「介護保険料を滞納していた!」介護サービス開始時に発覚した父親の未払い|介護保険料を滞納するとどうなる?滞納を防ぐための対処策など専門家が解説
40才から支払いが生じ、亡くなるまで納付する義務がある「介護保険料」。しかし、離れて暮らす親が認知症を患っていたり、支払いの督促状の意味を理解していなかったりなどで、子どもが気づいた時にはすでに滞納状態というケースも珍しくないという。介護保険料が未払いだと、介護サービスは利用できなくなるのか、発覚後の対処法などを介護職員・ケアマネジャーの経験をもつ中谷ミホさんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
親の介護保険料滞納が発覚
「父の要介護認定を申請したら、介護保険料が2年近く滞納されていると言われて驚きました」とAさん(53才)は振り返ります。一人暮らしの父親Hさん(85才・要介護1)は、認知機能の低下から、支払い督促状などの重要な通知を見落としていたのです。
親の介護保険料滞納が発覚するのは、介護サービス利用を始めようとするタイミングが多いようです。今回は「滞納するとどうなるのか」「発覚時の対処法」について解説します。
介護保険料を滞納するとどうなるのか?
介護保険料の滞納は、すぐに大きな問題に発展するわけではありませんが、滞納期間に応じて段階的に制度上の制限がかかる仕組みになっています。
督促状・催告状が届く
納期限までに介護保険料の納付が確認できない場合、20日以内にお住まいの市区町村から「督促状」や「催告状」が送られてきます。これは、「保険料の納付期限が過ぎていますので、速やかに納めてください」というお知らせです。
督促手数料・延滞金が加算される
督促状が発送されると、本来納めるべき保険料に加えて「督促手数料」が加算されます。さらに、納期限の翌日から実際に納付した日までの日数に応じて「延滞金」も発生します。滞納期間が長くなるほど増えていくため、経済的な負担がさらに大きくなってしまいます。
滞納期間に応じた給付制限
介護保険料の滞納が一定期間続くと、介護サービスを利用する際に「給付制限」という措置が取られるようになります。給付制限の内容は、滞納期間によって段階的に厳しくなります。
1年以上の滞納
介護サービスを受けているにもかかわらず、介護保険料の滞納が1年以上続くと、介護サービスを利用した際の支払い方法が「償還(しょうかん)払い」に変更されます。
償還払いとは、通常、介護サービスを利用する際は、利用料の1割~3割を自己負担し、残りは介護保険から給付されますが、償還払いは、サービス利用時に費用の全額(10割)をいったん本人が負担し、申請によって保険給付分(利用料の9~7割)が後から払い戻されることをいいます。
たとえば、デイサービスなどの月額費用が10万円だった場合、それを一度すべて支払い、あとから申請して7〜9割が戻ってくるという形です。この立替払いだけでも大きな負担となるでしょう。
1年6ヶ月以上の滞納
償還払いで払い戻されるはずだった保険給付分の支払いが一時的に差し止められ、その差し止められた金額が、滞納している介護保険料の支払いに充てられることになります。つまり、本来受け取れるはずだった給付金が、未納の保険料に回されてしまうのです。
2年以上の滞納
利用者が保険料を納めることができる期間は2年です。そのため、納期から2年経過すると、その期間の保険料を支払うことができなくなり、著しく不利な条件が、一定期間に適用されます。
まずひとつに、実際に介護サービスを利用する際の自己負担割合が本来1年負担で済んでいたところを、所得にかかわらず原則として3割(3割の場合は4割に)に引き上げられます。これに加えて、高額介護サービス費や、介護保険施設入所時や、ショートステイ利用時の食費・居住費の負担を軽減する特定入所者介護サービス費といった、自己負担額を抑えるための各種給付も受けられなくなります。
滞納していても介護サービスは受けられる?
制度上、保険料を滞納していても、介護サービス自体が完全に使えなくなるわけではありません。ただし、「償還払い」の対象になると、いったん全額を立て替える必要があるため、家計への負担が非常に大きくなります。
最終的に財産が差し押さえられることも
介護保険料を長期間滞納すると、督促や催告が行われ、それでも支払いがない場合、最終的に「滞納処分」として財産の差押えが実施されることがあります。税金と同様の扱いとなるため、法的な強制力を持つ措置となります。
滞納を防ぐためにできること
こうした事態を防ぐためには、早い段階から対象者に任せきりにするのではなく、家族が関与していくことが重要です。以下のような取り組みを参考にしてみてください。
1.支払い方法の工夫
まず、最も確実なのは、支払い忘れを防ぐ仕組みを作ることです。
・口座振替の活用
金融機関の口座から自動的に引き落とされるように設定しておけば、納付忘れの心配がありません。手続きは、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口や、金融機関の窓口で行えます。
・特別徴収(年金からの天引き)の確認
年金を年額18万円以上受給しているかたは、原則として年金から介護保険料が天引きされます。これを「特別徴収」といいます。ご自身で納付手続きをする必要がないため、滞納のリスクは大幅に減ります。
ただし、年度の途中で65歳になったかたや、他の市区町村から転入してきたかたなどは、一時的に普通徴収(納付書や口座振替で納める方法)になる場合がありますので注意が必要です。
2.市区町村の介護保険窓口に相談する
「どうしても経済的に支払いが難しい…」という場合は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に相談してください。
災害で大きな被害を受けた場合や、所得が著しく減少した場合など、特別な事情があるかたに対しては、介護保険料の減免(減額や免除)や徴収猶予(納付を待ってもらう)といった制度が設けられています。早期の相談が減免や猶予などの制度利用につながり、滞納や差押えなど深刻な事態を防ぐことができます。
3.親の郵便物や支払い状況を定期的に確認する
高齢の家族が一人暮らしの場合、督促状などの重要書類を見逃しているかもしれません。定期的に郵便物を確認し、支払いが滞っていないかをチェックするだけでも、問題の早期発見につながります。
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Aさんのように「知らないうちに親が介護保険料を滞納していた」というケースは、珍しいことではありません。特に、親子が離れて暮らしていたり、お金の話をすることがなかったりすると、滞納発覚が遅れてしまうことがあります。「うちの親は大丈夫」と思われるかたも、この機会に一度、確認してみてはいかがでしょうか。