健康

認知症に似た病気|間違いやすい「せん妄」「老人性うつ」など誤診に注意

 高齢化社会の拡大とともに、増加傾向にある認知症。とはいえ、物忘れが増えた、突然妄想が始まった…などから、家族を「認知症」と決めつけてしまうのは危険。

 認知症のような症状が実は、老人性うつやせん妄、肝性脳症など別の病気であることも多々あるのだ。それらを正しく見極められず、誤診してしまう医師も少なくないというから要注意。そこで、認知症に似た病気に関する記事を集めた。家族を守るためにも、正しい知識を身につけておこう。

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認知症よりも怖い「老人性うつ」の見分け方と症状

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 うつ病は、子どもから高齢者まで幅広い年代にみられる病気だが、実は老年期の発症は他の年代よりも確率が高い。厚生労働省の2014年の患者調査によれば、65歳以上の高齢者でうつ病で入院した患者は全国で1万人。64歳以下の合計8000人と比べて多い。高齢者のうつ病は「老人性うつ」と呼ばれている。精神科医として長年、さまざまな精神疾患を治療してきた「ストレスケア日比谷クリニック」(東京・千代田区)の酒井和夫院長が語る。

「老人性うつで怖いのは、やはり自殺です。内閣府の『平成26年版高齢社会白書(全体版)』では、2013年の60歳以上の自殺者数は1万1034人。年代別に見ると70代以上が年々増加しています。そもそも、老人性うつとはどのような病気なのか説明しましょう。

 老年期のうつ病と他の年代のうつ病には、本質的な違いはありません。私のクリニックには、小中学生から60~70代の方まで様々な患者さんがいらっしゃいますが、基本的にうつ病の症状は、喜びの喪失、意欲の低下、思考力の低下、この三つの条件に当てはまります。加えて、老人性うつの患者さんには、原因不明の身体的な症状を訴えるケースが多いという特徴があります。 検査で病気がないと判明しているのに、体の不調を訴え続けることが多いのです。

 また、老人性うつは、認知症と見分けがつきにくい病気でもあります。私は1年ほど前からクリニックでの診察のほかに在宅診療も行っているのですが、私の診療の中では認知症よりも老人性うつの方が多いと認識しています。認知症との一番の違いはひどい物忘れが見られないことです。認知症と疑う前に、老人性のうつである可能性も視野に入れてください」

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認知症 早期診断・治療にはデメリットも

 高齢になると、認知症になる前に前頭葉の萎縮によって、意欲の低下や感情のブレーキがきかなくなる、判断力が低下する、元々の性格がより尖る──などの老化現象が現れてくるという。

 すると、家族は焦って認知症に違いないと決めつけて治療を始めようとしてしまうが、『困った老人のトリセツ 』(宝島社)を上梓した老年精神医学の専門医・和田秀樹さんは「日常生活に問題がないなら早期診断や早期治療は避け、今まで通りの日常を送る方がかえって認知症の進行は遅くなる」と、認知症は早く見つける方がいいとの説に一石を投じている。

「認知症の発見は、遅くなっても問題はないんです。認知症は治療をすれば進行を抑えられるので、早期発見が大切だといわれることもあります。確かに、治療に使われるアリセプトという薬には、働いていない脳を働いているかのような状態にする作用があるので役立つでしょう。ただ、早期診断や早期治療には大きなデメリットもあります。

 いちばん悪いのは、認知症であることを家族が大きく受け止めすぎて、今できていることを奪ってしまうことです。これまで多くの患者を診てきて、認知症になっても自由に出歩いたり、農業や漁業などの仕事を続けていた人たちの認知症は進行せず、部屋などに閉じ込められて、今までしていた店番や留守番、孫の世話などもさせてもらえなくなった人たちは早く進行している。つまり、頭や体を使わないことが脳の老化を進ませるいちばん大きな原因と考えました」

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認知症と間違えがちな「せん妄」にはどう対処?

 東京―岩手と遠距離で、認知症の母の介護している工藤広伸さん。家族の目線で“気づいた”“学んだ”数々の介護心得をブログや書籍などで公開し話題となっている。当サイトでも、介護にすぐ役立つ情報を連載で執筆してもらっている。今回のテーマは、認知症と間違えやすいと言われている「せん妄(もう)」についてだ。

 わたしの父(当時75歳)は小腸に穴が開いたため、切除してつなぎ合わせるという手術を受けました。術後の父は口に管を通し、人工呼吸器を使っていました。抜管した後から少しずつ話せるようになった父は、わたしにこう言いました。

「この部屋には、蚊がいる」

 わたしは最初、何を言っているのだろうと思いました。というのも、父の居た集中治療室に家族が入るためには、手を除菌し、マスクにガウン着用をしなくてはいけません。そんな厳重管理された部屋に、蚊などいるわけがありません。

 さらに父は「幽霊が出た」と言い、看護師さんに暴言を吐くようになりました。また、寝言のように「(自分が住む)部屋の畳を変えてくれ」と、繰り返し言うようになったのです。集中治療室から出た父は、さらに検査が必要となり、別の病棟で数週間入院することになりました。検査の結果、悪性リンパ腫と判明し、新しい医師が担当することになりました。

 その医師は父の言動から、「認知症の疑いあり、今後の治療方針はお父様ご自身の判断ではなく、家族の判断が必要」と診断書に書きました。とうとう父は、自分で判断できなくなるまで弱ってしまったのか…そう落ち込んでもおかしくない状況でした。しかし、わたしは認知症ではなく「せん妄」ではないかと疑ったのです。

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認知症と疑われる異常行動 肝性脳症の例も

 時間や場所がわからなくなる、家族を認識できず、殴るなどの異常行動に対しては認知症が疑われる。ところが、認知症の治療をしても、症状が全く改善しない症例もあり、原因が肝不全による意識障害(肝性脳症・かんせいのうしょう)だったという例が珍しくない。肝臓機能低下や門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)で、腸管からの血液が肝臓を経由せずにアンモニアなどが全身に回り、脳神経障害を起こすため、適切な診断と治療が必要だ。

 ウイルス性肝炎の患者は日本全国に200~300万人いるといわれている。近年はアルコール性肝障害や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も加わり、肝硬変をはじめとする肝不全の患者数は増加中だ。初期の肝硬変は無症状が多く、進行すると消化管出血や黄疸、腹水、感染症、意識障害(肝性脳症)などが起きる。

 肝性脳症の症状は1~5段階に分けられる。1段階目では、なんとなく“ボー”としている程度で、周囲に気付かれないことも多い。2段階目になると時間や場所がわからなくなる、モノを取り違える、家族を認識できなくなる、お金を撒くなどの異常行動を起こす。3段階目では突然昏睡が起き4段階目、5段階目と進むにつれ、痛みを感じないほどの深昏睡状態になる。日本大学医学部附属板橋病院消化器・肝臓内科の神田達郎准教授に話を聞いた。

「肝性脳症が起きるメカニズムには大きく分けて2つあります。1つは肝臓そのものの機能低下により、血中のアミノ酸バランスが崩れ、神経伝達を阻害するようになること。2つ目は肝臓や、その周辺に側副血行路という新生血管ができ、本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの有害物質が側副血行路を介し、体中に循環することで脳神経細胞機能が障害されるのです」

 肝性脳症は肝硬変だけでなく、原発性胆汁性胆管炎や急性肝不全(劇症肝炎)などでも発症することがある。他にも肝機能の数値はほぼ正常なのに、側副血行路が発達したせいで、比較的若い年代でも症状が起きる場合もあり、注意が必要だ。

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「認知症」誤診は多い? 正しい医者の選び方

 どこの町にも小児科はだいたいあるが、老年内科や老年病科など、高齢者を専門に診る診療科はとても数少ない。多くの人は普通の内科で診察を受けているが、実は、高齢者の体についてきちんと理解して診ることができる医者は、大学病院の老年科でさえ、とても少ないという。

 高齢者を理解している医者に診てもらえるかどうかはとても大きな選択で、高齢になるほど病院と医者選びでQOLが変わると、『困った老人のトリセツ 』(宝島社)を上梓した老年精神医学の専門医・和田秀樹さんはいう。

 高齢者といっても70代前半の人と80才後半の人とでは、薬の処方も血圧の下げ方も変わってくるものだが、それを知らずに高齢者を診ている医者は多い、と和田さん。

 認知症の診断にしても、高齢者を知らない医者は、物忘れや落ち込み、何もしなくなる…といった症状を一括りに認知症と決めつけがちだが、実は認知症ではなく、うつ病やせん妄、単なる物忘れであるケースも。それら本当の原因を放置してしまうと、逆に本当の認知症へ移行していってしまうというのだ。

「高齢者は神経伝達物質のバランスが悪くなり妄想を起こしやすいんです。せん妄は、虫が飛んできて見えるとか、テレビの中から天皇陛下が声かけてきたなど幻覚を伴うことが多いですが、ある種の意識障害、要はひどい寝とぼけ状態に近いので、短期間で治ります。せん妄に関しては放っておいても良くなることさえあります。ですが、これを認知症と勘違いする医者は少なくありません。

 認知症とせん妄、あるいはうつ病との圧倒的な違いは、認知症はちょっとずつ脳が衰えていくため、物忘れがいつから始まったかが特定できないことが多い。

 うつ病による物忘れの場合は、夫が死んだ途端になった、というように割と急になります。せん妄の場合は、入院した途端に、風邪薬を飲ませた途端に…というように、もっとはっきり原因がわかります。それをみんな一緒に『認知症』としてしまうと、うつ病など治療できる病気が放置されてしまう危険があります。ある程度、診察を受ける側も知識を持っていないと疑うことがないですよね。

 老人医療の場合ほとんどが内科医ですし、医者が必ずしも高齢者をよく知っているとは限りません。精神科の医者でも、高齢者専門の精神科医は少なく、老人を診ていない医者は薬をたくさん出してしまうことがあります。たとえば高齢者の妄想は、統合失調症の人の1/10の薬でだいたい良くなることが多く、逆に統合失調症の人と同じ量を出してしまうと、すぐにパーキンソン症状が出てしまうんです」

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初出:女性セブン、週刊ポスト

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