もしかして難聴かも?「聞こえ」を指で簡単にチェックする方法を伝授【専門家が教える難聴対策Vol.12】
「聞こえにくくなっていることに本人はなかなか気づかないもの。自分では聞こえると思っていても、周囲が大きな声で話すなど気を配っているかもしれません」と、認定補聴器技能者の田中智子さん。補聴器を検討するタイミングとは? 何を基準に「聞こえにくい」状態と判断されるのか、確認してみましょう!
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器の装着を検討するのはいつなのか?
補聴器が必要かどうかを判断するのは、ご自身の聴力がどの程度なのか、日常生活に支障があるレベルなのか、「聞こえ」のチェックをすることから始めます。
まず思い浮かぶのが、健康診断の「聴力検査」ではないでしょうか。健康診断には、主に自治体が実施するものと、ご本人がお勤めの会社を通じて行なうものがあります。会社員が受ける健康診断には、一般的に「雇い入れ時の健康診断」と「定期健康診断」の2種類あり、様々な検査項目があります。中でも、どの年齢でも受けなければならない重要な検査項目のひとつに「聴力検査」があります。この聴力検査では、左右の耳の音を聞き取る能力を調べ、日常生活に支障がないかどうかを確認します。
加齢で高い音から聞き取りにくくなる
検査における音の基準は、音の高さ(周波数、単位:Hz・ヘルツ)、音の強さや大きさ(音圧、単位dB・デシベル)で表します。
健康診断での聴力検査では、ピアノの真ん中のドの音と同じくらいの音(1000 Hz)と、鳥のさえずりのような高い音(4000 Hz)の2種類の音の高さを、30~40dBという小さな音の大きさで聞き取れるかを調べます。
多くの場合、加齢によって高くて小さな音から聞こえにくくなってきます。これを加齢性難聴と呼び、30~40代から始まるとも言われています。長い年月をかけ、徐々に聴力が悪くなっていくのが特徴です。気がついたときには、鳥のさえずりや蚊が飛ぶ音など若い頃には聞こえていた音が聞こえなくなっているということも。
健康診断の聴力検査で「所見あり」となったら、聞こえに問題が起こっているのかもしれません。耳鼻咽喉科を受診し、詳細の聴力検査をし、どのくらい悪くなっているのか、必要な治療や対処法があるのか、補聴器を使った方がいいのかどうかなどを相談してみるといいでしょう。
また、検査方法によっては、聴力検査において「会話法聴力」という方法を取り入れている場合もあります。これは、医師との間で会話をしながら、自然に聴力検査を行なうものです。医師と診察中に会話のやりとりをして、日常会話として支障がなければ「異常なし」と判断され、会話が成立しない・しにくいなど支障があれば、「難聴の疑いあり」となります。
日常の音の聞こえでチェック
検査を受けるのはハードルが高い、なかなか検査を受ける機会がないというかたも多いと思います。前述のように、加齢性難聴はある日突然起こるものではなく、じわじわと進行し、自覚しにくいため、本人よりもご家族が先に気づく場合が多いものです。ご家族から見て、こんなことがあったら「難聴の可能性あり」「一度耳鼻咽喉科に連れて行こうか」「補聴器の検討してみてもいいかも?」というシーンを以下にピックアップしてみました。
日常生活でこんなことありませんか?
□電子体温計の計測が終わっているのに脇に挟んだまま
□お客さんや宅配便の荷物がきてピンポンが鳴っていても気が付かない
□冷蔵庫が開けっ放しでピーピー音がしているのに、ほったらかし
□電子レンジの中に温めた料理がそのままになっている
前述の通り、年を重ねるにつれ「高い」音から聞こえにくくなっていきます。とくに日常生活では、電子体温計のアラームなど、家電が発する高音の短い音がよく聴こえないことが多くなります。「物忘れが多くなったのかな?」と思われることでも、実は聞こえにくいからこそ起こっているかもしれません。
当店のお客さまにも、「父親(80代前半)が台所で水を飲んでいて冷蔵庫の前に立っているけど、冷蔵庫が開いたままになっているのを気づかない。『おじいちゃん冷蔵庫が開いてるよ』と孫がわざわざリビングから歩いてきて閉めてくれるんです」と、娘さんが打ち明けてくださいました。
このご家族は、親子3世代で毎晩食卓を囲むほど仲が良く、「おじいちゃんだけが会話に入ってこないからおかしいと思った」といいます。家族の距離が近いので、家族みんなでおじいちゃんの「聞こえ」の異変にいち早く気づくことができ、補聴器を検討することになりました。
補聴器検討のきっかけ「一番多いのはテレビの音量」
これまでお店にいらっしゃったかたに、「補聴器をつけてみようかなと思ったきっかけはなんですか?」と伺うと、もっとも多かったのが、「家族にテレビの音の大きさを指摘された」ということでした。
例えば、普段は一人暮らしをしていて、帰省してきた息子家族が来て、「テレビの音量にびっくりした」「玄関のカギを開ける前からテレビの音が外に漏れ出ていた」というエピソードや、娘夫婦と暮らしているけれども、「母親のテレビの音がうるさいから一緒にテレビを見なくなった」ということも聞くことが多いです。
テレビは家族団らんの一つの役目を持っていると思います。家族みんなにとって最適な音量でテレビを見て、楽しい時間を過ごせるといいですね。
簡単なセルフチェック法「耳元で指をこすり合わせる」
今すぐ簡単に確認できる方法として、聞こえの状態をご自分で簡単にチェックするには、耳元で乾いた親指と人さし指の先を、軽くカサカサとこすり合わせてみる方法もあります。
指をこする“カサカサ”という音が聞こえない場合、聞こえにくくなっている可能性が高いです。これは目安なので、正しい検査は医療機関で調べてもらいましょう。聞こえにくさがどの程度なのか、補聴器をつけるかどうかは、医師と相談しながら判断していくことが大切です。
場合によっては、補聴器以外の対処法もあるかもしれません。この方法で聞こえなかったかたが、耳鼻咽喉科を受診したら、耳垢がたくさん詰まっていて聞こえにくかった!ということもありました。
補聴器を具体的に検討するという段階になったら、補聴器専門店でも聴力測定を実施していますし、補聴器を実際につけてみて、つけたあとの聞こえはどんなものかを体験することもできます。
聴こえ8030運動「80才で30dBの聴力を保とう!」
健康長寿のためには「歯」が大切。日本歯科医師会で推進している「80才で20本以上自分の歯を保つ」ことを目標にした【8020運動】は、よく知られるようになりました。実は、健康寿命のために「聴力」の大切さを啓蒙する運動も始まっています。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、「80才で30dBの聴力(または補聴器をした状態で30dBの聴力)を保つ」ことを目標にした【聴こえ8030運動】を推進しています。
ちなみに、30dBとは、ささやき声や、紙に鉛筆で書いているときの音、静かな図書館の中で過ごしているときの周りの音などの音の大きさと言われています。
「聴こえ8030運動」
https://kikoe8030.jibika.or.jp
ウェブサイトでは、簡単な聴力チェックができますので気になるかたはぜひ試してみてください。
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本人が気づかないうちに聴力の低下は進んでいて、家族のほうが先に「おかしいな」と気がつくことは多いもの。「そんなことはない」「まだ大丈夫だ」と思うかもしれませんが、知らず知らずのうちにコミュニケーションが減ったり、生活の中で困りごとが出てきているかもしれません。おかしいなと思ったら耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
「あなたの視力はどのくらいですか?」と聞くと、多くの方は「1.2です」とか「0.2です」とか答えられると思います。そして、それを聞いたら、「それは視力がいいですね」とか「かなり悪いですね、日常生活は眼鏡なしではできませんね」など、その数値がどのくらいかをイメージとして持つこともできると思います。
でも、現状、「私の聴力は50dBです」と言われて、それが、いいのか悪いのかを判断できる人は少ないと思います。8030運動が始まったように、まずは、ご自身や家族の「聴力はどのくらいか?」を知ることから始めましょう。
そのためには、今回ご紹介した「指こすりチェック」「体温計などの高音が聞こえているか」「テレビの音量が大きくなっていないか」など、日常生活の中でご自身や家族の聞こえについて意識的に過ごすことから始め、おかしいなと思ったら、耳鼻咽喉科へ受診してみてほしいと思います。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!
加齢により高い音から聞き取りにくくなります。まずは自分や家族の聞こえ具合を知ることから始めましょう!
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな