認知症専門医が指南する「進行を遅らせる最も有効なセルフケア」とは?
お母さんは動くほうの手で鼻のチューブを抜いてしまうので、病院では身体拘束されていましたが、施設では手にミトンをつけて過ごしていただくことになります。経鼻チューブはご本人にとって違和感があり、不愉快なものなので、無意識に抜こうとする人が多いのです。
そこで、今後の選択肢は2つあります。ミトンをつけて、経鼻チューブで栄養を入れて長生きをするという選択肢と、手のミトンを取って、お母さんが鼻のチューブを抜いたら、もうチューブを再挿入しないという選択肢。その場合、おおむね2週間でお看取りになります。
F美さんが方針を決めるのではなくて、やや意見が異なるというお姉さんとも一緒に、お母さんの昔話をしながら、いまは脳出血によって、状況が判断できないけれど、もし、お母さんが判断できるとしたら「どっちを選ぶか」を話し合ってみてください。
するとF美さんは、次のように答えました。
「わかりました。帰って姉と相談しますが、もう答えは決まっています。母は気高い人でしたから、きっとすぐ鼻のチューブを抜いてくれと言うに決まっています」
そしてお姉さんともすぐ電話で話せ、同じ意見だとわかったそうです。最終的には、離れて住むお姉さんも間に合い、姉妹2人そろってお母さんのお看取りができました。
F美さん姉妹と私たちは、お母さんの「推定意思」に添って、意思決定をしたのです。
F美さんが独自で判断していたら、どのような決定をしても後悔する可能性がありました。自分がサインした同意書で死期が決まったら、本当にあれでよかったのか、と繰り返し省みる人が多いのです。しかしご本人の推定意思を尊重できると、ご家族の意思決定の負担は軽減します。
推定意思については先に紹介したガイドラインに明記されているのですが、残念ながら、多くの医療者がそれを知らず、ご家族に意思決定の負担を強いている現状を、問題だと感じています。
なお、なぜか「胃ろうはいや」「水分だけの点滴はいや」といった点だけ意思が明確に示され、栄養補給や一時的な脱水改善の選択肢として有効な場合も拒否されることが少なくありません。
メディアのネガティブ情報を信じてしまっていることも少なくないようですが、それでは判断を誤ることもあります。こうした医療行為について適否を決めるときは、主治医の説明をよく聞き、臨機応変に冷静な判断をしましょう。