60過ぎたら家が借りられない!「孤独死」問題や価値観のズレも障害に
年を重ねて身体的に衰えてくると、けがや病気を患い、状態によっては入院や介護施設への入居を考えなくてはならない場合も。そこで、持ち家を手放すことを考える人は多いが、後々、病院を早期退院させられたり、介護施設も人材不足で患者の対処に手が回らないなどの理由から、退所させられてしまうなどの現実がある。
60才以上の入居を断る大家は少なくない
施設にも自宅にもいられない場合は、「賃貸」という道もある。しかし、それだって若い頃のように気軽に借りられるわけではない。東京都の郊外に住む60代の主婦・山城由香さん(仮名)はこう嘆く。
「わが家は3LDKの一戸建てですが、夫は2年前に亡くなり、子供も独立したため、ひとり暮らしでは持て余しているんです。駅やスーパーも遠くて不便なので、駅に近い賃貸マンションを借りようと考えていました」
不動産会社へ相談に行った山城さんだが、契約の話が進む途中で入居を断られた。
「納得ができずに問い詰めると、大家さんが『60才以上は断ってほしい』ということで、驚きました。その後もいくつか問い合わせてみましたが、想像以上に苦労しています」(山城さん)
賃貸物件を貸すかどうかの入居審査は、不動産会社ではなく家主の判断に委ねられる。高齢化社会になったいまも、「60才以上には貸したくない」という家主は少なくない。不動産コンサルタントの長嶋修さんが実状を明かす。
「賃貸は、高齢になればなるほど敬遠されます。収入的に不安定ということもありますが、何より、孤独死を嫌がる家主が多い。ただし最近は、遺品整理や部屋を原状回復してくれる『孤独死保険』に加入する家主も増えており、高齢者を受け入れる傾向にあります」
「大家さん」を頼ると嫌われる
だが、家主が高齢者を受け付けない理由は、それだけではない。価値観のズレが障害となることもある。
「最近の家主は、古くからの地主というより、“サラリーマン投資家”が増えており、昔ながらの“大家さん”ではありません。ですが、高齢者は、『電球が切れた』などと言って、困ったら大家さんが助けてくれると思っている人も多い。イマドキ家主からは敬遠されがちです」(長嶋さん)
●コロナ不景気で貸し渋りが緩和する可能性は?
新型コロナの影響で景気が悪化すれば、不動産業界も対策が必要となる。それによって、高齢者への“貸し渋り”が和らぐ可能性はあるが、時期を見誤ってはいけない。
「賃貸は、不動産市場の中でも最も不況の影響を受けにくいんです。家賃の安い賃貸を求める高齢者は増えるかもしれませんが、思ったように家を見つけられるようになるには、まだ時間がかかるでしょう」(長嶋さん)
子育て世代と高齢者世帯でのトラブル
やっと見つけた新しい家が、必ずしも快適とは限らない。高齢者の生活支援や居住環境調整に詳しい大阪保健医療大学准教授の山田隆人さんは、「子育て世代」とのトラブルを指摘する。
「同じ賃貸マンションで高齢者と子育て世代が暮らすと、騒ぎ声がうるさいといって、トラブルになることもある。世代も離れているので、どうしても挨拶以上の関係になりにくく、“近所づきあい”がなくなる恐れもあります」
どこに移り住んでもトラブルはつきまとう。後悔しないためには、持ち家と新境地をしっかり天秤にかけて、終の棲家を選びたい。
※女性セブン2020年5月7日・14日号
https://josei7.com/