「スマホもできず、世の中についていけない」嘆く高齢女性を毒蝮三太夫が励ます「マムちゃんの毒入り相談室」第53回
「高齢者」と呼ばれる年齢になると、世の中の変化になかなか付いていけない。自分が時代遅れになっていて、ひと様の迷惑になっている気がすると言う79歳の女性。そんな嘆きのメッセージに対して、マムシさんは「生かされているのは、神様がまだあなたは世の中の役に立つと思ってるからだ」と、力強い励ましの言葉を贈る。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「自分が時代に取り残されてしまったみたいで憂鬱です」
もう12月か。正月が来たと思ったら、あっという間に師走だ。オレも、ちょっと前に「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」に出てたつもりでいたんだけど、今年は「ウルトラセブン」が55周年を迎えたらしい。このあいだ東京ドームシティで、ダン役の森次晃嗣、アンヌ役のひし美ゆり子、アマギ隊員役の古谷敏とトークイベントをやってきた。
今でも、たくさんのファンが「ウルトラ」シリーズを応援してくれる。若いお客さんも多かったな。みんな目を輝かせて話を聞いてくれて、俺たちは本当に幸せ者だよ。まだまだ60周年、70周年、100周年ぐらいまでがんばらなきゃな。ハハハ。
今回の相談は、おっ、メールの頭に「祖母から頼まれて、孫が書いています」とある。「祖母は毒蝮さんのファンです。このサイトで、毒蝮さんに悩みの相談ができることを知って、祖母に話したところ、代わりに書いてくれほしいと頼まれました」だって。しっかりしたいい孫じゃないか。本人は79歳らしい。なになに、どういう相談かな。
「毒蝮さん、こんにちは。いつも楽しくラジオを聴いていましたが、最近は聴きそびれてしまうことが多くなってしまいました。わたしはスマホもよくわからなくて、どんどん時代遅れになっています。孫は優しくて、いつも教えてくれますが、一人ではできません。世の中は便利になっていますが、年寄りには、ついていけないことばかり。だんだんひと様の迷惑になっている気がします。でも、こうやって、孫に助けてもらえるので幸せだと思っています。毒蝮さん、どうぞお元気で」
回答:「謙虚なあなたはチャーミングだね。スマホなんてできなくていい。孫とやり取りすることで、実は十分役に立っているんだよ」
相談じゃないみたいだけど、まあいいや。なるほどなあ、スマホがよくわからなかったりして、自分が時代遅れになったみたいで憂鬱になってるわけか。「ひと様の迷惑になっている気がします」とまで言ってる。
はっきり言うけど、そんなことは絶対にない。ギニア共和国から来たオスマン・サンコンさんが、いつだったか「年寄りがひとり死ぬのは、図書館が一軒焼けるのと同じだ」と言ってた。なにも特別な人生を歩んできた必要はない。ごく普通の年寄りだって、70年80年生きてきたら、その人はその分の歴史や知識を持ってる。それは等しく尊いんだ。
生きてるってことは、神様が「あなたはまだこの世の中の役に立てるんですよ」と言ってくれてるという意味なんだよ。自信を持とうじゃないか。あなたは、自分は役に立たないなんて言ってるけど、そういう謙虚さはとてもチャーミングだ。素敵な心持ちだよ。世間には、いつまでも自分が主役のつもりでいるジジイやババアが多いんだから。
だから、こうやって孫にも助けてもらえる。世話を焼かれるってことは、焼かれるだけのチャーミングな魅力を持ってるからだ。「助けてもらえるので幸せ」とも言っている。感謝の気持ちを忘れないってのも素晴らしいね。きっとあなたは、元気なころに人のためになることをたくさんやってきたに違いない。だから今、善行が自分に戻ってきてるんだ。
スマホが使えないことなんて、ぜんぜん気にしなくていいよ。俺だって使えない。孫に使い方を教えてもらったときに「私たちが子どものころは電話なんてなくて、糸電話で楽しく遊んだのよ」なんて話をして、「おばあちゃん、古いね」なんて笑われたっていいじゃない。孫が知らない時代の貴重な話を伝えて、十分に役に立っているわけだ。
スマホどころか携帯電話もなかったころと今とでは、待ち合わせの光景もずいぶん変わった。その頃は何十分も、ヘタすると何時間も待ってるなんてことがあったよね。そう言えば昔、三橋美智也さんに「待たされたほうは怒っちゃいけない」と教わった。
待たせたほうは申し訳ない気持ちで恐縮してる。「遅れてごめん」と言われて、怒ったりしないで「いやいや、気にしてないよ」と笑顔で返したら、相手はすごく気持ちが楽になる。それが思いやりってヤツだ。相手の気持ちを汲み取ってやさしい言葉をかければ、自分だって嬉しい気持ちになるし、もっと仲良くなれる。三橋さん、いいこと言うなと思ったね。
だけど今はスマホですぐ連絡がついちゃうから、汲み取る余地がない。すぐに相手を責めちゃう。トイレも汲み取り式がなくなったけど、人の気持ちも汲み取らなくなったね。
なぜかトイレの話になっちゃったけど、要するに79歳のあなたにしか話せないことがあるってことだ。いい話なんかしなくても、お孫さんはあなたと接することで、たくさんのことを学んでいる。こうやって祖母の代わりに俺に相談のメールを送るのだって、貴重な経験だよ。そうしてあげたいと思わせるあなたがいたから、できたわけだ。
世の中や時代になんて、無理についていかなくていい。自分が経験したことや自分の世代なりの考えを伝えていこう。年寄りの話を嫌がる若い人もいるけど、こんなにもやさしいお孫さんなんだから、ちゃんと耳を傾けて自分の人生の糧にしてくれるはずだ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。