聞こえにくいと感じたら「便利なアイテムで聞きやすくする工夫を」【専門家が教える難聴対策Vol.1】
「年を重ねると聴力の衰えは誰しも感じるもの。『聞こえにくい』悩みには、補聴器のほかにもいろいろな便利なアイテムがありますよ」。こう語るのは、認定補聴器技能者でうぐいす補聴器代表の田中智子さん。「聞こえやすく」するための工夫や便利なアイテムについて教えてもらった。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
「聞こえにくいな」と感じたらまずやるべきこと
「リビングでテレビを見ている夫に声をかけても気づかない」「ドラマのセリフがはっきり聞き取れなくなってきた」「ガヤガヤした場所で友人の話が聞こえなくて愛想笑いをしてごまかした」
このような「聞こえにくさ」を感じることは、年を重ねると増えてくると思います。
「まだ補聴器が必要かどうかわからないけど、なんとなく聞こえにくさが気になり始めた」。そんなときは、耳鼻咽喉科でしっかりと今の聴力を検査してもらうということはもちろん大切です。そして、「今のちょっとした聞こえづらさを解消したい!」というかたは、「聞こえやすくする」アイテムや環境を工夫してみてはいかがでしょうか。
聞こえにくさを解消する身近なアイテム
聞こえにくさを解消するアイテムは、補聴器のほかにも続々と開発され、家庭や介護の現場などで活用されています。
身近なところでは、電子体温計があります。体温を測る時に計測完了の「ピッ」という音が聞こえづらいというかたも多いのではないでしょうか。
このピッという短い高音の代わりに、あえて音の高低差をつけたり、ある程度長めのメロディーで伝えたり、本体自体が震えてお知らせする体温計もあります。
★メロディー音体温計『テルモ電子体温計P330』/テルモ
4670円(テルモネット通販価格)
聞き取りやすさの工夫として、複数の周波数を含む曲「メリーさんのひつじ」の音楽で検温終了をお知らせする電子体温計。音の大きさにも配慮されている。
生活音を聞き取り安くする工夫を
また、玄関のチャイム(呼び出し音)が聞こえにくい場合には、「屋内信号装置」を取り入れることで、チャイムの音や緊急時のお知らせを“光”で知らせてくれます。ほかには、電話やインターフォンからの音を聞こえやすくする「音声増幅器」などもあります。生活をしていてどんな音が聞こえにくいのか、ご本人の様子を観察して便利なアイテムを取り入れてみるのはいかがでしょう。
テレビの音やセリフが聞こえにくいときの対策やアイテム
日常生活において楽しみのひとつであるテレビも、聞こえにくいかたに向けて便利な機能やアイテムが増えています。
★テレビの字幕機能を活用する
テレビの音やセリフが聞こえにくくてお悩みのかたは、字幕を表示させて視聴してみるというのはお手軽でおすすめの方法です。近年デジタル放送になったおかげで、字幕放送が実施されていますが、これはリモコンのボタンひとつで、字幕のオンオフの切り替えが簡単にできます。
★スピーカー
テレビの音を聞きやすくするためのアイテムとして、手元に置いて使うスピーカーや、首にかけて使うタイプのスピーカーも市販されています。
こうしたスピーカーを使えば、テレビの音量を必要以上に上げなくても済むので、家族みんなでテレビを見るときにも便利。テレビから少し離れた場所にいても音やセリフが聞き取りやすくなります。
★お手元テレビスピーカー『SRS-LSR200』/ソニー
オープン価格(実勢価格2万円前後・編集部調べ)
テレビの音を無線で飛ばし、近くに置いて聞き取りやすくするスピーカー。人の声をクリアに再現する機能を搭載。
「聞こえにくさに悩んでいらっしゃるご高齢のかたのご自宅に伺うと、こちらのスピーカーを使っているご家庭が多い印象。設置も簡単なようでみなさん使いこなしていらっしゃいますよ」
★『AQUOSサウンドパートナー AN-SS3』/シャープ
オープン価格(実勢価格2万円前後・編集部調べ)
約88gの軽量設計、首にかけて使うことでテレビの音が耳元でクリアに聞こえる。ニュースやドラマなどで流れる人の声をよりくっきりと聞くことができる「クリアボイス機能」も搭載。
テレビの音やセリフが聞こえにくくなってきたとき、最初に選ぶアイテムとしておすすめ。「高齢の親にプレゼントしたら喜んでもらったという声も多いそうです」と田中さん。
「会話が聞こえにくい」ときのお助けアイテム
日常生活の音以外に、聞こえにくいと困ってしまうのが「会話」です。冒頭でもお話しましたが、夫婦間や家族間だけでなく、外出先でもコミュニケーションは必須。会話を聞き取りやすくするには補聴器が一番おすすめですが、それ以外にもユニークなアイテムが色々登場しています。
★スマホのアプリを活用する
スマホのアプリを使って、話した言葉を“文字”で表示してコミュニケーションをサポートする方法もあります。
コミュニケーション支援アプリ『UDトーク』は、目黒蓮さんと川口春奈さんが共演して話題になったテレビドラマ「silent(サイレント)」(2022年10月、フジテレビ系)で活用するシーンが流れて注目を集めました。
しゃべった言葉がリアルタイムで文字表示されるので、聞こえにくい人に話を伝えるときに活用できます。文字を読み上げる機能や翻訳機能もあり、日常生活やビジネスシーン、外国人との会話など、さまざまなシーンで活用されています。
★コミュニケーション支援アプリ『UDトーク』
会話を“見える化”してコミュニケーションを支援するアプリ。無料でダウンロードできる。
https://udtalk.jp/
【App Store】https://itunes.apple.com/jp/app/id666188441?mt=8
【Google Play】https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.shamrock_records.udtalk
★対話支援のための機器も登場
話者の声をマイクで拾い、スピーカーで声をクリアにして聞こえにくい人に届ける「対話支援機器」というものも登場しています。
『コミューン』(ユニバーサル・サウンドデザイン)は、マイクに入力された音声を、音声高解像技術で聞き取りやすいクリアな音声へと変換するもので、介護施設や病院などに導入する事例も増えているそうです。
★『コミューン』ユニバーサル・サウンドデザイン
商品名:comuoon mobile Lite(コミューン モバイル ライト)
価格:9万7650円~(comuoon shop価格)
マイクから入力された言葉を、独自の特許技術『SonicBrain(R)』によりクリアな音声で届ける。医学的なエビデンス※に基づき特許を取得。病院や介護施設、行政機関など5700施設で活用されている。
★「集音器」の利用や「補聴器」を検討する
聞こえづらい場合に思い浮かぶ対応策として「集音器」というものもあると思います。「集音器」はすべての帯域の音量を大きくするもので、テレビの音量を上げるのと同じ感覚です。補聴器のような複雑な調整機能はないため、補聴器よりも安価なものが多いです。
一方、「補聴器」は利用者が聞き取りにくい帯域の音を調整して聞こえやすくするもの。医療機器ですので、品質、安全性、有効性が保たれています。
金額の差や購入しやすさなどもありますので、ご自身に合ったものを選択することが必要です。
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聞こえにくさをサポートするアイテムは、補聴器以外にも選択肢があります。便利なアイテムを生活に取り入れて、聞きやすい、会話しやすい環境を整えることで、快適な暮らしは実現できると思います。
取材・文/立花加久