《5人に1人がなる糖尿病》「いつのまにか糖尿病に…」にならないように知っておきたい、専門医が教える糖尿病と血糖値の“新常識”
糖尿病や血糖値の研究は日々進んでおり、かつて常識だと思っていたことが今はそうではないということもある。糖尿病や血糖値に関する「新常識」について、『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)を上梓した糖尿病専門医の矢野宏行さんに詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
糖尿病専門医・矢野宏行さん
やの・ひろゆき。やのメディカルクリニック勝どき院長、医学博士。日本医科大学卒業後、同大学附属病院に勤務。その後、国立国際医療研究センター研究所の糖尿病研究センターで糖尿病について研究。24時間の血糖値の動きを調べつくし、血糖値について熟知していることで、「ミスター血糖値」の異名を持つ。著書に『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)など。
糖尿病は今や誰でもなり得る病気
人々が比較的質素な食生活を送っていた昭和20~30年代頃までは、糖尿病はそこまでメジャーな病気ではなく、今でも太っている人やインスリンが出ていない人がなる病気と考えている人もいるのではないだろうか。しかし、糖尿病は今や「誰でもなり得る」病気となっている。
「爆発的に増えて状況が一変したのはここ50年程度の話。飽食の時代が訪れてからのことです」(矢野さん・以下同)
糖尿病の新常識【1】糖尿病は5人に1人がなる
昭和40年代後半は、糖尿病になるのは100人に1人程度だった。一方、現在は5人に1人の割合で罹患する病気だ。精米技術の向上や食の欧米化、コンビニやファストフードの台頭など、糖質型の食生活を後押しする要因が激増したことが背景にある。さらに、コロナ禍で運動不足の人が増えたことも要因の1つだ。
「私は、この先30代半ばくらいから糖尿病を発症する人がどんどん増えていくと予想しています。誰もが、他人事ではないのです」
糖尿病の新常識【2】糖尿病患者もインスリンは出ている
糖尿病には1型と2型があり、1型糖尿病は血糖値の上昇を抑える働きをするインスリンが膵臓からほとんど出なくなってしまうのが特徴だ。2型糖尿病は糖質の過剰摂取や生活習慣が影響しており、2型の場合はインスリンはしっかり出ている。
糖尿病全体に占める1型の割合は5%程度と言われており、95%の糖尿病患者はインスリンが出ているのが現在の「常識」だ。
一方、インスリンが出ていても糖尿病患者の血糖値が下がらないのは、むしろインスリンが出過ぎた状態が続いたことで、インスリンに拒否反応を示す状態になってしまっているためだ。
「インスリンは出ているのにあまり効かず、血糖値がなかなか下がらない状況が生まれてしまうのです。これを『インスリン抵抗性』と呼びます。適正量であれば問題なく効くけれど、量と回数を重ねるとだんだん効かなくなるという、まさに抗生物質と同じようなメカニズムです」
糖尿病の新常識【3】やせていても糖尿病になる
肥満の原因は糖質の過剰摂取がもたらす高血糖のため、高血糖と直結する糖尿病の患者は肥満の人が多い。しかし、やせているのに糖尿病になる人も増えており、糖尿病は「やせていてもなる」病気となっている。そういった場合は、小食の人や食事制限ダイエットをしてやせた人に多い。
これは、たんぱく質を摂らずにやせたことで筋肉が減り、エネルギー源のブドウ糖を取り込んで消費するという能力自体が減退してしまい、消費されなかったブドウ糖が中性脂肪となってしまうためだ。
「見た目はやせているのに、体の中は内臓脂肪と皮下脂肪だらけという状態をつくります。脂肪肝になる人も少なくありません。脂肪肝になると、肥満か否かにかかわらず、インスリン抵抗性が増し、血糖値が上昇していきます。そしていつの間にか、糖尿病になってしまうのです」
血糖値の新常識
糖尿病と同様に、血糖値に関しても、「新常識」と呼べるものがいくつかある。
血糖値の新常識【1】血糖値は一日中めまぐるしく上下動する
「血糖値は多少の変動があるもの」と考えている人は多いかもしれないが、これも今や間違った知識だ。健康な人でも10や20程度はすぐに変動し、糖尿病患者の中には食後に100以上変動する人もいるほど、「血糖値は一日中めまぐるしく上下動する」のが新常識だ。
「そして当然のように、血糖値が上がるとインスリンがフル稼働し、しばらくすると食前と同じくらいの数値にまで下がります。場合によっては、それよりもさらに、必要以上に下がってしまうこともあります」
血糖値の新常識【2】高血糖は薄毛やしみ・しわの原因になる
血糖値は健康だけに関連する話ではない、というのも今の常識だ。血糖値が高すぎる状態が続くと、体の中でたんぱく質と糖質が結合し、体温で熱せられることで「糖化」という現象が起こる。糖化が起こると、「終末糖化産物」と呼ばれる「AGEs」が発生し、頭皮にAGEsが溜まると、毛根細胞に作用し、白髪や薄毛の進行を速める原因となる。
「溜まる場所が顔や体の皮膚であれば、皮膚のコラーゲンの弾性化が低下し、しみやしわがどんどん増えていくことになります」
血糖値の新常識【3】低血糖を繰り返すと寿命が縮まる
一方、血糖値が低い状態にも危険性がある。むしろ矢野さんは、「じつは低血糖ほど体によくないということを、アピールしていきたいと思っています」と話す。
低血糖になると、体から活力が失われ、冷や汗が出たり、動悸がしたり、眠くなったりといった症状が現れる。さらに血糖値が下がりすぎると、意識障害やけいれんを起こし、最悪の場合、昏睡状態に陥って倒れてしまうこともあるそうだ。
また、低血糖が長く続くと、糖新生が活性化し、脂肪と一緒に筋肉も糖に変えてしまうため、筋肉量の減少にもつながる。
「筋肉量の減少は、運動能力の低下や寿命の短縮につながることが明らかなので、軽く扱うことはできません」
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