兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第237回 ある朝、炊飯器に…」
ライターのツガエマナミコさんは、兄が若年性認知症を発症してから、8年以上にわたり生活の一切のサポートを続けています。症状が進行する中、在宅での介護に限界を感じ施設への入所を申し込んだものの、不可となってしまいました。理由は、兄が排泄コントロールをできないこと。しかしそれこそが、マナミコさんを悩ませ、日々の暮らしを脅かしていることに他ならないのです。
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どうやら兄はトイレでの排泄が嫌いらしい
先日、電車で座席に座っていると、高級住宅街で知られる駅から年配のご婦人が乗車され、わたくしの隣にお座りになりました。たまたま和装だったわたくしに好感を持っていただいたようで、にっこり微笑まれ世間話が始まりました。「私、足腰だけは丈夫なの」「79歳になりますのよ」「お直しに出したお洋服を取りに行くの」と少女のようにあれこれお話しして、銀座駅で降りて行かれました。後ろ姿を目で追いながら”お上品”という言葉はこのご婦人のような人のことを言うのだわと思い、少々浮世離れした素敵な時間をいただいた気がいたしました。見ず知らずの人間に話しかける人なつこさ、人への好奇心をわたくしは失くしてしまったな…とわが身を振り返ったツガエでございます。
そんなある日、朝起きて掃除機を掛ける際、キッチンの炊飯器の棚の下に水たまりを発見いたしました。「またこんなところでオシッコしたんか!」と嘆きつつお尿さま掃除を始めると、どうやら炊飯器の蓋の上からやらかしたことが判明。蓋を開けてみると、しっかり淵の溝に入り込んでおりました。内釜は洗えても、本体は水洗いできないので水拭きと除菌スプレーで対応するぐらいしかできません。まさか炊飯器の上からはしないだろうと思っておりましたが、甘かったようでございます。ご飯を炊くとき以外は、炊飯器にもシートを掛けなければならなくなりました。
先日はわたくしが仕事をしていると、部屋に入ってきて、わたくしが見ている目の前でゴミ箱に向かって、おもむろにズボンを下ろそうとするので、あわててトイレに誘導したのですが、トイレでは何も出さずじまいでございました。最近判明したのでございますが、兄はトイレの場所がわからないのではなく、トイレでの排泄が嫌いなようでございます。
今朝も起きてきた兄は、しばらくリビングをうろつき、キッチンでズボンを下ろしたので、「トイレはあっちよ」と誘導しようと背中を押したところ、がんとして動きませんでした。なおも排尿モードだったため、「バケツにして!」とキッチンに常備している兄用のバケツに誘導いたした次第でございます。
今朝はなんとかバケツにやっていただき、事なきを得ましたが、わたくしの外出時にわたくしの部屋でこれをやられた日には泣くに泣けない事態でございます。ゴミ箱になら許せても、パソコンやベッドの上に…と思うと背筋が凍ります。
このところ出かける際は部屋に防水シートを何枚も広げまくっております。おかげさまでお尿さまが撒かれた形跡はございませんが、安心できないので、そろそろこの部屋に外側からかかる鍵を取りつけなければいけないかな~と考えております。家の中のスライド式の戸の外側から鍵を付けるなんてできるのでございましょうか。鍵屋さまにご相談してみます。
そしてツガエはついにショートステイを月2回は利用しようと決心いたしました。1回3泊4日か4泊5日ぐらいしていただきたい旨をケアマネさまに申し上げ、来月の予約を2回分取っていただきました。
今後のことに関してのケアマネさまのご意見は、老健(介護老人保健施設)に入って特養(特別養護老人ホーム)待ちするのがいいのではないかとのこと。グループホームはかなり値段が高くなるので、家族(わたくし)の経済的負担が大変だとおっしゃるのです。
そして「老健はケアマネ経由ではなく、家族が直接交渉するほうがいいのですよ」とおっしゃり、オススメの老健を一か所教えてくださいました。
しばらくはショートステイを頻繁に利用しながら様子をみて、それももう無理かなと思ったときには、老健に連絡をさせていただこうか…と今は考えております。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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