倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.9「夫が死ぬことより恐れていたこと」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの故・叶井俊太郎さん(享年56)。闘病中の夫が死ぬことよりも嫌がっていたのが「痛いこと」だったという。2022年の6月に発覚したすい臓がんの対処療法として行っていた胆管のステント交換手術で入院中、ある夜の出来事を振り返ります。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
「死ぬことよりも痛いことのほうが嫌」
「一番痛いところにがんが噛みついていない。叶井さんはラッキーだったね」
今年の初め頃、夫のCT画像を見た医師に言われました。
常々「死ぬことよりも痛いことのほうが嫌」と言っていた夫にとって、激しい痛みは何より恐れていたものです。もちろん、まったく痛みや不快感がないわけではなかったけど、がんによる「我慢できないほどの激しい痛み」はほとんど体験せずにすんだと思います。
痛み止めは主に飲み薬の頓服と胸や背中に貼るシールで、それも効いていたようですが、訪問医によると「たくさん使う人より遥かに少ない量」で収まっていました。
一番激しかったのは、昨年8月後半から9月半ば過ぎまで入院することになった、胆管のステント交換手術がうまくいかなかった時の痛みです。
1か月ほどの入院期間で、計4回も手術することになりました。夫はいわゆるがんの標準治療はしませんでしたが、がんが大きくなることによる弊害を改善する対症療法は何度も行いました。がんによる圧迫で詰まった胆管を通すステント(人工の管のようなもの)を挿管する手術は、がん発覚の時から3か月おきにしていました。
「もう死にたい」夫からの悲痛な電話
「痛くて痛くて寝そべることもできない。もう死にたい。今、病院内で死に場所を探してる」
昨年9月の手術翌日の深夜、夫が入院先から私にかけてきた悲痛な電話。あの日の夫が、一番痛くて苦しそうでした。
「痛み止め使ってもらって!先生呼んで!」
「痛み止め、全然効かない。めちゃくちゃ痛い。もう死んだほうがマシ。先生呼んでも来ない」
「看護師さん呼んで!」
その後、彷徨う夫を見つけ慌てた看護師さんから電話があったり、部屋に自殺防止の監視カメラを置くことになったり、その日は大変でした。
緊急性があるということで、いつもの執刀医で主治医でもあるA先生が予定を早めてやり直し手術をしてくれて、あっという間に痛みは引きました。
「最初からA先生が手術してくれたらよかったのに」「でも、すごく痛いと強く訴えてよかった」「我慢していたら再手術は来週になってたらしい」など、見舞いに行った時に夫と話したものです。
夫は何事にもあまり我慢をしない質でした。そのことが幸いした出来事だったと思います。そして我慢強くないからこそ、何でも正直に言ってくれる人だからこそ、私は夫を最期まで迷いなく自宅で看取ることができたような気もします。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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