65才以上の9割近くが聞こえにくさを自覚 「難聴」を加速させる危険な生活習慣を医師が解説
「聞こえづらくなったけど年だから仕方ない」──そう思って耳の不調を放置しているのは危険。耳が遠くなるほど病気のリスクは増すばかり。最期まで元気よく、自分らしく生きるために、いまこそ聴力を鍛える方法を知っておこう。
教えてくれた人
坂田英明さん/川越耳科学クリニック院長
内田育恵さん/愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科特任教授
陣内賢さん/新中野耳鼻咽喉科クリニック院長
今野清志さん/耳の治療院「日本リバース」院長、整体師
65才以上の8割以上が「難聴」を自覚
「ちょっと周りが騒がしい場所で友達とおしゃべりしていると、“えっ、いまなんて言ったの?”と聞き返すことが増えました。インターネットで調べてみると、私くらいの年齢になると耳が聞こえにくくなる人が増えるんだとか…。まだまだ先のことだと思っていただけにショックです」
都内在住の主婦・守口令子さん(仮名・48才)はそう言って顔を曇らせる。
一般的に聴覚の衰えは40代から始まるといわれており、川越耳科学クリニック院長の坂田英明さんは「近年、難聴の人はますます増えている」と指摘する。
「厚生労働省の国民生活基礎調査によると、65才以上で“耳が聞こえにくい”と自覚がある人の割合は2019年時点で87.9%でしたが、2022年は89.8%もいることがわかりました。つまり、ほとんどの人が難聴だということです」(坂田さん)
老化の一種だとあきらめて受け入れてしまう人も多い。しかし、難聴は認知症の大きなリスク要因だと話すのは、愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科特任教授の内田育恵さんだ。
「耳が聞こえにくくなって人とコミュニケーションを取るのが難しくなると、意欲や活動量が低下し、抑うつや社会的孤立につながり、次第に認知機能が低下します。難聴の人はそうでない人に比べて、1.9倍も認知症になりやすいとの研究もある。活動量が低下すると、加齢に伴う虚弱状態である『フレイル』や要介護のリスクも高くなります」
聞こえづらさを放置すると老化を加速させるどころか寿命を縮めることにつながりかねない。だが、翻っていえば「快聴」こそがピンピンコロリにつながる近道なのだ。
耳の老化は生活習慣次第で加速する危険も
なぜ、年を重ねると耳は聞こえづらくなるのか。坂田さんが解説する。
「難聴は大きく分けて2種類。中耳炎のように外耳から内耳の入り口までに原因がある『伝音難聴』と、内耳から脳までに原因がある『感音難聴』です。
音が聞こえる仕組みは、鼓膜に伝わった空気振動を内耳の『蝸牛(かぎゅう)』にある有毛細胞が電気信号に変換し、脳が信号を認識するから。基本的に加齢に伴う難聴は、老化によって内耳の有毛細胞がダメージを受ける『感音難聴』の一種です」
年齢とともに聞こえづらくなるのは避けようがないこと。しかし恐ろしいのは、「耳の老化」は生活習慣次第で加速することだ。
イヤホンやヘッドホンの多用
内田さんはスマホが必需品となったいま、活用しがちな「イヤホンやヘッドホンの多用」は危険だと指摘する。
「難聴の原因の1つは『音響暴露』です。長時間にわたって大きな音にさらされていると、有毛細胞がダメージを受けて、聴力が失われやすくなります。イヤホンなどを使う際は音量に注意し、休憩を入れて耳をいたわってください。最近は若い頃からイヤホンやヘッドホンを使う人が増えたことで、音響暴露で難聴になる人が増えると危惧されています」(内田さん)
ドライヤーは1日15分以内に
イヤホン以外にも、音響暴露のリスクは身近にあふれている。坂田さんが言う。
「大きな音であるほど、短い時間でもダメージが大きい。WHO(世界保健機関)が定める基準によると、コンサートの音なら1日に28秒、ドライヤーの音なら1日15分を超えると難聴のリスクが高くなるとされています。一度死んだ有毛細胞は再生しないので、細胞に与えるダメージを極力減らし細胞の数を減らさないことが重要です」
WHOが定める1日あたりの音圧レベルの許容基準と目安となる音の種類
音圧レベル|1日あたりの許容基準|1音の種類
130dBSPL|11秒未満|1航空機の離陸の音
125dBSPL|3秒|雷
120dBSPL|9秒|救急車や消防車のサイレン
110dBSPL|28秒|コンサート会場
105dBSPL|4分|工事用の重機
100dBSPL|15分|ドライヤー、地下鉄車内の騒音
出典/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページより
聴力低下を招く「口呼吸、染毛剤、アルコール」
騒音以外にも、聴力低下を招く原因はある。
「糖尿病や高血圧などの生活習慣病、喫煙、低栄養も有毛細胞にダメージを与えることがわかっています」(内田さん)
坂田さんが続ける。
「顎関節症など顎の関節に異常がある人や日常的に口呼吸をしている人は、顎の振動が普段から耳に伝わりやすく、音響暴露と同じ原理で有毛細胞がダメージを受けやすい。
化学物質を含んだ有機溶剤系の染毛剤も避けた方がいい。『アニリン色素の誘導体』を含むものは頭皮から脳に染み込んで、蓄積されると神経障害が起こるといわれています。髪を染めるときは、ヘナや海藻など天然素材のものを選んでほしい。
緑茶やコーヒー、紅茶などの飲みすぎもよくありません。カフェインは神経を興奮させる作用があるので、有毛細胞が過敏に感知して、耳鳴りの原因になります」
アルコールがNGだと話すのは、新中野耳鼻咽喉科クリニック院長の陣内賢さんだ。
「特にお酒が弱い体質の人が飲み続けていると、普通の人よりも活性酸素が発生することがわかっています。全身の老化が進むので、当然ながら耳にもよくありません」
耳かきや耳掃除による炎症に要注意
綿棒や耳かきで習慣的に耳掃除をしている人も、耳の炎症を招いていることがあるので要注意だ。
「耳には本来、耳あかを自然に押し出す自浄作用があるので、自浄作用が働いている場合は頻繁な耳掃除の必要はありません。どうしても気になる人でも月に1回ほどで充分です。
ただし、湿った耳あかの体質のかたや高齢のかたは自然に出てこなくなり、耳あかが原因で難聴になることもある。気になるときは自分で行わず病院を受診してください」(内田さん)
耳の治療院「日本リバース」院長で整体師の今野清志さんは、自律神経が乱れるような習慣は見直すべきだと指摘する。
「耳には自律神経が密集しており、そのバランスの影響を受けやすい。過度のストレスや不眠は自律神経が乱れるのでよくありません。スマホの使いすぎも、脳を疲れさせて不眠を招くのでやめましょう」
※女性セブン2024年4月18日号
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