倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.10「亡くなる3日前の日のこと、そして後悔」
漫画家の倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが逝去されたのは、2024年2月16日。亡くなる3日前、夫婦ふたり並んで映画を見て過ごした夜のこと――今も後悔していることとは?
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
日記は夫を思い出す貴重な記録
夫の病状やその日に起きたこと、食べたものを、ざっくりと日記に残してあります。
写真や動画と同じく、夫のことを思い出すよすがになる貴重な記録になりました。亡くなる前の数日間は特にひとつひとつの情報が重く感じられ、記憶も新しく鮮やかなのもあって何度読んでも泣いてしまいます。
でも、悲しみが蘇ってしまうんだけど、書いていてよかったです。忘れたくないから。「ああ、そうだったな」と臨場感を持って思い出したいから。このコラムに書いていることも、きっと将来自分にとって大事な記録になってくれると思います。
今回は、亡くなる3日前のことを書きます。
亡くなる3日前の夜、ふたりで見た映画
この日は2月なのにとても暖かくて、外を歩くのにシャツ一枚で大丈夫なほどでした。
ところが夫はこの日の朝、いつになくガタガタ震えるほど寒がって、部屋中の暖房を入れたり毛布や布団をかけたりさすったりしてやらないといけないほどでした。
そして2、30分ほど経つと今度は「暑い」と言い出し布団を剥ぎ取り、さっきまでの具合の悪そうな感じは治りました。
発熱はありませんでしたが「腫瘍熱」を出した時と同じように、体調変化の速度が異様に速かったです。
お昼過ぎ頃には訪問看護師さんが来て、むくんだ足のマッサージや投薬、ベッドの使い方などの指導をしてくれました。
夫が少し楽しそうに話しているのを見て、来てもらってよかったと思いました。本来、人と話すのが好きな人だから。
外出しなくなってからの夫は、元々の知り合いには会うのを嫌がっていました。病状をあえて重く伝え、お見舞いもすべてお断りしている状態でした。
「弱った姿を見せたくない」というのもあったでしょうが、この時期はもうそんなことより「気を遣いたくない、疲れたくない」という気持ちが強かったようです。
でも看護師、医師の方相手なら、夫もあまり気を遣わずに話せていました。「病人相手のプロ」でもあるし、「知らない人」だからかえってリラックスできたんでしょう。
夜は、前日夫が仕事の知り合いに「観たい」と連絡したら即届けてくれた最新映画のDVDをふたりで観ました。夫が途中疲れて、「続きはまたにしよう」と言ったので、半分くらいでやめてその日は就寝することにしました。夫、そして私好みのホラー・コメディでした。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』