「70歳の妻がアイドルの推し活するのをやめさせたい」と嘆く男性に「ウチのは大谷翔平に夢中だよ」と毒蝮三太夫|「マムちゃんの毒入り相談室」第46回
いくつになってもヤキモチは焼いてしまう。70歳の妻がアイドルの「推し活」に励んでいる様子を見て、苦々しくてたまらない71歳の夫。「どうすればやめさせられるでしょうか」と悲痛に訴える相談者に対して、マムシさんは「けっこうなことじゃないか」と奥さんをホメ称え、「ウチのは大谷翔平に夢中だよ」とノロケ話を披露する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「70歳の妻がアイドルに熱を上げていて苦々しい」
おかげさまで、この「相談室」を元にした本『70歳からの人生相談』(文春新書)が、なかなか評判がいいみたいだ。いろんなラジオ番組や新聞なんかでも取り上げてくれてる。「父の日に田舎の父親にプレゼントしました」なんて声を聞くと嬉しいよね。この本を通じて、父親に「こう考えるといいよ」と伝えたいと思ってくれたわけだ。長年の悩みを解消したり、親子の関係がよくなるきっかけにしたり、いろんな効能を見つけ出してくれ。読んで損したってことは絶対にないはずだ。
さて、今回の相談に行ってみようか。70歳の奥さんがアイドルの「推し活」に熱中していて、それを苦々しく思っている71歳のダンナからの相談だ。
「妻はもう何年も、あるアイドルの『推し活』に一生懸命になっています。ずいぶんお金も使っているようです。それはいいんですが、いい歳してアイドルに熱を上げている様子を見ると、苦々しくてたまりません。一度『いい加減にしたらどうだ』と忠告したら、『ほっといて!』とすごい剣幕で怒られました。
夫婦仲は、それ以外はとくに悪いわけではありません。妻の推し活をどうすればやめさせられるでしょうか。もう諦めたほうがいいんでしょうか」
回答:「いいじゃないか。奥さんの趣味も尊重し、お互いに好きなことをするのが夫婦円満の秘訣だ」
けっこうなことじゃないか。それだけ元気だってことだし、好きなアイドルを応援することで、奥さん自身も元気をもらっている。やめさせる必要なんてないよ。諦めるというのとも、ちょっと違う。楽しんでいる奥さんを応援して、自分もプラスのパワーのおすそ分けをもらってしまえばいいんじゃないかな。
ウチのカミさんは、今、大谷翔平に熱を上げててたいへんだよ。居間には俺の写真が飾ってあるんだけど、アレ?と思ったら、隣りに大谷の写真が置いてあった。俺のが引っ込められてなくてよかったよ。「大谷も二刀流だけど、俺も俳優とラジオの二刀流だ。俺のほうが先だけどな」って言ったら、「たしかにそうね」って笑ってたな。
結婚して60年になるけど、最初に熱を上げてたのは布施明だったかな。次は三浦友和。彼はバンドもやってた。新宿厚生年金会館のコンサートをカミさんが見に行って、俺がクルマで迎えに行ったことがあったんだよ。そしたら会場から女性の群れがどんどん出てきた。まあ当たり前なんだけど、その迫力に気圧された覚えがあるね。
いくつになっても、アイドルに夢中になるっているのは悪いことじゃない。貴金属やブランド品に夢中になるのに比べたら、かかるお金だってしれたもんだ。本人にとっては生きる張り合いになってるんだから、「いい加減にしたらどうだ」なんて言ったら、そりゃ怒るよ。何にしたって、相手が好きなものや大事にしているものを否定しちゃいけない。
相談をくれたおとっつぁんは、ヤキモチみたいな気持ちがあるんだろうね。それはわからなでもないけど、若いアイドルにヤキモチを焼いたってしょうがない。かなうわけないし、長年連れ添ったダンナと手の届かないところにいるアイドルとは、まったく別の存在なんだから。ヤキモチを焼くってことは、おとっつぁんもまだまだ若いってことだ。
ここは男の度量の見せどころだよ。ニコニコ笑って、「お前が楽しそうにしていて嬉しいよ」ぐらいのことを言ってやれ。そうやって相手の趣味を尊重すれば、こっちが「飲みに行ってくるぞ」って言っても奥さんは止めるわけにはいかなくなる。たとえば釣りの趣味があるなら、「明日は船で沖に出てくるから」なんてことも言いやすい。
相手の好きなことを認めながら、それぞれが好きなことを楽しむ。いっしょに楽しめることがあるならそれに越したことはないけど、70代ともなれば誰しも自分の世界がある。「いっしょに」にこだわると、どっちかが無理をする羽目になりかねない。お互いに自分の世界を持っているほうが、いっしょに過ごす時間を穏やかに楽しめるんじゃないかな。
おとっつぁんは、アイドルに熱中している奥さんが「悩みの原因」だと思っているかもしれないけど、そうじゃない。悩みを生み出しているのは、奥さんの推し活をあたたかく見られない自分自身だ。自分が奥さんの推し活を「元気でけっこうだ」と思えたら、悩みはたちまち消えてなくなる。ほとんどの悩みは、じつは自分が生み出してるんだよ。
「命短し恋せよオトメ」じゃなくて「命長し恋せよババア」だ!ウチだって夫婦円満でいられるのは、今は大谷のおかげと言ってもいい。だけど、このあいだ「ライバルが多くてたいへんなの」とこぼしてたな。この先、大谷が結婚なんてしたらショックを受けるだろうね。どう慰めるか、今から考えておかなきゃ。「まあいいじゃないか。似てる男が同じ家にいるんだから」って言えばいいかな。ハハハ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、発売たちまち大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
いしはら・そういちろう
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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