連載

終末期の父、転院を迫られる…。どこに行けばいいのか母も私も苦渋の選択をしなければいけません【実家は老々介護中 Vol.38】

 81才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護を続けていました。美容ライターの私と3歳上の兄も母をサポート。終末期の不安定な状況から緊急入院した父は、退院か転院を迫られています。治療のしようがないのでやむを得ませんが、感染対策で面会に制限がある病院だったら、もう父に会えないかもしれません。兄は仕事が忙しくて身動きが取れず、しょんぼりする母を支えるのは私ひとり。母を守りたいけれど苦戦しています…。

→37話「見えない何かが見えている?終末期の父の様子にハラハラしながらむくんだ手足をマッサージ」を読む

「老人を捨てるみたいで抵抗あるよ」と、母は苦渋の決断を

「別のところへ入ったら、感染対策で面会制限があってもう会えないかもしれないでしょ」と泣き笑いの母に、どんな言葉をかければいいのか…。

 現在父が入院している病院から、退院か転院をするよう急かされています。選択肢となっているどこの施設も、介護を目的とした病院に移ったとしても、今いる病院よりも面会がかなり制限されてしまうのです。

 かなり弱っている父を、母が自宅で看ることはとてもできません。

「お父さん、家族から捨てられたって思うんじゃないかな。それが可哀想で、ずっと苦しいんだよ」と母はどんよりしています。
 
 今の父の状況だと、ターミナルケアの病院が現実的です。未練があるとすれば、費用的に手が出なかった介護付き有料老人ホームや、だいぶ前に申し込んで、結局順番が回って来なかった特別養護老人ホーム。田舎なので選択肢が少なく、都会との格差が大きいと思います。

 ネットを見ても、周りに聞いても、転院候補の病院のクチコミ情報が見つからず、以前、介護タクシーの方から聞いた「普通に評判いい病院ですよ」くらいしかありません。「お母さん、大丈夫だよ、ここに決めようよ」と言っても、母が安心する材料がないのです。

 ケアマネさんに相談がてら、ちょっと怒りをぶつけてしまいました。

「病院の人、ひどいですよね、歳取ってるお母さんに、性急なスケジュールをどんどん言ってきたんですよ。『わー、決めなくちゃ』って、お母さんがテンパってるのもわかっていたと思うんです。先々を言われるがままに決めていたらどうなるんですかね!それに、衰弱してるお父さんを移動させるなんて、とんでもないですよ。また急激に弱っていったらどうしてくれるんですかね…」

 ありがたいのが、ケアマネさんはいつも私がバーッと話すときに聞き役になってくれることです。「ターミナルケアの病院は感染対策で見学禁止、家族が院内を見ることもできない中で決めろだなんて、『何言ってるの?』っていう感じですよね!」と憤る私にケアマネさんはうん、うん、と聞いてくださり、おかげで私もだんだん冷静になってきました。

 コロナ禍以降、面会制限が厳しくなったのは誰のせいでもないわけだし、怒ってもムダです。ケアマネさんには申し訳なかったけれど、家族じゃない人に気持ちを話せてスッキリしました…。

 父の転院にあたり、今、入院中の病院の相談員と面接が必要だというので、母とふたりで行き、「(転院は)今じゃないとダメでしょうか?」と改めて聞いてみました。すると、「ここは急性期の患者を看るための病院なので、ルールなんです」の一点張り。そこへ、主治医まで顔を出し、「もうやれる治療はないので」と改めておっしゃいました。こんなに強くプッシュされて、母がつらそうな表情です。

 気の毒そうにしながらも、スピーディに話を進める相談員に促され、ターミナルケアの病院にアポイントを入れて翌日契約しました。中の見学は再開待ちなので、1階のロビーや面談室だけしか見られませんでした。

 帰りのタクシーで母は、「これでいいのかなあ?それをずっと考えていてさ」としょんぼり。家に着いても、「しょうがないよね。今、自分に言い聞かせてるんだ」と何度もつぶやいています。

「お父さん、ずっとこの部屋に寝ていたのに、フッと見るといないでしょ。1日に何回も『あれっ?て思ってるの。お父さんもういないんだ、帰ってこないんだって思うとしんどいよね』と母。車イス、ポータブルトイレ、風呂用の介助イスなどが置き去りになっているのを見て、「もう使うことも無いからさあ」と、わざわざ声に出して、自分に染み込ませようとしている母の様子に、いたたまれない気持ちです。

 ひとつ反省があるとすれば、「症状が進んだ時点でキーパーソンを私に変えておけば、母が矢面に立たずに済み、こんなにつらい思いをさせなかったかもしれない」ということです。母を支えることのほうが難しく、この先もずっと元気でいてもらいたいのに、本当に心配。

 しかもこの後、また父の容態が急変してしまうのです。次回に続く…。

文/タレイカ

都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(81才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。

イラスト/富圭愛

●終末期の症状を知っておきましょう…看取りの時に何をしてあげればいいのか|700人看取った看護師がアドバイス

●旅立つ人・見送る人、どちらも幸せと思える最期を迎えるために…看取り士が伝えたい「死生観と命のバトン」

●【叶井俊太郎さん追悼】倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.7「最高の父ちゃん、最高の夫と。手を繋いで」

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!