がんの免疫治療研究者が教えるきのこ菌活でがん予防|免疫力を鍛えるきのこ料理レシピ
医療は日進月歩。がん治療も目覚ましい進化を遂げている。実は自分ががんになり、医師から「抗がん剤を使う」と告げられたとき、無治療の道も考えた。なぜなら当時、私は薬というものに抵抗があった。ましてや抗がん剤と聞くと悪いイメージしかなかった。
そこで抗がん剤を調べてみた。すると驚くことに薬の約4割が、植物など自然由来のものだと知った――
10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン剤治療等を行った女性セブン記者(59才・その後、再発はなし)。彼女が、各種治療とともに真剣に取り組み、確信に至ったのが「食生活の見直しで体は必ず変わる」ということ。自らの体験を踏まえつつ、本誌記者が「がんに克つ食事」をレポートします。
きのこはオプジーボ同様、免疫抑制の蓋を開ける働きがある
かつて最新医療の現場で使われてきた抗がん剤「レンチナン」と「クレスチン」。横文字になると後ずさりしてしまうが、成分はきのこの「しいたけ」と「かわらたけ」。正真正銘、天然由来の抗がん剤である。今回はその研究に長年携わった柴田昌彦さんに、免疫機能を改善する菌活の話を聞いた。
─最近、がんに対する免疫療法が注目されていますが。
柴田さん(以下、敬称略):私は30年前から免疫について研究を行ってきましたが、当時は「がんの治療に免疫療法なんて効かない」とよく言われました。それが昨年、PD-1という分子の研究がノーベル賞を受賞し(※)、免疫治療薬のオプジーボが使われるようになりました。やっと光がさした感じです。
※医学博士の本庶佑さんらが行った免疫チェックポイント阻害因子「PD-1」の発見と、がん治療への応用が評価され、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
─免疫とは簡単にいうと、どんなものなのでしょうか?
柴田:免疫とは体内に病原菌や毒素、その他の異物が混入したときの防御機能のことをいいます。実は人間の体というのは、何千万という細胞が毎日がん化しているんです。しかしそのほとんどが本来備えている免疫が働くことによって、がんにはならないことが知られています。
また、免疫療法でがんが小さくなったり寿命が延びます。いわゆる「T細胞」と呼ばれている免疫の兵隊が、がんを退治してくれるわけです。ところが、がん患者さんの体内では、この免疫の兵隊が働くことを阻害する「免疫抑制作用」があることが明らかになりました。がんを攻撃してくれる免疫が働かなくなるわけですから、当然がんは増殖します。そこで、この抑制された免疫を通常の状態に戻すためのさまざまな研究が続けられてきました。ノーベル賞をとったPD-1/オプジーボもその1つ。
私が研究してきた「きのこ」も、同じように免疫抑制の蓋を開ける働きも有していました。
─きのこに着目したきっかけは?
柴田:1960年代に日本の山村で、がん患者さんがいない集落があったんです。その集落の生活習慣を調べてみると、ある農家さんが作っている「しいたけ」に行き着きました。栽培する土壌や気候風土のせいか、かなり大きいしいたけで、調べてみると、きのこの根である菌糸体の成分β-グルカンに、免疫機能を改善する効果があることがわかったのです。「これは、がんの予防や治療に使える」と、このときから、しいたけを中心に、きのこの研究が始まりました。しいたけから抽出した成分は、がんに対して高い効果があり、がん治療薬として厚生労働省も承認。保険診療の抗がん剤として長年にわたり使われていたんです。
─最先端医療の現場で、きのこが活躍していたんですね。
柴田:しいたけの根である菌糸体や、普段食べているしいたけの子実体、その他サルノコシカケ科のかわらたけも薬として認可されました。ただしこれらは他の抗がん剤に比べて作用が強くなく、どちらかというと漢方の生薬に近い。ですので現在は医療現場からは外れて、一部が民間薬や健康食品として使われています。
「バランスのよい食事」「料理を楽しむ」「おいしく食べる」で免疫力を鍛える
─スーパーなどで売っているきのこ類の効果はどうなのでしょうか?
柴田 正直いって薬ほどの効果はありません。きのこを食べたからがんが治る、予防できる…という効果も証明されていません。しかし、きのこが健康によい菌食材であることは確かです。何よりも薬と違っておいしく食べられる点が魅力です。積極的に取ることによって免疫への効果は期待されます。
─免疫力を鍛えるためには、どんな食事を心がけたらよいですか?
柴田 まずなんといってもバランスのよい食事を取ることです。「菌活」という言葉がありますが、きのこや納豆などの菌類や、植物繊維が豊富な野菜、肉類のたんぱく質などバランスよく取って、腸内細菌を良質なものにすることが大切だと思います。人間は総数にして600兆から1000兆個の微生物と共存しています。中でも腸内細菌は人類にとって必要不可欠な存在。植物の消化やビタミンの合成を行い、免疫作用にも密接にかかわってきます。そういった意味でも、バランスのよい食事で腸内を整えることが重要です。
─菌活が、がん予防の最前線に?
柴田 腸内を整える日々の食事は、免疫学の分野でも注目されています。あの食材はダメ、この食材でなければならない…と、不安の中で食事をするのではなく、“料理を楽しみ、おいしく食べる”ことも免疫を上げる大切な要素です。あとは適度な運動を心がけ、ストレスをなくし睡眠をよくとること。生活にバランスのよいリズムを作ることも、がんを予防する大事な免疫療法といえるでしょう。
スーパーで買えるきのこの効能
●しいたけ
ビタミン、食物繊維が豊富。免疫機能を改善するβ-グルカンを多く含み、民間薬や健康食品、中国医学では生薬として使われている。
●ぶなしめじ
カルシウムの吸収率を上げるビタミンDや、ビタミンB₁、B₂、糖質の代謝を促し疲労回復効果のあるリジンを多く含む。
●えのきたけ
ビタミンB1、B2が豊富。えのきたけの抽出物から、体脂肪率や内臓脂肪率を低下させる試験も行われている。
●ひらたけ
古くから日本で食べられてきたきのこ。骨を健康に保つビタミンDや、血液の流れをよくするナイアシンなどを多く含む。
●まいたけ
ビタミン、ミネラル、食物繊維に富み、特に亜鉛、ビタミンDが多い。体の免疫力を高めるとして、さまざまな研究がなされている。
●エリンギ
日本では自生せず、1990年代に栽培がはじまる。体内の余分な塩分(ナトリウム)を排出するカリウムを多く含む。
●なめこ
免疫機能を改善するβ-グルカン、肌の保水に使われるコンドロイチン、二日酔いに効くとされるナイアシンなどを含んでいる。
●きくらげ
食物繊維量はごぼうの約3倍(茹でた状態で)、ビタミンDの含有量は食品の中でもトップクラス。腸内細菌を整える健康食材。
家で楽しめるきのこ栽培
きのこを購入する場合に注意したいのが産地。外国産の一部には残留農薬の多いものもあるので、なるべく出所のわかる品を選びたい。市販のしいたけ用菌床を使えば、家庭で安心安全のきのこを栽培できる。
しいたけ菌床は約1週間で収穫可能。ニョキニョキと毎日伸びる様子を子供と一緒に観察できて楽しい。菌床はきのこ専門店やインターネットなどから購入可能。
免疫力を鍛える「きのこ料理」レシピ
●きのこと豚肉のマスタード炒め(3〜4人分)
<材料>
豚肉 250g
しいたけ 2個
エリンギ 1本
しめじ 1/2パック
玉ねぎ 1/4個
ピーマン 1個
オリーブオイル 大さじ2
粒マスタード 大さじ2
塩、こしょう 少々
<作り方>
【1】しいたけは薄切り(石突きも薄切り)、エリンギは半分に切って縦に薄切り、しめじは石突きを取ってバラバラにする。
【2】フライパンでオリーブオイルを熱し、薄くスライスした玉ねぎと、細切りにしたピーマンを軽く炒め、きのこ類を加えて炒める。
【3】【2】を皿にとり、同じフライパンで豚肉を炒める。
【4】【3】に【2】と粒マスタードを入れて軽く炒め、塩こしょうで味を調える。
●きのこのレモンソテー(2〜3人分)
<材料>
しいたけ 4個
しめじ 1パック
えのきたけ 1パック
オリーブオイル 大さじ1
塩、こしょう 少々
<A>
レモンスライス 4枚
レモン汁 大さじ2
白ワイン 大さじ1
<作り方>
【1】しいたけは4等分に切り、えのきたけとしめじは石突きを取って小房に分ける。
【2】フライパンにオリーブオイルを入れ、【1】を入れて軽く炒める。
【3】【2】にAを加えて蓋をして2分加熱。
【4】最後に塩こしょうで味を調える。
●きのことしらたきのしょうが炒め(2〜3人分)
<材料>
しいたけ 1個
しめじ 50g
しらたき 200g
にんじん 20g
ピーマン 2個
しょうが 20g
にんにく 1片
ごま油 小さじ2
酒 大さじ2
しょうゆ 大さじ1
塩、こしょう 少々
<作り方>
【1】しょうが、にんじんは千切り、ピーマンは細切り、しいたけは薄切り、しめじはバラバラに、にんにくはみじん切り。
【2】フライパンにごま油を入れて、しょうが、にんにくを炒める。
【3】香りが出たら【2】ににんじん、きのこ類、酒を加えて、きのこに火が通るまで炒める。
【4】しらたき、ピーマンを加えて炒め、しょうゆ、塩こしょうで味を調える。
●きのこご飯(2合分)
<材料>
まいたけ 100g
はつたけ 100g
玄米 2合
オリーブオイル 小さじ2
<A>
昆布だし 200ml
酒 大さじ2
しょうゆ 大さじ2
<作り方>
【1】まいたけは手でほぐし、石突きの方は薄切り。はつたけは、薄くスライスする。
【2】鍋にオリーブオイルを入れて加熱し【1】を軽く炒める。
【3】【2】にAを入れて、中火で5分ほど煮る。
【4】炊きあがった玄米ご飯に、【3】を混ぜ合わせれば出来上がり。
教えてくれた人
研究者・柴田昌彦さん/一般外科、消化器がんの診療とともに、長年にわたり、がんの免疫治療を研究。埼玉医科大学国際医療センター消化器腫瘍科・教授。福島県立医科大学先端癌免疫治療研究講座・特認教授、消化管外科学講座・教授。
撮影/茶山浩
※女性セブン2019年5月9・16日号