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【叶井俊太郎さん追悼】倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.7「最高の父ちゃん、最高の夫と。手を繋いで」

 2024年2月16日の深夜、叶井俊太郎さん(享年56才)は永眠されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。妻の倉田真由美さんは「最高の父ちゃんで、最高の夫でした」と大粒の涙と落とし語った。倉田さんの最愛の夫、叶井さんが亡くなる数日前、ふたりでお散歩に行ったときのエピソードを公開する。

執筆・イラスト/倉田真由美さん

漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。

夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。

ふたたび駅前の本屋さんへ

「今日は行けそう」

 2月なのに暖かいとある日、夫が私に言いました。

「駅前の本屋。一緒に行ってくれる?」

「行くよもちろん。天気いいから、気持ちいいよ」

 脚のむくみが激しくなっているのと筋肉が落ちているので、自転車には乗れなくなってしまった夫。でも歩くことはできるので、「本屋とかコンビニとか、歩いて行けたらいいね」とは話していました。

 うちから駅前の本屋まで、普通に歩いて6、7分くらいかかります。今の夫には、かなりの冒険かもしれません。

「私が支えるから。無理そうだったら引き返そう」

 夫は、着替えにも介助が必要です。何せ脚が上がらないので、長いズボンをはくのはひと苦労。さらに痩せているのに腹水でお腹だけが大きく張っているので、サスペンダーをしないとズボンはずり落ちてしまいます。慣れないサスペンダーを私と協力して装着し、温かいダウンジャケットを着込みます。元気な頃暑がりだった夫は、すっかり寒がりになってしまいました。

 2人で家を出て、ゆっくり歩を進めます。私は夫の手を握り、夫を支えながら。夫は私を杖代わりにして。外から見たら、手を繋いで仲睦まじく歩いている夫婦にしか見えないかもしれません。

普段気にならないことが気になる

 弱っている人と歩くと、普段気にならないことが気になります。

 狭い歩道を結構なスピードで走る自転車。真横をすり抜ける電動キックボード。うちから公園を通り抜けるとかなりショートカットできるんですが、公園内でもボールに注意して歩きました。

 そして実際大正解でした、夫の足元にサッカーボールが飛んできました。たいした威力ではありませんが、今の夫には大きな衝撃になりかねないので私が夫に当たる前にボールを蹴り返しました。

 今回は成功しましたが、公園は危険かもしれないなあ。遠回りするか、悩ましいところです。

 途中一度休憩を入れ30分くらいかかりましたが、本屋には無事に到着しました。夫が期待していた漫画の新刊はどれも出ていませんでしたが、好みの本を見つけてそれを買いました。

 疲れたようで、帰りはタクシーを使いました。でも、歩いたおかげかその日は調子がよく、パソコンでチャカチャカ仕事したりもしていました。

「また行こうね。次は新しい漫画、出てるかもしれないよ」

 暖かい日が続くといいな。夫と、また外を歩けるといいな。

***

※2024年2月16日の23時頃、叶井俊太郎さん(56才)は逝去されました。編集部一同、心よりご冥福をお祈りいたします。本記事は2月15日時点のものですが、著者の意向によりこのまま掲載いたします。

本連載は毎週水・土曜に公開しておりましたが、暫く休載した後、続きを再開する予定です。

倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯

 夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。

『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』

夫のすい臓がんが判明するまで表紙

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『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』

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この記事へのみんなのコメント

  • やよびー

    本屋さんへの散歩のこと、まるで3ヶ月前の私たちを見るようでした。倉田さんの書かれる言葉と絵が私の思い出を鮮やかにしてくれます。大変な日々のなか、こうして描き続けてくださったことに感謝しています。 倉田さんご夫婦が同年代で、私自身も先月夫を癌で亡くしたこともあり、切ない思いで連載を読ませていただいておりました。 そして、お二人がより長く良い時間を過ごせるよう祈っておりました。 あまりにも早い、、、ご主人にとっては、苦しみや痛みの時間が少なかったのではと思います。ただ、、、倉田さんにとってあまりに急で、お気持ちが追いつかないのではと、とても心配です。 共に人生を歩もうと誓った人を送らなければならない事がどんなに辛いことか。 今は忙しく目まぐるしい日々を過ごされていることと思いますが、どうか無理なさいませんように。

  • 田野敏次

    残念、、、、有る意味彼は幸せ、、、、 8年前に妻を見取りました。彼女は認知症を発症し昔の妊娠中毒による腎不全が命を縮め、寝たきりの生活を5年間頑張って旅立って行きました。 私は仕事を変えて彼女に付き添い、ヘルパーさんの力も借りて一緒に介護をしましたが第三者からは無理せず施設に任せた方が良いと何度も言われましたが自分には大変さより彼女と少しでも一緒にいたい思いの方が強く最後まで見取りました。 1人になって、あれをしてやれば良かった、こうしてやれば良かった、、、、、、後悔しかありません。 相手を無くした者は皆同じ思いが有ると思います 切り替えが必要と感じました。 残された者も残りの時間を楽しく過ごすのが正解なんだと、、、、、、、、、、、、、

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