脳にムダな情報があふれて”ゴミ屋敷”化「スマホ認知症」の原因やメカニズムを医師が解説
加齢とともに衰える脳の機能。拍車をかけるのが文明の利器「スマホ」だ。私たちの脳は情報であふれかえって“ゴミ屋敷”化し、認知機能の低下を加速させているという。その理由を専門家に聞いた。
教えてくれた人
濱崎清利さん/済生会みすみ病院脳神経外科医長 ※濱は「濱」の異体字、崎はたつさき
奥村歩さん/脳神経外科医、おくむらメモリークリニック院長
長谷川嘉哉さん/脳神経内科・認知症の専門医
2025年には5人に1人が認知症になる時代に
男女ともに平均寿命が80才を超え、世界トップレベルの長寿国である日本だが、健康寿命(男性72.68才、女性75.38才)との差は依然として大きい。なかでも“健康で長生き”を妨げる病のひとつ、認知症患者は年々増加している。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の人口1000人あたりの認知症患者数は26.7人(2021年)で、世界ワースト1位。
超高齢社会もあいまって、「この数値は将来的にますます悪化する」と話すのは、済生会みすみ病院脳神経外科医長の濱崎清利さんだ。
「来年には日本の認知症患者は700万人になるといわれています。これは65才以上の高齢者の5人に1人の割合で、認知症は誰もがなりうる病気といえます」
そもそも、認知症患者の脳にはどのような変化が起きているのか。おくむらメモリークリニック院長で脳神経外科医の奥村歩さんが解説する。
「認知症とは記憶力や判断力などが低下して、日常生活に支障をきたした状態です。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など認知症にはいくつかの種類がありますが、どの認知症も脳の神経細胞が壊れ、前頭葉が萎縮している共通点があります」
認知症にならなくとも、脳の機能は年齢とともに衰えていく。脳神経内科・認知症の専門医である長谷川嘉哉さんが言う。
「脳の前頭葉には、情報が入ると瞬時に情報を記憶から取り出し、同時に物事を処理する『ワーキングメモリ(作業記憶)』という領域があります。この働きがしっかりしていると、何かを見たり聞いたりしたときに適切な判断ができるので、いわば“脳の司令塔”ともいうべき存在です。その機能は、50代になると若い頃より30%も低下するといわれています」
脳の主要部位と機能を解説!
大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)
海馬や扁桃体などの組織が複合されたもので、喜怒哀楽や記憶、自律神経の活動に関与する。
頭頂葉(とうちょうよう)
顔や手足などから感覚情報が集まる。
後頭葉(こうとうよう)
目に映し出された画像を処理する。
小脳(しょうのう)
筋肉運動や平衡感覚を司る。
前頭葉(ぜんとうよう)
「ワーキングメモリ」を担い、主に思考や、判断し行動する機能を司る。前頭葉の働きが低下すると「スマホ認知症」になりやすい。
側頭葉(そくとうよう)
聴覚や言語、記憶、感情などにかかわる。
脳幹(のうかん)
意識や呼吸など生命維持に関与する大きな役割を果たす。
スマホの影響で脳の機能が低下する?
さらに、いまやわれわれの生活になくてはならない存在になったスマホが、脳の機能を低下させていると奥村さんは指摘する。
「スマホを見ていると脳に入ってくる情報が多すぎるため、脳が疲労して前頭葉の働きが低下する『スマホ認知症』になりやすい。これは脳にムダな情報があふれて、まさに“ゴミ屋敷”になっている状態で、若い人に多く見られます」
濱崎さんもスマホの弊害に警鐘を鳴らす。
「スマホには文字入力を助けてくれる予測変換機能があるので、自分の頭で適切な言葉を考えることを怠る癖がつき、脳の神経回路が退化してしまう。漢字をしばらく書かないと思い出しにくくなるのも、同じ原理です」
脳に悪影響を与える生活を長年積み重ねていると、認知症のリスクは高くなる。しかし、心がけ次第で認知症を遠ざけることは可能だ。
「20才を過ぎると1日10万個の神経細胞が死滅するといわれていますが、もともと脳には千数百億もの神経細胞があるので、加齢が認知機能に与える影響は実はそれほど大きくありません。
また、最近の研究では、脳にはいつでも分裂できる『神経幹細胞』があり、高齢になっても新しい神経細胞が作られることが明らかになっています。何才になっても脳を刺激して、脳細胞を増やすことで、パフォーマンスを向上させることができるのです」(長谷川さん)
写真/PIXTA
※女性セブン2024年11月21日号
https://josei7.com
●「寝ながらスマホで目が内側に寄りやすくなる」急性内斜視とは?症状や対策を専門医が解説