認知症専門医が指南する「進行を遅らせる最も有効なセルフケア」とは?
昨今は認知症について理解も研究も進んで、ほどよい支援も多様になり、状態に合わせて選べるようになってきた。
どのような支援を行うのがいいのだろうか。また、最期のとき、大切な人の「意思」に迷わないためにいますべきことは。
「恐れる」認知症から、「備える」認知症へと変わる「新しい認知症観」について現場を知り尽くす専門医が解説した『早合点認知症』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人:内田直樹さん
認知症専門医。医療法人すずらん会たろうクリニック院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めたのち、2015年より現職。福岡市を認知症フレンドリーなまちとする取り組みも行っている。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本在宅医療連合学会専門医・指導医。編著に『認知症プライマリケアまるごとガイド』(中央法規)がある。
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認知症の人への支援は「お世話」ではない
たとえば、認知症の人に軽度の見当識障害が生じたとき、よく「お薬を用法どおりに飲めない」ということが起こります。
従来、そのようなことがあると薬の管理がご家族に委ねられたり、薬はデイサービスで飲ませてもらうようにしましょう、となったりして、認知症の人ができることも悪気なく奪ってしまうことが多くありました。すると、認知症の人は脳の機能をはたらかせる機会が減り、認知症の進行は加速してしまうのです。
最近は「できるだけ、できることは自分で」とケアが見直されるようになってきたので、支援の仕方は変わっています。
お薬カレンダーと大きな文字で日時表示される電子カレンダーを並べて置いておき、気づきを促す。スマートフォンのリマインド機能を利用して、服薬時間を音声で知らせる。自分で服薬を続けられるように支援するようになってきたのです。
認知症は「○○し続ける」が進行を遅らせる最も有効なセルフケアです。
何をし続けるかは人それぞれ。とにかくその人が生活の中でしてきたことを続け、他者や社会と関わり続け、体を動かし続けることは、お薬以上の効果があることだと見直されています。そこで、認知症の人へのケアは「○○し続ける」を支えることを目的とするようになってきたわけです。
先日、認知症の当事者の方たちとの対談で、これから「したいこと、続けたいこと」をうかがったことがありました。
ある方は読書が好きで、これからも読み続けたい。認知症になって読んだそばから忘れていき、また読み直すことも多いのだけれど、「読んだ瞬間、心が動き、楽しいと感じるから、読み続けたい」とおっしゃっていました。
認知症の人も多様ですから、忘れるなら読書はやめて、違う趣味をもとうと思う人もいるでしょう。どうであれ、自分がしたいことに「チャレンジを続けられる」ことが最良のセルフケアです。
暮らしの障害は、実は、認知機能障害があるかどうかだけではなく、環境の影響によって変わることが明らかになり、テクノロジーを活用して環境を改善し、暮らしの障害を緩和することが考えられるようになってきています。認知症を支えるテクノロジーを「認知症フレンドリーテック」と呼びます。