「過分な薬は毒」日本初の【薬やめる科】医師が教える多剤併用の害と減らしやすい薬の種類 「薬に頼らず自力で頑張る気持ちが大切」
日本に薬の知識を広めたのは聖徳太子だといわれる。それから1400年以上経った現在、日本の医療は世界最先端を誇り、薬は多くの人の命を救っている。しかし、一方で“毒”として体を蝕むこともある。負のループから脱した人たちの体験記を紹介する。
教えてくれた人
森田洋之さん/医師。南日本ヘルスリサーチラボ代表
松田史彦さん/松田医院和漢堂院長
「8種類の薬を服用、でも数値は一向に下がらない」
都内に住む小林美代子さん(75才・仮名)は、1年前まで近所のクリニックに通うのが“趣味”だったと笑いながら振り返る。
小林さんは還暦を過ぎた頃、健康診断で高コレステロールと高血圧に加え、骨粗しょう症の疑いもあると指摘された。それからというもの、内科と整形外科に通い、あれよあれよのうちに8種類もの薬をのむことになった。
しかし、数値は一向に下がらないうえ、常に顔色が悪く、関節や筋肉の痛みは増すばかり。理由は薬が効いていないからだ──そう思い、クリニックに行っては薬を求めた。
そんなある日、旅行に出かけた小林さんは常用薬を1種類、家に置き忘れたことに気がついた。不安でしょうがなかったが、体に異変はまったくない。そのことを息子に話すと「意味のない薬が多いのでは?」と心配された。
「半年ほど前、私の体調を気にした息子が減薬に取り組んでいるクリニックを見つけてくれたので試しに受診してみました。薬を精査すると胃薬や痛み止めなど効き目が重なっているものが複数あったばかりか、不調は薬の副作用が原因の可能性が高いことがわかりました。実際、徐々に薬を減らしていくと体調がよくなった。いまでは完全に“脱薬”でき、気がつけば関節や筋肉の痛みもまったく感じません」(小林さん)
多剤併用が減らない理由
ポリファーマシー(多剤併用)が社会問題になって久しい。5種類以上の薬を併用する人は認知症になりやすいというデータがあるほか、日本老年医学会のガイドラインによれば、処方薬が6種類以上になると副作用が増加し、5種類以上をのむ高齢者の4割に副作用によるふらつきや転倒が起きているとされる。
それにもかかわらず、かつての小林さんのように、年々のむ薬が増えていく人は少なくなく、75才以上では4割超の人が5種類以上の薬の処方を受けており、7種類以上という人も25%いる。
“のんでいるから安心”という依存心
南日本ヘルスリサーチラボ代表で医師の森田洋之さんは、多剤併用が減らない理由についてこう話す。
「睡眠薬や向精神薬、血圧、血糖値など慢性的な病気や不調に用いられる薬は長期的にのみ続ける前提になっているため、患者に“のんでいるから安心”という依存心が生まれ、やめづらくなる。また、医師側にもそれを増長する側面がある。彼らは医学部時代から診療ガイドラインや有効な薬を学び続けますが、“どうなったら薬をやめられるか”については習わないのです」
医師は服薬のゴーサインを出すが統一した「ブレーキ」は存在しない──その結果私たちに手渡される薬袋は、どんどん分厚くなっていくのだ。
しかし、そこから一歩踏み出すことで体の不調は大きく改善すると、日本初の「薬やめる科」を設ける松田医院和漢堂院長の松田史彦さんは力説する。
「私の元に訪れる患者は薬をやめるとほぼ例外なく、驚くほど元気になる。血のめぐりが改善されて顔色もよくなり、活発になってメンタルも明るくなる。お肌のくすみ、色みも改善する。認知症だと思われていた人が元に戻った例もあります。過分な薬は間違いなく“毒”だといって差し支えないでしょう」
では、実際に成功した人たちはどう「脱薬」したのか。
医師の思い込みで薬が処方されていることも
松田さんは、薬の中には、やめやすいものとそうでないものがあると明かす。
「例えば、脂質異常症の治療に使うコレステロール値を下げる薬や骨粗しょう症の薬はやめやすい。やめやすいものから減らしていくことが成功のカギです。数値のうえでは悪化するものの、体調に変化はほぼありません」(松田さん・以下同)
逆にいえば、医師も「念のため」で処方しがちだという。
「心筋梗塞を経験した50代半ばの男性で、もともとコレステロール値が低いのにもかかわらず、それを下げる薬が2種類も処方され、基準値よりかなり低くなっていたケースがありました。大病院の医師が“心筋梗塞だからコレステロール値が高いはず”と思い込んだのでしょう。低コレステロールの状態が長く続けば慢性疲労やうつの原因にもなりうるため、危険です」
恐ろしいのは、薬に伴う副作用がさらなる不調を招くことだ。
「その50代の患者にはロスバスタチンカルシウムという脂質異常症の薬が出されていましたが、添付文書に副作用として『関節痛』『筋肉痛』『筋力低下』などが記載されています。実際、このかたはひどい腰痛に悩んでいましたが“野球をしていて腰を痛めたから”と考え、薬の副作用だとは思いもしなかった。多くの患者が “年だから”とあきらめていた不調は、実は薬のせいかもしれません。その患者は心臓の薬だけを残し、すべてやめたところ、腰痛は2週間で完全によくなりました」
夜ごとの悪夢にうなされることに悩み、松田さんの医院を受診し、ロスバスタチンカルシウムをやめると、ぴたっと治った人もいる。なんと「悪夢」も添付文書に記載された副作用だったのだ。
「更年期でコレステロールの薬を処方されている女性は多いはずです。“念のため出しておきましょう”という決まり文句で必要のない薬をのみ、気づかぬうちに副作用という害を被っていることがあるのです」
抗コレステロール薬と並んでやめやすいとして挙がった骨粗しょう症の薬はどうか。静岡県在住の川田純子さん(77才・仮名)は、自治体の健康診断で骨粗しょう症と診断されビスホスホネート製剤をのみ始めた。
「すると歯周病がひどくなって歯が抜けたうえ、掃除機のコードに足をひっかけて転倒しただけで足首を骨折して、膝のお皿にもひびが入って手術をするハメに…。ただ、そのときに手術を担当してくれた医師が“骨がもろくなったのは薬のせい、私なら処方しない”と言ってすぐにやめさせてくれました。自力で改善したいと思ったので毎朝、日光を浴びながらのウオーキングを始めたほか、カルシウムを摂れるよう食事を改善。足踏みなどの運動も取り入れ、60%だった骨密度は75%まで上昇しました」(川田さん)
松田さんが言う。
「ビスホスホネート製剤は骨粗しょう症の代表的な薬です。古い骨を“掃除”する機能を抑制し、その結果、骨折を引き起こす見逃せない副作用がある。いったい何のための薬だろうと思ってしまいます」
あなたは大丈夫? 減らした方がいい、主な薬とその理由
★脂質異常症薬:コレステロール値が下がりすぎると認知機能が低下する報告が
★骨粗しょう症薬:古い骨を掃除する機能を抑制するので、副作用として骨折しやすくなることも
★降圧剤:複数のむほど副作用も大きくなる。立ちくらみやふらつき、腎臓機能への悪影響を及ぼす例もある
★便秘薬:特に刺激性の便秘薬は依存しやすく、長期の服用は腸の働きを低下させ便秘がよりひどくなる
★ステロイド剤:糖代謝異常や脂質代謝異常などの副作用があり、特に予防的にのんでいる場合、真っ先に医師に相談し、脱薬すべし
★糖尿病薬:低血糖や体重の増加などの副作用が。生活習慣の改善が第一
★胃薬:ほかの薬の副作用によって引き起こされる胃腸への負担を軽減する目的の、いわゆる「おまけ」的な薬になっている場合がある。多剤併用に伴う副作用の一因に
★向精神薬:依存性があるうえ、眠気、ふらつき、不眠などの副作用もある
脱薬にあたって、「やめやすい薬」を見極めることと同じくらい大切なのは、川田さんのように薬に頼らず「自力で改善しよう」という強い気持ちだ。
福岡県の岸本栄子さん(61才・仮名)は若い頃からの便秘が悪化し、市販薬も効かなくなった。腸閉塞になるのではと恐ろしくなって病院を受診し、浣腸と摘便(てきべん)でどうにか楽になった。その後は、便秘防止のマグネシウムと排便を促す「リナクロチド」という薬が処方された。しばらくは快便だったが、今度は副作用で下痢になるなど不調が出たので、脱薬を決意。
「運動不足を解消するために公民館の健康ヨガ教室に通い、便秘に効くポーズを教わったり、腸の動きをよくするためにスクワットを日課にしたら、薬を手離すことができました」(岸本さん)
糖尿病薬も自力で脱薬できる。宮城県に住む佐藤美津子さん(59才・仮名)はこんな努力をしている。
「3年前に糖尿病と診断され、治療薬をのんだものの体重は減りませんでした。運動が昔から大の苦手なので、治療薬をGLP-1受容体作動薬という比較的効果が出やすい薬に変えたら、月に2~3kgのペースで体重が減りました。しかし、めまいや倦怠感が続き、肝心の血糖値は改善されませんでした。そこで一念発起して食事制限と水泳のダイエットを始めたところ血糖値がするする下がり、担当医から“この調子なら薬なしにできそうだ”と言われました。よく考えたら料理が好きだからヘルシーなメニューを考えるのは楽しいし、運動嫌いも体育の授業でやっていたマラソンにつらい思い出があるだけで体を動かすこと自体は決して苦痛じゃないとわかったのです」
※女性セブン2024年1月1日号
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●薬に頼らず血圧を下げる!低塩分&高ミネラルのメニュー1週間お弁当レシピ」