「介護の仕事を辞めて家でゴロゴロしている息子が心配」憂う母を毒蝮三太夫が伝える“息子への寄り添い方”|「マムちゃんの毒入り相談室」第57回毒蝮三太夫
親の心子知らずと言うが、子の心も親はよくわからない。資格を取って始めた介護の仕事なのに、3年で辞めて実家に戻ってきた30歳の息子。ゴロゴロしている日も多く、58歳の母親はこの先どうなるのかと心配をふくらませている。マムシさんは「責めても仕方ない。まずは仕事を辞めた理由をじっくり聞いてあげよう」と勧める。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「仕事を辞めて実家に戻ってきた30歳の息子の将来が心配」
キクちゃん(林家木久扇)が3月末で、長くやってきた「笑点」を卒業したね。俺とキクちゃんは、彼が「笑点」に出始める前から、(立川)談志なんかといっしょに大勢でドライブに行ったり、何かと言えば飲みに行ったりしていた仲間だ。
ああやって最後の出番まで元気いっぱいで、面白いことを言って見てるこっちを笑わせて去っていく。じつに見事な引き際だった。なのに、また次の週にチラッと顔を出してオチを付けたのは、じつにキクちゃんらしいね。「笑点」は卒業したけど、落語家を引退したわけじゃない。これからも「バカの天才」っぷりを楽しませてもらおうじゃないか。
今回は、58歳の女性からの相談だ。なるほど、親としちゃあ、心配だよな。
「一人息子のことで相談です。息子は現在30歳。介護福祉士の資格をとって、3年間は介護施設で働きました。当時は一人暮らしもして、ようやく親元を離れたと思っていたのですが、介護の仕事は責任が重すぎてつらいと辞めてしまってからは、また家に戻ってきました。
今は、アルバイトをしたりしなかったり、家でゴロゴロしている日も多いです。用事を頼めばやってくれるのですが、家にお金を入れるほど収入もないので、主人と私が養っているといっても過言ではありません。仕事を辞めてしばらくは、少しのんびりしてもいいのかなと甘く見ていたのですが、今は、この状態がいつまで続くのだろうと不安になっています。
主人は、本人がやる気にならなければまわりが何を言ってもダメだろうから、もうしばらく放っておけばいいと言います。主人も私もあと数年で定年退職です。先々のことを考えると、心配で夜も眠れなくなります。息子には、なんと声をかければいいでしょうか」
回答:「仕事を辞めた本当の理由を話してくれるまで待ってみようよ」
あなたの息子は、やさしい気持ちを持った素晴らしい若者だよ。楽な仕事じゃないのはわかっているのに、介護の世界に行こうと決めて、勉強して「介護福祉士」という国家資格を取得した。簡単に取れる資格じゃない。夢や希望を持って飛び込んだ世界のはずだけど、残念ながら3年で辞めっちゃったわけだ。
ご主人が「もうしばらく放っておけばいい」と言うのもわかる。本人は自信を無くしていて、仕事を辞めた自分を責めてもいるだろう。あなたはそうじゃないだろうけど、そんなときに親が「これからどうするつもりなの」「今のままじゃよくないわよ」なんてしつこく言ったら、ますます追い詰められてしまう。息子は今、心にケガを負ってるんだってことを忘れちゃいけない。親は往々にして「心配している自分」しか目に入らなくなるけどな。
ケガの痛みを和らげるには、ゆっくり話ができそうなタイミングで、「仕事を辞めた本当の理由」を聞いてみるのがいいんじゃないかな。「責任が重すぎて」と本人は言っているみたいだけど、それは最初からわかっていたはずだ。もしかしたら、周囲との人間関係がうまくいかなかったのかもしれない。だとしたら、親には話しづらいからね。
俺としては、こういうやさしくて努力家の息子さんには、また介護の仕事に戻って活躍してほしい。このまま貴重な人材を失ってしまうのは、介護業界はもちろん、日本にとっての大きな損失だよ。何より、せっかく頑張って資格を取って就いた仕事なんだから、ここで離れちゃったら本人の中で大きな悔いが残る。いろんな意味で、もったいない話だ。
結局は息子さんが自信を取り戻して、次の一歩を生み出す勇気を出してくれるのを待つしかない。親であるあなたたちは、息子さんの話に耳を傾けて、「それはたいへんだったね」「がんばったね」とねぎらってあげよう。批判やアドバイスなんかするんじゃないぞ。甘やかすわけじゃなくてまずは受け止めてあげることが、ケガの治療には必要なんだ。
きつくて給料が安いことで有名だった介護業界だけど、なり手不足がいよいよ深刻になってきた。ここ数年、国も業界も危機感を募らせて、大きく変わろうとしている。給与の面もそれなりに改善されたし、人口知能(AI)や介護ロボットを導入して、職員の負担を軽くしようという動きも進んでいるみたいだ。
人間関係にしたって、いろんな年代や立場の人が働いているから、やっぱり難しいところはある。施設としては長く働いてほしいから、みんなが気持ちよく働ける配慮やルール作りに力を入れるようになった。息子さんがもう少し元気を取り戻したら、いろいろ調べて、働きやすそうな施設をいっしょに探してみるのもいいんじゃないかな。
介護職というのは、医師や僧侶と同じように、死に直面している仕事だ。ある意味、神に近い職業だと言ってもいい。一度はその道を選んでくれた息子さんが、また復帰してくれることを俺は強く願っている。不安の種をひとつずつ取り除いて、そして我が子が持っている力を信じてじっと待てば、きっとまた力強く歩き始めてくれるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『押してはいけない 妻のスイッチ』(青春出版社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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