正しい病院の選び方|高齢者の体を知らない医者は誤診する!?
どこの町にも小児科はだいたいあるが、老年内科や老年病科など、高齢者を専門に診る診療科はとても数少ない。多くの人は普通の内科で診察を受けているが、実は、高齢者の体についてきちんと理解して診ることができる医者は、大学病院の老年科でさえ、とても少ないという。
高齢者を理解している医者に診てもらえるかどうかはとても大きな選択で、高齢になるほど病院と医者選びでQOLが変わると、『困った老人のトリセツ 』(宝島社)を上梓した老年精神医学の専門医・和田秀樹さんはいう。
「高齢者を知らない」医者に診断される不幸
高齢者といっても70代前半の人と80才後半の人とでは、薬の処方も血圧の下げ方も変わってくるものだが、それを知らずに高齢者を診ている医者は多い、と和田さん。
認知症の診断にしても、高齢者を知らない医者は、物忘れや落ち込み、何もしなくなる…といった症状を一括りに認知症と決めつけがちだが、実は認知症ではなく、うつ病やせん妄、単なる物忘れであるケースも。それら本当の原因を放置してしまうと、逆に本当の認知症へ移行していってしまうというのだ。
「高齢者は神経伝達物質のバランスが悪くなり妄想を起こしやすいんです。せん妄は、虫が飛んできて見えるとか、テレビの中から天皇陛下が声かけてきたなど幻覚を伴うことが多いですが、ある種の意識障害、要はひどい寝とぼけ状態に近いので、短期間で治ります。せん妄に関しては放っておいても良くなることさえあります。ですが、これを認知症と勘違いする医者は少なくありません。
認知症とせん妄、あるいはうつ病との圧倒的な違いは、認知症はちょっとずつ脳が衰えていくため、物忘れがいつから始まったかが特定できないことが多い。
うつ病による物忘れの場合は、夫が死んだ途端になった、というように割と急になります。せん妄の場合は、入院した途端に、風邪薬を飲ませた途端に…というように、もっとはっきり原因がわかります。それをみんな一緒に『認知症』としてしまうと、うつ病など治療できる病気が放置されてしまう危険があります。ある程度、診察を受ける側も知識を持っていないと疑うことがないですよね。
老人医療の場合ほとんどが内科医ですし、医者が必ずしも高齢者をよく知っているとは限りません。精神科の医者でも、高齢者専門の精神科医は少なく、老人を診ていない医者は薬をたくさん出してしまうことがあります。たとえば高齢者の妄想は、統合失調症の人の1/10の薬でだいたい良くなることが多く、逆に統合失調症の人と同じ量を出してしまうと、すぐにパーキンソン症状が出てしまうんです」
高齢者をよく知る医者の見つけ方とは
誤診されないためには、高齢者を良く知る医者に診てもらうことがとても重要。では、「高齢者をよく知る」医者の見つけ方は? そのポイントを教えてもらった。
「高齢者にとっていい病院かどうかは、待合室にいる高齢者が元気かどうか、笑顔かどうかを見るといいですね。要するに、薬を出し過ぎず適量の薬を使っているからみんな元気なんですから。待合室にいる老人が元気で旅行の相談をできているのは、医者の励まし方が上手く、生きる意欲を先生が出させているということ。みんなが黙りこくってヘロヘロなのは、よほど薬を出し過ぎているということかもしれない。ちゃんと話を聞いてくれたり、医師が検査データに一喜一憂しない点も大事だと思います」
逆にこんな医者には注意! 高齢者のことをよく知らない医者を見分けるポイントは、患者を診ない、症状を聞かない、薬を変えない医者だという。
「日本老年医学会が、『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』というものを出しているのですが、私から見たら、その内容は無茶苦茶です。たとえばうつで死ぬ高齢者はとても多いのに、うつ病の薬はほとんどが危険な薬とされています。また胃腸障害の副作用が多い骨粗しょう症の薬は、一つも投与を控えるべき薬に入っていません。
また、患者を診ないで電子カルテのデータだけ見て薬を出すような医者はだめですね。AIができたら失業しますよ。
症状を聞かず、血圧の薬を飲んでフラフラすると患者が訴えても、“これが合っている”“ちゃんと血圧は正常になっている”などと言って薬も変えないような医者もだめ。そういうところで判断するしかないでしょうね。本当に勉強している医者かどうかは、エビデンスをある程度答えられるかどうかで判断できると思います。たとえば血圧が高い人の血圧を下げなければいけない理由は、脳卒中や心筋梗塞を減らすためです。血圧が下がっただけで喜ぶのは意味が無いのです。検査データが正常化することだけではエビデンスと言えない。病気を減らすことができる薬を出せる医師が『良い医師』なんですよ」
教えてくれた人
和田秀樹さん/精神科医。老年精神医学の専門医。著書に「困った老人のトリセツ」(宝島社)などがある。
取材・文/介護ポストセブン編集部
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