ヒアリングフレイルをテーマにした短編映画『気づかなくてごめんね』世界から注目 英語版も公開へ
聴覚的に虚弱な状態である“ヒアリングフレイル”※をテーマにした短編映画『気づかなくてごめんね』の英語版製作のためのクラウドファンディングが目標金額を達成。生成AIと翻訳サービスを活用した英語版がYou Tubeで公開され、注目を集めている。
※ヒアリングフレイル/聴覚機能が低下して、⼈や社会とコミュニケーションがうまくとれず、⼼⾝にストレスを抱えたり⽣活機能が衰えたりする状態のこと。
難聴への理解や対策描く映画が世界へ発信!
2024年3月にYouTubeで配信された『気づかなくてごめんね~デイサービス編』は、高齢者の難聴と、介護に携わる周囲の人々の難聴への理解の大切さ、支援機器の活用の重要性や理解を目的として制作された短編映画だ。
映画を制作したのは、難聴者のための対話支援機器『comuoon (コミューン)』の開発・販売を手がけるNPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会で、劇中にも同機器が登場する。
主人公は難聴なのだが、周囲には認知症だと誤解され孤独を感じている男性(主演・石倉三郎)。実は認知症ではなく、聴力の衰えである「ヒアリングフレイル」の状態だと周囲が気付き、難聴への理解や聴覚支援機器を積極的に活用する環境構築により、主人公と家族が日常生活や笑顔を取り戻していく姿が描かれる。
日本が抱える超高齢社会の課題において「難聴による意思決定支援の課題」の具体的な解決方法を発信することは、世界にも大きな影響を与えたという。映画公開後には、海外からも難聴による認知症への誤認や対話支援機器に関する問い合わせが相次いだが、英語翻訳版の制作は、字幕版・吹き替え版共に時間と資金が掛かるため着手が困難だった。
そんな中、同協会が出会ったのが、最新動画生成AIと人によるサポートを組み合わせて、従来方式に比べ圧倒的なスピードとコストで日本語の動画を他言語に翻訳するサービス『こんにちハロー」だ。このサービスを活用し、英語版の制作を実現し海外へ映画を届けるため、クラウドファンディングプロジェクトを発起し、目標金額の150万円を達成。英語版が完成し、昨年12月にYouTubeにて公開された。
映画全編を動画生成AIで翻訳する世界初の試み
今回のプロジェクトで技術協力をしている『こんにちハロー」は、AIによる生成プロセスに加え、翻訳や映像・音声の精度を高めるため、人の手による補完作業を徹底的に行うことが特徴だ。
複数人が同時に話したり、話者が正面を向いていないシーンやBGM・環境音が交じるシーンが多い映画では、AIだけでは細部まで対応しきれないことも。そうした箇所を翻訳者・技術者が細やかな調整を行うことで、出演者の声や、唇の動きを忠実に再現しながら英語に翻訳された映像を制作。従来の吹き替えや字幕翻訳では伝えきれなかった視覚的・聴覚的な感動をそのまま伝えることができ、本プロジェクトでも映画本来のメッセージを海外の視聴者に届けることが可能となった。
主人公をサポートするアイテム
映画にも登場する『Comuoon mobile(コミューンモバイル)」。聴こえにくい人との意思疎通支援のために開発された対話支援機器だ。マイクで話した声がスピーカーによって聞こえやすい状態で相手に届くもの。難聴の利用者との意思疎通支援や職員の負担軽減のために、多数の施設で活用されている。
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映画『気づかなくてごめんね』英語版は、You Tubeでの公開のほか、各種上映会を通じての公開予定となっており、海外での啓蒙活動に活用されていくようだ。今後の展開にも注目していきたい。
【データ】
日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会
http://u-s-d.jp/
短編映画『気づかなくてごめんね』日本語版
https://www.youtube.com/watch?v=21XEvtis2c0
英語版
https://www.youtube.com/watch?v=6m-005itBEU
COMUOON
https://www.comuoon.jp/
こんにちハロー
https://www.konnichihello.com/
※日本ユニバーサル・サウンドデザインの発表したプレスリリース(2024年12月23日)を元に記事を作成。
図表/日本ユニバーサル・サウンドデザイン提供 構成・文/秋山莉菜