認知症専門医が指南する「進行を遅らせる最も有効なセルフケア」とは?
認知症の人に限らず、ご高齢の人、またそのご家族にもう1点、お伝えしたいことがあります。
日本の文化では、生前に「人生の最終段階」や「死」について話し合うのをタブーとしてきたようなところがあります。
私が在宅医療に携わるなかでも、「縁起でもないから考えたくない」というムードを感じることが多々あり、しかし、最期までどう生きたいか、どう死にたいかという話し合いが行われていないことによって、ご本人とご家族が困った状態になっている場面にも往々にして遭遇しています。
誰でも人生の最終段階には否応なく、暮らし方や医療、介護について「選択&決定の連続」があります。そのとき、自分で意思決定できる人は3割しかいないと言われていて、つまりほとんどの人は超高齢で、認知症の状態にあり、自分で判断できる人は少ないわけです。
では誰が意思決定をするのかというと、現状、多くの医療・介護の支援者は、ご家族に代わりに判断することを求めています。
これには「ご本人の意思が尊重されていない」と、「意思決定の負担を家族に負わせる」という2つの問題があります。そして、どのような決定をした場合にも、ご家族には悔いを残す可能性があります。
そこで、そのような事態を避けるためにアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が推奨されています。
アドバンス・ケア・プランニングとは、人生の最終段階についてご本人と医療・介護などの支援者、そして代理意思決定者(ご家族など)が何回も話し合っておくことです。話し合いを繰り返すのは、「人の気持ちは変わり得る」し、「想像もしないような事態が起きる」ことも多いためです。
7割の人は、この意思決定のレールから途中で外れ、代理意思決定者に委ねることになりますが、たとえそうなって、不測の事態が生じても、過去に何度も話し合いをしていると、ご本人の意思を推定しやすい。
ご本人の意思をみなが共有するためだけでなく、不測の事態の際には推定しやすいように必要な積み上げをしていくこと、それがアドバンス・ケア・プランニングなのです。厚生労働省が出している「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」というものに添う方法です。
「アドバンス・ケア・プランニング」を理解するための事例
F美さんの母親(80歳)は急な脳出血で、重度の高次脳機能障害となり、半身麻痺となりました。急性期病院での手術を経て、リハビリ病院に転院した際、嚥下機能障害があるため「胃ろう」が勧められましたが、F美さんは母親が「胃ろうは作りたくない」と言っていたのを覚えていたので、断りました。
そこで、入院中は鼻からチューブを入れる経管栄養をすることになりました。しかし半年間、リハビリを試みても、指示に従うこともできず、効果がなかったので、退院が決まり、F美さんは主治医から経鼻栄養のチューブを抜く同意書にサインを求められました。
「サインをしたらどうなるのですか?」と尋ねると、主治医は「食事がとれないので、おおむね2週間でお看取りとなります」と答えたそうです。自分が書類にサインすることで、母親が2週間で亡くなる。それにはとても耐えられず、F美さんは経鼻チューブをつけたまま受け入れてくれる施設に移るため、ひとまず母親を退院させました。
その施設が、私が入居者の多くの主治医を委託されている施設でした。私は主治医となり、F美さんに次のように話しました。