかと思います。しかし実は、聞こえにくいということは、会話がし難いというだけでなく、さまざまなリスクをはらんでいるということが、多くの研究で明らかになりつつあります。

医師が語る難聴研究の最新事情

 認知症と難聴にまつわる最新事情や対策について、国立病院機構 東京医療センター・聴覚障害研究室の室長の神崎晶さんにお話を伺いました。

「初めて2017年に発表されたランセット国際委員会の報告は、非常にセンセーショナルな話題として、世界中に取り上げられました。2024年の最新版では、さらに全部で14の危険因子が挙げられ、それらに適切に介入し対処することができれば、認知症の45%が予防できるとされています。

 中でも難聴へのアプローチは、寄与率が7%と最も高い影響を持つとされています。

 ただし、難聴にどの程度対処することができるのか、そして認知症予防にとってどのくらいの効果影響力があるのかという点については、まだ、十分なエビデンスが揃っていないという状況です」(神崎さん)

補聴器をつけることで認知機能低下は防げるの?

「果たして補聴器によって認知機能低下の予防効果はあるのか?」多くの方が、もっとも気になるところではないでしょうか。

「2023年に、同じくランセットで発表された、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のフランク・R ・リン教授の研究(※1)では、興味深い結果が出ています。

 70~84才の認知機能が正常な難聴者(977名)を、「補聴器を使用する人」と「使用せず医学講座を聴講する人」に無作為に割り当てました。そして、それらの人々に対し、半年に1回認知機能を評価しました。3年間の追跡調査の結果、補聴器をつけていた人とつけていなかった人では、認知機能低下への優位な差はなく、補聴器による効果はなかったとされています。

 しかし、同年代で認知機能は正常な対象者の中で、心不全・不整脈などの心血管系に異常がある「認知機能低下の高リスク群」で比較した場合、「補聴器を使用している人」の認知機能の低下が48%抑制されたという結果が出ています。

 心血管系の疾患は日本人の死因の第2位とされているため、気になる結果ではあります」(神崎さん)

※1/Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE)(難聴高齢者の認知機能低下を軽減するための聴覚介入と健康教育制御の比較)。
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)01406-X/abstract

 2019年にアメリカの耳鼻咽喉科関連の医学雑誌『Annals of Otology, Rhinology & Laryngology』(※2)に掲載されたハリソン・リン氏による論文では、アメリカでの18才以上のサンプルでの5年後の死亡率は、すべての平均で4.2%でした。しかし、聴力がかなり低下している人に限ると19.5%にも上ります。聴こえにくさは死亡率のリスク上昇と関連している可能性があると考えられます。
 
 また、難聴のほかに、もう一つ感覚器に異常があると、さらに死亡リスクが高くなるという研究結果(※3)もあり、論文の最後には、難聴を扱う医師は、『難聴が全身の健康状態や寿命に及ぼす影響を考慮する必要がある』とまとめられています。

難聴と寿命の関係の研究も進む

「近年、認知症に限らず、難聴と寿命の関係性についての研究も進んでいます。

 さらに、1999年から2012年の間に研究調査に参加し、聴力検査と補聴器使用に関するアンケートに答えた9885人を対象に、難聴・補聴器の使用・死亡率の関連を調べた今年(2024年)の研究報告(※4)があります。

 この論文は、補聴器を毎日常用しているかたは、それ以外のかたがた(たまに使うかたや全く使ってないかた)と比較して死亡率が低いことを示しています」(神崎さん)

※2/Hearing Difficulty and Risk of Mortality(難聴と死亡リスク)
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0003489419834948

※3/Associations of Hearing Loss and Dual Sensory Loss With Mortality(難聴および二重感覚喪失と死亡率との関連性)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34967895/

※4/Association between hearing aid use and mortality in adults with hearing loss in the USA: a mortal-ity follow-up study of a cross-sectional cohort(米国における難聴成人の補聴器使用と死亡率との関連:横断的コホートの死亡率追跡研究)
https://www.thelancet.com/journals/lanhl/article/PIIS2666-7568(23)00232-5/fulltext

 現在、神崎さんは、特定臨床研究として「難聴者に対する補聴器介入の有無における認知機能の影響に関する比較試験」(※5)に取り組んでいて、東京医療センターをはじめ全国18施設で実施されています(2026年3月まで)。

 これは、「補聴器によって認知機能低下は予防できるか?」などを調べる目的があります。治験に参加する人を募集しているとのことです。

※5/独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 難聴者に対する補聴器介入の有無における認知機能の影響に関する比較試験
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Ftokyo-mc.hosp.go.jp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2024%2F06%2FR5-nho-03.docx&wdOrigin=BROWSELINK

***

 認知症と難聴の関連性や、難聴にかかわるさまざまなリスクについて、世界的に研究が進められています。現在、日本では、平均寿命と健康寿命とには10年の差があると言われています。

 人生100年時代、認知症を遠ざけてなるべく健康な状態で元気に過ごしたいもの。そのためには、家族や友人など周囲とのコミュニケーションが大事な役割を担っていると思います。

 相手の会話が聞こえにくいと、発言も減ってしまうといわれています。積極的に会話をして、活力ある生活を送るためにも、聞こえることの大切さを今一度見直したいものです。

★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!

人生100年時代、認知症を遠ざけて元気に過ごすためにも聞こえる生活を維持したいものです!

取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな

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