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暮らし

スマホが耳の劣化を早める?「急増するスマホ難聴、かつてはディスコ難聴とも呼ばれた」原因や対処法を専門医が解説

 スマートフォンという「文明の利器」は生活に豊かさと利便性をもたらし、いまや私たちの生活に欠かせないものとなった。一方で、利器は体に害を与える「凶器」にもなりうることを忘れてはいけない。WHO(世界保健機関)も注意を促す「スマホ難聴」について専門家に聞いた。

教えてくれた人

新田清一さん/済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長

大河原大次さん/耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック院長

暮らしに欠かせない「スマホ」知られざる健康への影響とは?

 総務省は10月2日、携帯電話について、「060」から始まる番号を開放する方針を示した。現在使われている「090」「080」「070」だけでは、番号が枯渇する心配があるという。

 番号が足りなくなるほど、携帯電話は社会に浸透し、スマホの世帯普及率は2023年に90%を超えた。通話、メールはもちろん、カメラ撮影も買い物も健康管理もゲームもと、できることは無限にあり、もはや「スマホなしでは生活できない」という人が大多数を占める。

 一方で、スマホがもたらした弊害も少なくない。インターネットによるトラブルはもちろん、健康に与える影響も見過ごせない。長時間前かがみの姿勢で画面を見続けることで、首の骨がまっすぐな状態になって痛みが出る「スマホ首」や、小さな画面をずっと見ているため眼球を支える筋肉がこわばり左右の視点にずれが生じる「スマホ斜視」、常に情報過多な状態にさらされ判断力や記憶力の低下を招く「スマホ脳」など、体の至る部分を蝕んでいる。そしてそれは「耳」も例外ではない。

急増する「スマホ難聴」かつては「ディスコ難聴」とも

 WHO(世界保健機関)が2019年に「11億人がリスクにさらされている」と警鐘を鳴らし、いま世界的に患者が増えているのが「スマホ難聴」だ。その症状について、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長の新田清一さんが話す。

「一般的な難聴と同様、主な症状は聞こえにくさで、耳鳴りを伴うケースもあります。原因は、ヘッドホンやイヤホンで音楽を聞いたり、動画を視聴するなど、長時間にわたって大きな音を聞いていること。正式には『音響性聴器障害』『騒音性難聴』といいます」

 この症状はスマホが生活に浸透する以前から存在するもの。新田さんが続ける。

「いわゆる音響外傷のひとつにあたり、大きな音を長時間、聞くことで神経が障害を受ける病気です。ライブやコンサートなどで発症する場合もあり、かつては“ディスコ難聴”と呼ばれていたこともありました」

 スマホが大きくクローズアップされる理由について、耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック院長の大河原大次さんが解説する。

「音というのは、外耳道に近ければ近いほど大音響で聞こえるもの。イヤホンは耳に密着しますから、外耳道にダイレクトに音が入り鼓膜への刺激も大きい。最近は音漏れの少ない高機能なイヤホンが主流ですが、音漏れが少なければ少ないほど耳への刺激は大きくなります。昔はウォークマンなどでもイヤホンを使用していましたが、スマホほど一般的ではなかった。スマホで音楽を聞く人が爆発的に増えたことで難聴が注目されているのです」

 ライブやコンサートといった特別な空間にいなくとも、誰もがなりうるリスクを抱える現代病なのだ。そのスマホ難聴の恐ろしいところは、自覚症状が乏しく気づきにくい点にある。

「音響外傷は、急性音響外傷と慢性音響外傷の大きく2つに分けられます。急性はディスコ難聴や突然の爆発音など一時的な爆音で発症するもので、スマホ難聴は慢性にあたります。急性難聴は早期に治療すれば治るケースも多いのですが、慢性難聴は少しずつ神経が壊れていくので自覚症状がほとんどなく、耳鳴りや耳がふさがったような違和感に気づいたときには手遅れになってしまうことが多い。スマホ難聴は若年層でも急増していますが、10代で発症してしまえば一生難聴とつきあうことになってしまう」(大河原さん・以下同)

6つのチェックリストで自己診断!聞こえにくさを感じたらすぐに病院へ

<1>最近、耳鳴りがする。

<2>耳が詰まった感じがする。

<3>聞こえ方に左右差がある。

<4>かゆみがある、あるいは、湿疹ができた。

<5>耳掃除をしているが、耳アカが増えた。

<6>騒音の中で人の声が聞き取りづらくなった。

※出典/日本成人病予防協会

スマホ難聴のメカニズムを解説

【内耳】

●聴神経

●半規管

●蝸牛(かぎゅう)…蝸牛の中にある有毛細胞が壊れていく

●耳管(じかん)

【中耳】

●耳小骨(じしょうこつ)

●鼓膜…大きな音の振動が伝わり続ける

【外耳】

●外耳道(がいじどう)

●耳介(じかい)

スマホ難聴は加齢性難聴を悪化させ、認知症に影響も

 シニアになれば、スマホ難聴もさることながら加齢による聞こえにくさも大きな悩み。互いにどのような影響を与えるのだろうか。

「聞こえにくさという症状では同じように思えますが、まったく違うものです。加齢性難聴は病気というより、ひとつのライフサイクル。しわや白髪が増えたり、筋肉が落ちたりするように、耳の神経細胞も加齢によって変化し、劣化します。これには個人差があり、症状が強く出る人もいれば、そこまでひどくない人もいる。一方でスマホ難聴は、音という外的要因で神経が傷つくので赤ちゃんを含む若年層にもリスクがあり、大きな音に長時間さらされるほどリスクは高まります」

 加齢性難聴の症状が出ないうちにスマホ難聴になってしまうとどうなるのか。

「加算効果で、加齢性難聴の症状がより早期に悪化することは考えられます」(新田さん・以下同)

 近年、難聴は聞こえにくさという点で私たちの生活に影響を与えるだけでなく、認知症との関連性が注目されている。

「難聴になると、他者とのコミュニケーションが取りにくくなり、外出が億劫になるなど活動性が落ちることで認知症リスクが高まると指摘されています。2017年には世界的に有名な医学雑誌『ランセット』の認知症の国際委員会が、“本人が意図すれば改善できる認知症の危険因子”の中でもっとも危険なものとして難聴を挙げました。

 同委員会は、危険因子改善で認知症は約40%予防できると発表し、難聴はそのうちの8%といういちばん高い割合を占めたのです。別の研究でも、難聴を放置した場合の認知症リスクが報告され、軽度の難聴でおよそ2倍、中等度で3倍、重度難聴ではおよそ5倍に高まるという結果が出た。

 生理学的に考えても、耳からの情報が減ると、聴覚の神経活動が低下していきます。すると、脳の側頭葉という部分にある聴覚を担当する脳の萎縮が起こると考えられています」

「難聴の重症度」と「認知症リスク」の関係

 難聴を放置するとボケやすいので気をつけよう。

<1>難聴なし

<2>軽度難聴:認知症リスクが1.8倍に!

<3>中等度難聴:認知症リスクが3倍に!

<4>重度難聴:認知症リスクが4.9倍に!

1時間聞いたら10分休憩を。イヤホンの音量を上げない工夫も大切

 ただでさえ加齢性難聴が忍び寄る中で、スマホ難聴はなんとしてでも避けなければならない。なぜなら、スマホ難聴は治療が極めて困難だからだ。

「突発性難聴や中耳炎に由来する難聴は早期であれば治療が可能ですが、蝸牛の内部にある有毛細胞が壊れることで起こるスマホ難聴には治療法がありません。有毛細胞は感覚毛という細い毛のような束を持っていて、音を感受すると感覚毛が揺れて音を電気信号へと変換します。有毛細胞は一度破壊されると復活しないのです。つまり失われた聴力は戻ることはなく、難聴を改善するには補聴器などで音を補うことしか手段はない」

 効果的な予防法は、なによりも「大きな音にさらされすぎないこと」にある。

「耳が痛くなるほどの音量は絶対にNG。耳への負担を少なくするため、音楽を聞いたり動画や映画を見る際には、小さな音量にして途中で休憩をしっかりとることを意識しましょう。連続で聞くのは1時間半未満が望ましく、1時間ほど聞いたら5~10分イヤホンを外して休憩するのが理想です」(大河原さん)

 知らず知らずのうちに、ついつい大きくしてしまいがちな音量にも気をつけたい。新田さんがアドバイスする。

「WHOはスマホ難聴を予防するための安全な音量として、『80デシベルを1週間に40時間まで』と示しています。80デシベルとは走行中の電車内くらいの音量ですが体感としてはわかりにくいので、ヘッドホンやイヤホンをして音を聞いていても他人と会話ができるくらいの音量を目安にしてください。

 また、イヤホンを選ぶ際はノイズキャンセリングといって、周囲の雑音を低減させる機能がついたものがいい。周りの音をある程度遮断してくれるので、音量をおさえることができます。地下鉄や雑踏など、騒音がある中で音を聞こうとすると必然的にイヤホンの音量を上げることになるので注意が必要です」

 酷使すればするほど耳の劣化は早まるばかり。健康寿命を延ばす情報をしっかり耳に入れるためにも、耳をいたわる習慣をつけよう。

WHOが提言!1日に聞いていい「音」レベル一覧表

※音の大きさ(dB)/音の種類の具体的な例/1日あたりの許容基準

130/航空機の離陸の音/1秒未満

125/雷/3秒

120/救急車や消防車のサイレン/9秒

110/コンサート会場/28秒

105/工事用の重機/4分

100/ドライヤー、地下鉄車内の騒音/15分

95/オートバイ/47分

90/芝刈り機/2時間30分

85/街頭騒音/8時間

75/掃除機/リスクなし

70/洗濯機、乾燥機/リスクなし

65/エアコン/リスクなし

60/イヤホンでの適度の音量設定/リスクなし

写真・イラスト/PIXTA

※女性セブン2024年10月24日・31日号
https://josei7.com/

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