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帰省したら親と話したい防災対策|地震の際、火の始末は揺れがおさまってからが新常識

 神奈川県藤沢市で開催された「シニアのための防災フェスタ2019 in 藤沢」(主催:社会福祉法人聖隷福祉事業団、3月23日)では、お天気キャスター・気象予報士の森田正光さんが「もしもに備えて」というテーマで、災害に直面した場合の心理状態について分かりやすく解説。会場には140人ほどのシニアが参集、防災に備えて熱心にメモを取っていた。

森田さんの講演内容は以下の記事を参照

関連記事:お天気キャスター森田正光さんが勧める「シニアの防災」心構え

自助・共助・公助からなる防災。自分の身は自分で守る

 イベント後半では、神奈川県藤沢市防災安全部危機管理課の片岡氏が講演を行った。自衛隊員として全国で様々な任務に従事してきた片岡氏は、実例を交え防災意識を高めることの需要性を語った。

「防災には自助・共助・公助という区分がありますが、何といっても自助が1番大事です。まずは生き残らないといけない。一般的に、家の中で地震にあったらテーブルの下に隠れましょうと言われるが、いつも家にいるわけではないですよね。高速道路を車で走っていたり、満員電車に乗っていたりと色々な状況がありえます。車で走っている時に揺れを感じたら速度をゆっくりと落として、道路の端に停めます。そして、救急車が通る時などに邪魔にならないように鍵をつけたまま逃げます。そういった分かりやすい場面もありますが、人間の生活はそんなに単純ではありませんので、色々な場面でどうやって身を守るのかを考えることが大事になってきます」(片岡氏 以下「」は片岡氏)

 お互いに助け合う共助。片岡氏によると、阪神淡路大震災の時に瓦礫に埋もれたり、閉じ込められて助け出された人のうちの実に8割が近くの人の手によるものだという。消防団や自衛隊が救助できるエリアには限りがあるので、近所の人と日頃から人間関係、協力関係を作っておくことが大事になってくると片岡氏は力説する。

「非常に大きな組織の力として公助にも意味がありますが、かゆいところに手が届くというものではありません。だからあてにはできません。まず生き残って、色々な支援をもらうという発想が必要です」

「自分には関係ない」と思わずに危機意識を持つ

「防災で1番大事なことは危機意識を持つことです。危機意識を持っていないと、いくら知識を頭に入れてもやるべきことをやらなくなってしまいます。自分は大丈夫。自分には関係ない。こういう意識が1番怖いです」

 片岡氏はこの日、参考資料としてある映像を流した。それは、岩手県釜石市の町内会長が東日本大震災当日の様子を撮影したもの。揺れの直後から始まるその映像は高台から撮影されていて、津波が街を襲う様子や周りの人々の生々しい声が収められていた。防災フェスタの会場も静まり返り、参加者は当時の様子をじっと見つめていた。

火の始末は揺れがおさまってからにする

 片岡氏からは実際に地震が起きた場合の対処についても説明。

 これまで、火事を防ぐために揺れ始めたらすぐに火を消すように言われることが多かったが、今では、まず自分の身を守り、揺れがおさまってから火の始末をすべきという。

 台所は食器棚の食器やガスコンロ、ひっくり返せばヤケドをしてしまう鍋など危険が多いため、揺れが収まってから火の始末をすることが今は推奨されているのだ。

 揺れがおさまったら自治体に用意されている一時避難場所に集まる。そこでは安否確認や隣近所の情報を共有し、初期消火活動などを行う。それらが一段落したら自分の家に帰って、片付けをしたり、安全確認をする。自宅では生活できない状況の場合には避難施設に移る。

「避難施設と聞くと安心だと思われるかもしれませんが、学校の体育館等なので、生活ができるような場ではありません。決して快適ではありません。自宅では安全に生活できない場合、避難施設に来て頂きます。避難施設では共助ということで協力をして、プライバシーの確保や食事の準備、トイレの整備などを行います」

危機意識が身の回りの防災対策に手をつけるきっかけに

 各地で起こる災害のニュースを見る度に、「防災袋を用意しなければ」「タンスが倒れないように転倒防止の器具を取りつけよう」などと思いながらも、なかなか実行に移せていない人も多いのではないだろうか。やはり行動をするためのポイントは危機意識のようだ。

「危機意識を持たないと防災の知識を持っていても意味がありません。まずはできることからやっていきましょう。家具の転倒防止、家財の落下防止はぜひやってください。寝ているとすぐに逃げられないので、寝室の大きな家具は危険です。窓ガラスの飛散対策も必要です。飛散防止フィルムを貼ったり、散乱した物で足をケガしないように各部屋、枕元にスリッパや靴を置いておくことも防災対策になります」

台風などは、被害に備えてできる限りの準備をする

「風水害と地震の大きな違いは事前に情報の有無です。台風などは事前に情報が入るので、できる限りの準備をしておきます。氾濫の可能性がある地域に住んでいたり、身体が不自由な方がいらっしゃる場合は早めに避難行動を取って頂きたい。安否確認の電話の伝言サービスもぜひ1度試しておいて欲しいと思います」

離れて住む親の防災対策は?

 高齢の親と離れて住んでいて、いざという時に親が災害に対応できるのかを心配している人も多いだろう。日頃の準備としてできることを片山さんに聞いてみた。ここでポイントとなるのはやはり自助、共助だ。

「近所の方に自分の親がどういう状況なのかを知っておいてもらうことが大切です。また、自治体が発行しているハザードマップをチェックすることも重要です。住んでいるところにどういう危険があって、どういう対策が必要なのかが分かります。住んでいるところが、どのような種類の災害に弱いのかを知っておく必要があります」

 自治体の防災情報はホームページに多く集まり、更新もされていることが多い。しかし、高齢者の中にはインターネットを日常的に使っていない人もいる。実家に帰る人は、災害の多かった平成を振り返ることで危機意識を高め、親といざという時の備えを確認してみてはいかがだろうか。

撮影/津野貴生

【データ】
社会福祉法人聖隷福祉事業団
URL:http://www.seirei.or.jp/hq/

●大規模災害、その時!「 離れて住む高齢の親」守る知恵

●洪水に襲われた特養「クレールエステート悠楽」奇跡の避難【前編】

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