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「認知症の母が暮らす老人ホームから突然の退去勧告!」困った家族が取るべき対処方法を専門家が指南

 人生最期の住処として入居した老人ホーム。しかし、さまざまな状況の変化によって、施設側から退去を求められるケースも少なくないという。そこで、考えられる退去申告例と対応策をケアマネ・介護職員の経験をもつ中谷ミホさんに教えてもらった。

この記事を執筆した専門家

中谷ミホさん

福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703

退去勧告は突然やってくる

 60代女性Aさんの母親(86才)は、3年前から住宅型有料老人ホームに入居中で、数か月前から認知症が急激に進行しました。

 大声や深夜の徘徊、ほかの人の部屋に勝手に入るなどの症状が目立つようになり、今回の要介護認定の更新で、要介護度が「要介護1」から「要介護3」に。

 すると、施設側から「これ以上認知症が進行すると、施設での対応が難しいため、ほかの施設を探してください」と通告されてしまいました。まさかこのような状態で新しい施設を探すことになるとは――。

 このように、突然の退去勧告は、高齢者やその家族にとって大きな不安と困惑を招きます。

 退去勧告を受けた場合、家族はどのように対処すれば良いのでしょうか。

「退去勧告に納得できない場合は?」「次の入居先はどうやって見つけるの?」と疑問を抱くかたもいるでしょうそこで、老人ホームから退去勧告を受ける事例を紹介し、退去勧告を受けた際に家族が確認するべきことを紹介していきます。

老人ホームで退去勧告を受ける5つの事例

ケース1:周囲とのトラブルを頻繁に起こす

 ほかの入居者や施設スタッフと頻繁にトラブルを起こす場合、退去勧告を受けることがあります。

 たとえば、以下のような行為がみられるケースです。

●ほかの入居者やスタッフに対する暴言や暴力行為がある

●昼夜問わず大声、奇声がある

●ほかの入居者の居室に入ってしまう

 これらの行為が認知症による症状が原因によるもので、本人に悪気があるわけではないとしても、ほかの入居者や職員に迷惑をかけたり、トラブルが続いたりする場合は、退去を通告されることがあります。

 冒頭のAさんもこのケースに当てはまったと考えられます。

ケース2:​不在期間が長期化する

 入院などで不在期間が長期(一般的に3か月以上)になる場合、施設側が「病状が回復せず、施設に戻れない」と判断し、退去を勧告することがあります。

 とくに、入居の順番を待つ人が多い施設では、待機者の入居を優先するために長期不在者に退去を求めることがあります。

 また、入居者本人が入院中でも、施設に在籍している限り、家族は入院療養費と施設利用料を二重に支払うことになります。そのため、施設側が家族の経済的な負担を考慮して、一度施設を退去して治療に専念することを促す場合もあります。

ケース3:身体状況が変化する

 入居者の身体状況が変化した場合にも退去を求められることがあります。

 たとえば、以下のようなケースです。

●医療依存度が高くなる

●要介護度が入居基準から外れる

 多くの老人ホームでは、近隣の病院と提携していますが、施設で対応できない医療行為が日常的に必要となる(医療依存度が高くなる)と、退去を求められることがあります。

 また、身体状況が改善して要介護度が入居基準よりも軽くなった場合や反対に要介護度が重くなった場合も、退去を促される可能性があります。

 たとえば、特別養護老人ホームに入居中の人が、入居基準の要介護3よりも低い介護度に認定された場合、退去を求められる可能性があります。

ケース4:利用料を滞納する

 施設利用料の滞納が続く場合も、退去を求められます。

 ただし、その場合はすぐに退去とはならず、通常1〜2か月の猶予期間が設けられています。

 猶予期間を過ぎても支払いに応じず、保証人からの支払いもない場合は、強制退去となる可能性があります。

ケース5:不正入居が発覚する

 不正入居が発覚した場合も、退去勧告を受ける可能性があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

●持病や認知症の進行具合を故意に隠して入居する

●提出書類に虚偽の内容を記載する

 入居を断られることを恐れてこのような行為をしてしまったとしても、施設との契約違反とみなされます。退去勧告を受けても仕方がないでしょう。

退去勧告を受けたら確認するべき4つのポイント

 退去勧告を受けても、慌てず対処することが大切です。ここでは、退去勧告を受けた場合に施設側に確認するべき4つのポイントを紹介します。

ポイント1:まずは「重要事項説明書」「入居契約書」を確認

 退去勧告を受けたら、まずは退去の理由が「重要事項説明書」や「入居契約書」に記載された「退去要件」や「施設からの契約解除」の項目に該当しているか確認しましょう。

 これらの項目に、入居者の状況や症状が該当していれば、退去勧告に従うことになります。

 同時に、退去勧告に至るまでの経緯や施設側の努力など詳しい説明を受け、退去勧告が納得できるものであるか確認することも大切です。

 どうしても納得できない場合は、重要事項説明書に記載されている「苦情対応窓口」へ相談してみましょう。

 それでも納得いかない場合は、下記のような苦情対応窓口に相談することもできます。

●自治体の高齢者相談窓口

●都道府県の国民健康保険団体連合会

 状況によっては、裁判に持ち込むこともできますが、結論がでるまでに時間と費用がかかることは心得ておきましょう。

ポイント2:契約解除の予告期間を確認

 退去が決まれば、いつまでに退去するのか確認する必要があります。

 施設によって異なりますが、一般的には、退去勧告を受けてから90日間の予告期間が設定されています。

 そのため、退去勧告を受けてもすぐに出ていく必要はありませんが、退去の期日までに、次の入居先を準備しなければなりません。新たな施設を探す際には、入居中の施設に協力してもらうと良いでしょう。

 どうしても期日までに転居先が見つからない場合は、施設側に退去の延期を相談してみましょう。延期が認められない場合は、ショートステイを活用しながら次の入居先を探す方法もあります。

 可能であれば、一旦自宅に戻り、在宅介護サービスを利用しながら施設探しをすることも検討しましょう。

ポイント3:返還金の確認

 入居一時金などの前払金を支払っている場合は、未償却分が返還されるのか確認が必要です。

 基本的に退去時の返還額は、各施設が設定した初期償却率や償却期間によって算出されます。そのため、施設が設定した償却期間より短い期間で退去するケースでは、入居一時金の一部が戻ってくる可能性があります。

 返還金のルールは、施設ごとに異なるため、入居契約書や重要事項説明書をよく読んで内容を理解しておく必要があります。

ポイント4:​原状回復の費用負担​

 原状回復の費用も退去前に確認しておきたい項目です。これは、入居していた部屋を元の状態に戻すために入居者が負担する費用のことです。

 通常の使い方で、経年劣化による傷や汚れは施設側の負担になり、故意・過失によって生じたものは、入居者側の負担になります。

 なお、多くの施設では、トラブルを避けるために、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に基準を定めています。退去手続きをする前に確認しておくことをおすすめします。

(参考)

・国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html

・国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&Ahttps://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/housetk3_000024.html

老人ホームから退去勧告を受けたら…【まとめ】

 入居中の老人ホームから退去勧告を受けた場合には、「入居契約書」と「重要事項説明書」を確認し、正当な理由による退去勧告かどうかを判断する必要があります。

 退去勧告に納得いかない場合は、苦情対応窓口に相談すると、適切な解決策を提示してもらえるでしょう。

 なお、一般的に老人ホームでは、退去勧告から90日間の予告期間が設けられています。その間に施設側の協力を得ながら次の施設を探し、入居の手続きを進めましょう。

※記事中では実例をもとに一部設定を変更しています。

写真/イメージマート

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