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暮らし

「フルタイム勤務、2人の子育て中介護離職しないで済んだのは【小規模多機能】のお陰」社会福祉士が振り返りつつ解説する介護制度活用法

 社会福祉士の資格を持つ渋澤和世さんは、正社員としてフルタイムで働きながら親の介護を10年以上続けた経験がある。介護休暇などの制度が今ほど整っていなかった時代、どのように乗り越えてきたのだろうか。介護離職の問題点を挙げながら、制度や対策を解説。渋澤さんが仕事を続けながら在宅介護をするうえで、頼りになった介護事業所についても教えてもらった。

この記事を執筆した専門家

渋澤和世さん

在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。

「このまま仕事を続けられないかも…」

 筆者は電気メーカーの正社員としてフルタイムで働いていますが、40代前半から両親の遠距離介護が始まりました。

 あるとき父が肺炎をこじらせ、「これ以上、遠距離でのサポートは難しい」と考え、父を家に呼び寄せて自宅近くの病院に入院させました。そして、父は数か月後に亡くなりました。

 母は認知症を発症していたため、実家にひとりで帰すわけにもいかず、我が家に同居することになりました。今から10年前は情報があまりなく、デイサービスも対応時間がきっちり決まっていて夜間対応などもありませんでした。

 フルタイムの仕事と介護、2人の子供たちの受験などが重なり、「このままでは仕事を続けられないかも…」と途方に暮れることもたびたびありました。介護と仕事を続けるには、どのような方法があるのでしょうか。まずは、介護離職の現状を確認してみましょう。

介護離職の現状「介護しながら働く人が年々増加」

 家族の介護や看護を理由として、仕事を辞める「介護離職」は、2017年までは減少していましたが、2022年は10万6000人と再び増加。ここ10年間は、微量な増減での推移で、おおよそ年間10万人ペースとなっています。

 また、介護しながら働く人は、2012年は291万人、2017年は346万3000人、2022年には364万6000人と増加が続いています。

 2025年には団塊の世代が全員75才以上の後期高齢者となり、介護をしながら働く人はさらに増加すると見込まれています。

 2022年の数字に着目すると、介護しながら働く人の36.4人にひとりが介護離職していると考えられます。

介護しながら働いている人・働いていない人の推移

2012年…働いている人:291万人 働いていない人:266万4000人

2017年…働いている人:346万3000人 働いていない人:281万3000人

2022年…働いている人:364万6000人 働いていない人:264万2000人

※参考/総務省「令和4年就業構造基本調査結果の概要」。
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kall.pdf

介護離職を回避するための制度や対策

 先ほど、36.4人にひとりが介護離職していると推測しましたが、逆に考えると35人は継続して勤務していることになります。どのようにして乗り越えているのでしょうか。

 離職を防ぎ仕事と介護を両立するための支援制度は、大きく2つあります。

 介護休業・介護休暇に関しては「勤務先に制度が整備されていない」「制度自体を知らない」、介護保険制度に関しても「介護保険サービスを知らない」「利点がわからない」というかたのため、簡単に確認しておきます。

介護休業と介護休暇(育児・介護休業法)


介護休業…介護体制を整えるため、家族1人につき最大93日間、3回まで分割取得が可能。この期間は賃金の67%ほどの介護休業給付が支給される。

介護休暇…要介護状態にある対象家族の介護・世話をするための休暇で、対象家族が1人の場合は年5日まで。時間単位または半日単位での休暇取得が可能。

介護保険制度(介護保険法)

 介護が必要なかた(要介護者・要支援者)に、介護や介護予防でかかる費用の一部を給付する制度。自己負担はサービス費用の1~3割。

 これらの制度を活用して介護離職を回避できたケースをご紹介していきます。

【1】介護休業を利用して施設に入居したケース

 親が脳梗塞で倒れ、突然介護が必要となったAさん(50代)。Aさんは大企業にフルタイムで勤務。介護休業を取りやすい社風だったのが幸いした。

 在宅介護が困難になり、入院→老人ホーム入居という手続きのために介護休業を利用。その後も、病院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせに有給休暇のほか、介護休暇を活用している。

【2】介護保険サービスを利用して在宅介護が続けられたケース

 正社員として働きながら介護が必要な家族と同居しているBさん(50代)は、介護保険サービスを利用しながら在宅介護を継続中。

 通い・宿泊・訪問による介護サービスをひとつの事業所で利用できる「小規模多機能型居宅介護」(地域密着型サービス)を利用することで、送迎時間も融通がきき急な出張も問題なく対応ができている。

 実は筆者も母の在宅介護で利用したのが小規模多機能型居宅介護でした。

 母はアルツハイマー型認知症発症していましたが、要介護1、その後は要介護3、要介護5と進んでいったのですが、10年間ほどお世話になりました。

 介護度が進むにつれ平日5日間と、必要に応じて土日祝日の対応、送迎は7時~19時の対応もしてくださり、私の生活リズムに合わせて相談に乗ってもらうことができました。

 仕事で出張の時や自分自身の息抜きの際は、宿泊することもできます。小規模多機能型の事業所のおかげで、筆者は仕事を続けることができたと思っています。

→「小規模多機能型居宅介護」とは? サービス内容や費用をわかりやすく解説【社会福祉士監修】

【3】働き方を見直し離職が避けられたケース

 50代のBさんは中小企業に勤務しているが、人手不足で介護休暇を取りにくい雰囲気でした。

 介護休業は国が定めた制度で、労働者の権利であり社内規定がなくても取得可能な制度だ。とはいえ、従業員数が少ない中小企業などでは取得しにくい雰囲気がある場合も。一方で会社側もベテラン社員に介護離職されるのも痛手である。こうした中小企業では経営者と従業員の距離が近いというメリットもある。

 そこでCさんは、経営者に状況を正直に打ち明け、働き方を見直すことを相談。短時間勤務や残業免除、フレックス勤務など育児・介護休業法に定められた働き方や、勤務日数を一定期間、週3日に減少するなどの方法を、両者で相談して合意に至りました。

介護離職する場合「ポイントは自分思考」

 国は「介護離職ゼロ」を目標に掲げていますが、私は必ずしも「介護離職することが悪い」という考えには賛成できません。仕事を辞めるかどうかは、その理由が大切であり、当人の思考法がポイントになると私は考えています。

 介護離職をする場合、「自分思考」と「他人思考」の2つの考え方を挙げてみましょう。

 自分思考は、「自分がそうしたい」「自分を守りたい」など自身の意思で決定したという考え方。一方、他人思考は、「親のせい」「会社が根本的な原因だ」という他社に責任を転嫁する考え方といえます。

 同じ離職の道でも、自分思考で決断したのであれば、自分の気持ちに向き合って決めたことなので納得ができますし、その後も前向きになれると思います。

思考法の違いによる介護離職理由の一例

■自分思考

「自分の希望で介護に専念したかったため」

「自分の心身の健康状態が悪化したため」

■他人思考

「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」

「施設へ入所できず介護の負担が増えたため」

***

 私自身は、大切な親の介護はできるだけ自分でやりたいと思っていました。父の最期の瞬間「母のことは任せて」と伝えたところ、力強く手を握り返してきたのです。それが「お母さんのことは頼んだぞ」という意味のように感じ、自分で介護をする使命を感じていたのだと思います。

 しかしながら、当時は2人の子供たちの学費もまだまだかかる時期で、家のローンもあり、経済的な事情からも仕事を手放す訳にはいかなかったのです。

 繰り返しになりますが、私が母親の介護で活用した「小規模多機能型居宅介護」は働きながら介護をする人にとっておすすめのサービスです。たまたまインターネットで近所の介護サービス事業所を検索して見つけたのですが、この事業所に巡り合えなかったら、仕事を続けることはできなかったと思っています。

 介護離職の問題に直面したら、自身の気持ちや生活環境と向き合い、まずは使える制度の情報を集めてみてください。それでも離職する場合には自分思考で退職の理由を考えてみて欲しいと思います。

※記事中では実例をもとに一部設定を変更しています。

●介護離職者数は8年で2倍!「介護のために仕事を辞めてはいけない」理由を専門家が提言

●経済アナリスト森永卓郎さん「親の介護に年間500万円」介護離職のデメリットを考察

●介護・看護のために仕事を辞める人は7万人超!専門家が教える介護離職を防ぐ5つの具体策

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