介護報酬の「プラス1.59%改定」、介護事業者連盟理事長はどう見るか 今後は「マイナス改定の可能性」も
介護業界の人手不足は深刻化している。先の衆院選でも、各党が介護人材の賃上げやケアマネジャー(介護支援専門員)の更新研修廃止を訴えるなど、処遇改善・負担軽減を打ち出している。政治が重い腰を上げざるを得ないほど、介護の現場は逼迫しているのだ。
今年は原則3年に1度見直される、介護報酬の改定があった(2024年4月と6月に施行)。全体で「1.59%の引き上げ」となり、そのうち6割にあたる「0.98%」は介護職員の処遇改善に充てられる。わかりやすくいえば給料アップだ。残りの「0.61%」は介護事業者の経営基盤強化に充当され、看護職員などの処遇改善につなげる狙いがあった。
1.59%の介護報酬アップで、問題は解決するのか──。答えはノーだろう。11月に発表された消費者物価指数(10月分)は前年同月比2.3%アップ。物価の上昇にさえ追いつかない水準だ。実際、事業者はどう捉えているのか。全国介護事業者連盟の斉藤正行理事長に聞いた。
アップ率はまだまだ足りない
「プラス1.59%は過去2番目の上げ幅で、厳しい財政事情の中、一定の成果と言える水準であると言えます。しかし、他産業の賃上げ幅には遅れをとっており、全産業平均との給与の差は開きが出始めています。さらなる処遇改善が必要だと考えています」(斉藤氏、以下同)
ベアが見込まれる他業種と比べると、介護職員のアップ率はまだまだ足りないという指摘だ。
新型コロナ感染が命に関わりかねない介護の現場では、コロナの影響が長引いている。すでに“平時”に戻っている一般企業と違って、感染対策の経費も馬鹿にならない。
「人材採用も一層厳しくなっていて、人件費や採用コストも増大しています。介護事業者の経営は厳しさを増しています。そうした中でプラス1.59%だけでは、十分だとは言えないのではないでしょうか」
生産性を向上させることで報酬が「加算」
介護の現場では、まだアナログな作業が多い。人手が足りない中で、DXを推進するなどして効率を上げることが課題となっている。今年の介護報酬改定では、それを実現するための「加算」も盛り込まれた。
見守り機器や介護記録ソフトウェアなどテクノロジー機器を利用することによって生産性をアップさせた場合にもらえる「生産性向上推進体制加算」だ(実際に加算されるには複数の要件がある)。
「今回の改定では、DXを推進し、生産性向上を実現するための様々な見直しが行われました。人口減少時代を迎え、生産年齢人口が2040年に約2割も減る状況を鑑みると、このような取り組みが求められることは必然だと思います。
介護事業者の多くはDX対応や生産性向上の面で対応が遅れている現状がありますが、今回の介護報酬改定を受けて取り組みを促進させることが重要です。同時に、サービスの質を維持しつつ、職員の負担が増えない形での生産性向上への取り組みが不可欠だと考えられます」
マイナス改定もいずれ避けがたい時期が来る
人材を集めるには、他業種に劣らない報酬が必要になる。では、今後も介護報酬はアップし続ける余地があるのだろうか。その点について、斉藤理事長は厳しい見方を示している。
「次期の報酬改定では、引き続き物価高騰などへの対応も踏まえたプラス改定の実現、さらなる処遇改善が求められます。
しかし、中長期での人口構造の変化を鑑みると、マイナス改定もいずれ避けがたい時期が来ることを、事業者としても理解しなければなりません」
介護を必要とする高齢者が増え、税金と介護保険料を納める現役世代が減れば、国は“財源問題”に行きつく。打ち出の小槌はないのだから、介護の現場には厳しいが、マイナス改定もありうるのが現実だ。
斉藤理事長は、そうした未来の中では、さらなる生産性の向上や自立支援・重度化の防止によるトータルの介護コストを下げる取り組みなどが評価される制度になるだろうと予測する。
介護報酬の改定は、単なるアップやダウンだけで評価することはできない。介護に携わる人にとっても、事業者にとっても、何より介護を必要とする高齢者にとっても、今後の動向に注目する必要がありそうだ。
構成・文/介護ポストセブン編集部