2025年8月から一部の介護保険施設で負担増!いくら増える?対象者は?改正の背景とポイントを専門家が解説
今年の8月から新たに負担が増える介護保険施設がある。どんな施設で、どのくらい負担が増えるのか。その理由や負担額などについて、介護職員やケアマネジャーの経験もある中谷ミホさんに解説してもらった。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。【X】 https://twitter.com/web19606703
介護保険施設の負担増「月額8000円アップ」
2025年8月から新たに負担が増える介護保険施設が(※)あります。対象となるのは、一部の介護老人保健施設(老健)と介護医療院の「多床室」です。
これは2024年度の介護報酬改定に基づいて決定されたもので、月額8,000円程度の室料を新たに負担することになります。
なお、市町村民税非課税世帯など低所得者に該当するかたは負担はありません。対象となる施設や負担額などについて、詳しくご紹介します。
※介護保険施設とは、公的介護保険の施設サービスの対象となる施設で、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院の3つがあります
「室料」とは?何がかわる?
介護保険施設の利用料には、介護保険給付の対象となる基本サービス費のほか、居住費や食費がかかります。居住費には室料や光熱費などが含まれています。「室料」は家賃のようなものと考えるとわかりやすいかもしれません。
今回改正のポイントはこの「室料」の導入にあります。
なお、室料の負担は、部屋のタイプ(個室・多床室など)によって変わります。
特養や老健、介護医療院といった介護保険施設では、個室の場合は居住費に「室料」が含まれています。一方、多床室の場合、室料は基本サービス費に含まれていて室料の負担はありませんでした。改正後は、多床室でも室料の負担が増えたというわけです。
室料導入の理由は「公平性」と「制度の維持」
すでに2015年度から特別養護老人ホーム(特養)の多床室は室料を負担する仕組みになっています。
これは特養の入所者が死亡退所するケースが多く、利用者にとって実質的に「生活の場」となっていることが要因です。
老健や介護医療院については、本来、在宅復帰や医療的ケアを目的とした施設ですが、家族の事情や健康状態によっては長期入所するケースも少なくありません。特に介護医療院は、特養と同様に家庭への復帰が難しい利用者も多く、実質「生活の場」となっているのが現状です。そのため、多床室の室料相当分についても、特養と同様に見直しが必要と判断されたのです。
さらに、介護保険制度の財政を安定させることも理由の一つです。超高齢社会の進展に伴い給付費が増加する中、公費負担を抑えながら制度を持続可能なものにするためには、多くの人が適正に費用を負担をする仕組みが求められます。
対象となる施設
今回の改正により、室料が導入されるのは、以下の条件を満たす施設です。
●「II型介護医療院」の多床室(より生活施設に近い機能を持つ介護医療院)
●老健のうち、「療養型」「その他型」と分類される施設の多床室
●いずれも居室面積が1人あたり8㎡以上確保されている
多床室とは、2〜4人の入所者が共同で生活する大部屋のことです。今回の改正により、上記施設に入所する多床室の利用者は、室料負担を求められることになります。
※「介護医療院」とは?費用はいくら?入所条件やサービス内容、メリット・デメリットを解説
https://kaigo-postseven.com/146754
「補足給付の適用を受けている人」は対象外
多床室の有料化が導入されても、すべての利用者が一律に負担増となるわけではありません。負担限度額認定制度の第1〜第3段階に該当する人(生活保護を受給しているかた、市町村民税非課税世帯のかた)には「補足給付」が適用されるため、今回の多床室の室料導入においても、新たな負担がかからないよう配慮されています。
補足給付(負担限度額認定制度)とは
補足給付とは、介護保険施設を利用する際に、食費や居住費の一部または全部を公的に補助する制度です。
具体的には、利用者の所得や資産、家族構成などの条件を確認し、国や自治体が定める基準を満たした場合に適用されます。補足給付が適用されると、自己負担額に上限が設けられ、それを超える分は公的に補助されます。そのため、利用者は過度な経済的負担を負うことなく、施設サービスを受けられるメリットがあります。
【利用者限度額の段階】
補足給付の支給対象
<認定区分 第1段階>
・対象者:生活保護を受給しているかたなど
・預貯金額:要件なし
・対象者:世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者
・預貯金額:1,000万円(夫婦の場合2,000万円)
<認定区分 第2段階>
・対象者:世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額(※)
+その他の合計所得金額が80万円以下
・預貯金額:650万円(夫婦で1,650万円)
<認定区分 第3段階(1)>
・対象者:世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額(※)
+その他の合計所得金額が80万円超〜120万円以下
・預貯金額:550万円(夫婦で1,550円)
<認定区分 第3段階(2)>
・対象者:世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額(※)
+その他の合計所得金額が80万円超〜120万円超
・預貯金額:500万円(夫婦で1,500万円)
※非課税年金を含む。
参考:厚生労働省 「介護事業所・生活関連情報検索」
URL:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
負担限度額は所得段階、施設の種類、部屋のタイプによって異なります。また、負担限度額認定制度を利用するには、市区町村へ申請書の提出が必要です。
***
今回の多床室室料導入による負担増は、「一定以上の所得があるかた」にのみ適用されるため、所得の低いかたが不安を抱える必要はありません。もしご自分やご家族が対象となるかどうか分からない場合は、施設の相談員やケアマネジャー、またはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口に相談してみてください。