老健でリハビリに励み要介護度が改善した83才女性が、退所を余儀なくされた…理由は?対処法はある?介護福祉士が解説
介護老人保健施設(老健)とは、在宅復帰を目標にリハビリを行う施設。要介護度や身体状況などより、ずっと入所できるとは限らないことに注意が必要だ。老健で退所勧告を受けた80代女性の実例をもとに、介護福祉士やケアマネジャーとしての経歴を持つ中谷ミホさんに、対処方法を解説してもらった。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
「介護老人保健施設(老健)」とは
介護老人保健施設(老健)とは、退院後の在宅復帰を目指し、一時的に入所してリハビリテーションを受ける施設です。
要介護1以上のかたが利用できる施設のため、入所後に要介護度が「要支援1・2」に下がると、利用条件を満たさなくなるため退所を求められることがあります。
詳しくは→介護老人保健施設(老健)とは?費用や入所基準、メリット・デメリットを解説【社会福祉士監修】
要支援判定で突然の退所勧告!?
松山晶子さん(仮名・83才・要介護1)は、心身機能の維持や改善を目標に老健に入所してリハビリを続けてきました。老健で懸命にリハビリに取り組んだ結果、心身機能が向上し「要支援2」に認定されました。
しかしこれにより、老健の利用条件を満たさなくなってしまったことで、施設側から1か月以内に退所してほしいと求められる事態に…。老健でのリハビリを継続するつもりでいた松山さんもご家族も、突然の退所勧告に困惑してしまいました。
リハビリによって身体機能が回復したことは喜ばしいものの、その一方で、松山さんとご家族にとっては、今後の介護方針を早急に決めなければならないという新たな課題が生まれました。
今後の介護方針「自宅」か「転居」の2択
松山さんとご家族は、「自宅に戻るのか、別の施設に転居するか」を選択する必要があります。
自宅に戻る場合
松山さんが自宅に戻る場合、介護保険の介護予防サービスを利用することで、在宅生活のサポートを受けられます。
介護予防サービスは、基本的に要支援1・2のかたを対象に、状態の改善と悪化の予防を目的として提供されるサービスです。自宅を訪問してもらう訪問系サービスや、施設に通って受ける通所系サービスなどがあり、利用者の希望に応じた支援を受けることができます。
→「介護予防・日常生活支援総合事業」とは?「介護認定を受けなくても利用できる」サービス内容や活用法を解説
「要支援」のかたが利用できる介護予防サービスの一例
◾️デイサービス(通所介護)
日帰りで食事、入浴、リハビリなどの支援が受けられます。日中の時間を施設で過ごすことで、家族の介護負担を軽減できます。
→デイサービスの超基本【決定版】どんな人にオススメ?社会福祉士ライトさんが解説
◾️訪問介護
ヘルパーが自宅を訪問し、生活支援や身体介助を提供します。家事の手伝いや見守りも依頼できるため、日常の負担を減らすことが可能です。
→「訪問介護」とは 社会福祉士で人気インスタグラマーのライトさんが超簡単に解説
◾️通所リハビリ(デイケア)
医療機関やリハビリ専門の施設に通い、継続的なリハビリが受けられるサービスです。老健退所後も身体機能の維持・改善を目指したリハビリが可能です。
◾️訪問リハビリ
理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、リハビリを提供します。自宅でのリハビリが必要な場合に効果的です。
◾️ショートステイ
短期間、介護施設に入所して、介護や生活支援などが受けられるサービスです。家族の介護負担を軽減する「レスパイトケア」としても利用できます。
→「ショートステイ」とは? 利用条件、介護保険は使える? サービスや費用を徹底解説
これらの介護予防サービスの利用手続きについては、老健の支援相談員やケアマネジャーがサポートしてくれます。利用を検討する場合は、まずは施設へ相談するとスムーズです。
別の介護施設へ転居する場合
在宅生活が難しい場合は、別の施設への入所を検討します。要支援のかたが入居できる主な施設は、以下の通りです。
◾️サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
バリアフリー完備の高齢者向けの賃貸住宅です。安否確認と生活相談のサービスを受けながら、自宅に近い環境で生活を送れます。
→サ高住「サービス付き高齢者向け住宅」とは?費用や入居条件、サービスを解説【専門家監修】
◾️有料老人ホーム
介護サービス、食事サービス、家事援助、健康管理などが提供される施設です。要支援のかたが入居できるのは「介護付き(混合型)」と「住宅型」です。
→介護付有料老人ホームとは?費用や特徴、入居条件をわかりやすく解説「入居者が明かす実情」
→「住宅型有料老人ホーム」とは?受けられるサービスや入居条件、費用を徹底解説
◾️グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
認知症のかたが少人数で共同生活を送る施設です。専門スタッフのサポートを受けながら、自立した生活を目指します。入居には、施設と同じ市区町村に住民票があることが条件です。
→「グループホーム」(認知症対応型共同生活介護)とは?サービス内容や費用をわかりやすく解説
◾️ケアハウス(軽費老人ホームC型)
食事や洗濯などの生活支援サービスを受けながら生活を送る施設です。公的な施設であり、要支援のかたが入居できるのは「C型・一般型」です。
→「ケアハウス」なぜ安い?費用や入居条件、グループホームとの違いを理解【専門家監修】
施設探しは、施設の支援相談員やケアマネジャーと話し合いながら進めます。転居先の施設で受けられるサービスや費用などをよく確認して、希望に合う施設を見つけましょう。
要介護度が再度上がったときに再入所は可能か?
老健を退所した後に要介護1以上に認定された場合、再入所は可能です。老健の入所条件である「要介護1以上」を満たせば、基本的に再入所の申し込みができます。
ただし、老健で対応できない高度な医療的ケアが必要な人や、高価な薬を使用しなければならない人は、再入所を断られる場合もあるため、事前に確認が必要です。
再入所する場合は、改めて入所手続きが必要となりますので、担当のケアマネジャーに相談して手続きを進めましょう。
要介護認定の結果に納得できないときは?
もし、松山さんが「要支援」の認定結果に納得できない場合、以下の2つの方法で要介護認定のやり直しを申請することが可能です。
1. 不服申し立て(審査請求)
各都道府県が設置する「介護保険審査会」に対して「不服申し立て(審査請求)」を行うことができます。
申し立てが認められた場合、要介護認定が取り消され、改めて認定が行われます。
ただし、審査請求には時間がかかるため、早期に再認定を受けたい場合は、次に紹介する「区分変更申請」を選ぶのが一般的です。
2. 区分変更申請
区分変更申請は、1か月程度で結果が通知されるため、早期に再認定を受けられます。ただし、申請しても必ずしも希望通りの介護度になるとは限らない点には留意が必要です。
正しい介護度に認定されるためにできること
介護度が実際の状態よりも軽く判定されるケースでは、認定調査の際に本人が普段以上に頑張ってしまい、正確な情報が伝わらないことが原因となる場合があります。そのため、認定調査には家族が付き添い、普段の様子を調査員に伝えることが大切です。
施設に入所中の場合、施設のスタッフが認定調査に同席する場合が多いですが、家族の同席も可能です。早めに施設側に希望を伝えておくと、認定調査の日程を調整してもらえます。
また、認定調査の前には、施設スタッフから普段の状態や、認知症のあるかたの場合は日頃の様子を聞いておくとよいでしょう。家族が参加することで、より正確な情報を調査員に伝えられます。
最後に
老健に入所後「要支援」となり、退所しなければならない状況になったら誰でも戸惑ってしまうものです。しかし、何の準備もないまま施設から退所を求められるわけではありませんので、ご安心ください。施設の支援相談員やケアマネジャーに相談しながら、退所後の選択肢を考えましょう。また、認定結果に納得がいかない場合は、再認定の手続きも可能ですので、状況に応じて検討するとよいでしょう。