老人ホームの費用はエリアで変わる「東京・世田谷と神奈川・川崎市で10万円の差も」【社会福祉士解説】
「老人ホームの利用料は都道府県や立地によってかなり差が出てきます」とは、社会福祉士の渋澤和世さん。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、介護サービス相談員としても活動してきた渋澤さんが、老人ホームの費用について考察。「老人ホームの費用が高い」と感じている人は、エリアを変えて選ぶのもひとつの手だという。実際の費用を挙げながら、詳しく解説してもらった。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
老人ホームの利用料は都道府県で差がある
老人ホームを検討する際、気になるポイントとして「費用」をあげるかたは多くいらっしゃいます。
筆者は、高齢者福祉分野を専門とした社会福祉士として数多くの施設を取材してきた中で、費用が気になることがたびたびありました。とくに、立地の違いで月々の支払いに数十万の違いがある場合、自分ならどうするかと自問自答することがありました。
老人ホームを選ぶとき、やはり費用の問題は重要です。
「できる限り希望にあった施設に入居したいけど、あれこれ注文つけると予算オーバーになりそう」「老人ホームの費用は年金だけで払えるかな」など不安は尽きません。
老人ホームの利用料は、もちろん種類やサービス内容で費用は異なりますが、実は「都道府県」など地域による金額の格差はかなりあるのです。
まずは、民間の有料老人ホームを例に、費用の比較をしていきましょう。
老人ホームの月額費用と内訳をエリア別に比較
老人ホームに入居すると、月額費用を支払うことになります。月額費用の内訳は、家賃や管理費・共益費、食費、介護サービス費、日用品費などがあります。
管理費とは、主に「事務管理部門の人件費及び事務費」「栄養士その他フード部門の人件費」「厨房管理費及び備品」など、共益費は主に「水道光熱費」「共用施設維持管理費」にあたります。
有料老人ホームを探す中で、予算が折り合わない場合は、地域を変えて検討するのもひとつの手です。なぜなら、月額費用の内訳の中で、最も多くの割合を占めているのが「家賃」だからです。
賃貸住宅と同様に、家賃は地価によって異なります。同じグレードの施設でも、都市圏と郊外では大きな差が出るのです。
大手が運営している、東京・世田谷区と神奈川・川崎市の宮前区の介護付き有料老人ホームの費用の一例を考えてみましょう。
東京・世田谷区(駅から徒歩15分)の費用
月額費用/40万7240円
家賃:18万円
管理費・共益費:19万1600円
食費:3万5640円
神奈川・川崎市宮前区(駅からバスと徒歩で20分)の費用
月額費用/30万4800円
家賃:10万6000円
管理費・共益費:16万6400円
食費:3万2400円
交通手段の差はありますが、世田谷区と川崎市では、なんと月に10万円の差が開いています。筆者が親を介護していたとき、居住していた川崎市と多摩川を挟んで世田谷区でそこまで差が出るのかと驚いた経験があります。
では、同じく埼玉県の費用を見てみましょう。
埼玉・吉川市(駅から徒歩3分)
月額費用/24万7080円
家賃:8万円
管理費・共益費:13万4680円
食費:3万2400円
このように都心に比べると、埼玉県ではさらに安くなります。
※金額はすべて筆者調査。家賃、管理費・共益費、食費の項目のみで比較、家賃は月払い方式の金額。
利用料が安くても交通費や移動時間がかかる点に注意
エリアは同じであっても、駅から近い場所などアクセスのよいところは地価が高くなるため、家賃も高くなる傾向があります。
また、バスしか通っていないなど交通の便がよくない場所は、比較的安価となります。
しかし、エリアを変えて利用料を安くしたとしても、交通費や移動時間がかかる点には注意が必要です。
家族が老人ホームに入居すると面会や病院の付き添いなど、様々なケースで施設訪問する機会も増えます。施設の利用料だけでなく、移動手段は自家用車か公共交通機関を利用するのか、移動時間は比較的余裕があるのか、いつも多忙で移動時間をかけたくないのかなど、家族の生活状況も合わせて検討する必要があるでしょう。
日本で一番老人ホームの数が多いのはどこ?
前述の比較の通り、同じグレードの施設であっても首都圏では東京都が一番高く、神奈川県、埼玉県と続きます。
上記の金額は、ある運営会社の例ですが、全般的にみても、この順位はほぼ同様で、都心は割高になる一方、地方は割安となる傾向があります。
老人ホームの探し方として現在主流なのは、「老人ホーム紹介センター」と呼ばれる、老人ホームを探している人と入居者を募集する施設を橋渡しする業者を利用する方法です。
高齢者住まい事業者団体連合会によると、全国339法人が老人ホーム紹介業の登録をしています。店舗にて対面で相談できるところもあれば、インターネットを使って検索サイトから電話相談ができる老人ホーム検索サイトなどもあります。
老人ホーム検索サイトが調査した記事によると、全国の老人ホームの費用相場(都道府県別)は、東京都、京都府、神奈川県、千葉県、埼玉県と関東地方が高い傾向にあります。
一方、費用の相場低い都道府県は、宮崎県、青森県、高知県、大分県、佐賀県と、九州が多い傾向があります。
また、総務省が2022年に発表した「統計でみる都道府県のすがた2022」※では、「老人ホーム」が多い都道府県のデータが公開されています。
このデータによると、福祉・社会保障の老人ホーム数では、65才以上の人口10万人あたりの老人ホーム数を比較したランキングが発表されています(2020年時点)。
このランキングでは、1位宮崎県(179.2か所)、2位沖縄県(153.1カ所)、をはじめ、4位に佐賀県(137か所)、6位に大分県(126.5か所)、7位に熊本県(121.9カ所)、8位に鹿児島県(116.8か所)、10位に福岡県(100.8か所)と、九州など南の県が上位を占める傾向が見てとれます。
これらの情報から、宮崎県は老人ホームの利用料が安価で、かつ老人ホームの数は日本一だということがわかります。
また、内閣府の調査によると、宮崎県の高齢化率は33.4%※で全国でも比較的上位にあります(2022年時点)。つまり、宮崎県は老人ホームの利用料は全国的に安価ではありますが、老人ホームの数も多いため、事業としては競争率が高いエリアともいえます。
※内閣府「令和5年版高齢社会白書」都道府県別高齢化率の推移。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_04.pdf
老人ホームの費用は都道府県で差がある【まとめ】
老人ホームの費用で悩んでいる場合は、通える範囲の近隣の県や区など、エリアを変えてみると、価格が下がることがあります。
とはいえ、面会だけでなく、体調の変化などで施設から呼び出されることも多くなりますので、通いやすさも考慮する必要があります。
「安いから」という理由であまりにも遠すぎる都道府県を選ぶことはないと思いますが、交通機関や道路の状況を確認して許容範囲の中でエリアを検討し、ご家庭が支払える範囲の老人ホームを検討してみることをおすすめします。
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