60才以上は要注意!<肺炎対策>予防が期待できるワクチン4種、生活習慣や運動法を医師が解説
せき、発熱、胸痛など風邪と間違えられやすい「肺炎」。厚生労働省の調査(※)によると、肺炎は日本人の死因第5位で、その多くは65才以上の高齢者が占めている。肺炎予防の基本は、まずワクチン接種。加えて、食事などの生活習慣や誤嚥を防ぐためののどの体操や呼吸筋ストレッチも有効だ。命を落とさないために、60代からやっておくべきことを専門家に教えてもらった。
(※)「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」より。
教えてくれた人
大谷義夫さん/池袋大谷クリニック院長。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。せきやぜんそくなどの疾患の診断、治療を行う。11月に新著『1日1万歩を続けなさい』(ダイヤモンド社)を発売予定。
田中克典さん/元ケアマネジャー。障害者施設などでの介護経験を経て、2000年からケアマネジャーとして活躍。23年間で450人以上の高齢者を担当してきた。『親の介護手続きと対処まるわかりQ&A』(玄光社)など著書多数。
【肺炎予防法1】「65才以上はワクチン接種の検討を」
「ある調査によれば、肺炎球菌ワクチンの接種で、肺炎球菌性肺炎の発症を60%以上低下させられ、さらにすべての肺炎を約45%減少させることが明らかになっています」(大谷さん)
65才を過ぎたら公費助成も受けられる。ぜひ検討を。肺炎予防が期待できる4種のワクチンは以下の通り。
※ワクチンの名前/接種できる人、特徴、価格
【1】23価肺炎球菌ワクチン(商品名「ニューモバックス(R)NP」)
<接種できる人>2才以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い、次のような個人及び患者が対象。(1)高齢者(2)脾摘患者(3)心・呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病などの基礎疾患のある患者など。
<特徴>約90種類のうち23種類の肺炎球菌を予防でき、接種後、5年以上効果が持続する。
<価格>接種費用は8000~9500円程度。ただし、高齢者の肺炎球菌ワクチンは定期接種となったため、2023年度は65・70・75・80・85・90・95・100才になる人は生涯で1回のみ、公費により接種費用が補助される。
【2】13価肺炎球菌ワクチン(商品名「プレベナー13」)
<接種できる人>対象者は、高齢者または肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる人。生後2か月以上6才未満の小児は定期接種(無料)。
<特徴>予防できるのは13種類の肺炎球菌。23価肺炎球菌ワクチンに比べれば種類は少ないが、免疫記憶がつき、長期間の免疫効果を期待できる。23価肺炎球菌ワクチンと両方接種することが望ましい。
<価格>接種費用は1万円程度。公費助成はなく、全額自費。
【3】インフルエンザワクチン
<特徴>インフルエンザは例年10~3月に流行し、ピークは1~2月。流行前、遅くとも12月上旬までに接種したい。
<価格>1回の接種費用は3000~4000円程度。65才以上の人と、60~64才の人で心臓、腎臓、呼吸器、またはヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に障害を持つ人は定期接種の対象者となり、費用の助成がある。
【4】新型コロナワクチン
<接種できる人>2023年9月20日~2024年3月31日まで実施する「令和5年秋開始接種」は、1人1回限り、原則的に日本国内で初回接種(1回目・2回目)が完了している生後6か月以上の人が受けられる。前回の接種から一定期間経過していることが条件。
<価格>費用は無料。
【肺炎予防法2】口腔ケア・生活習慣/3か月に1度は検診を
高齢者の場合、虫歯や歯周病、入れ歯の齟齬(そご)により、食べたり飲み込んだりする「口腔機能」が低下しやすいという。また、口の中の細菌を含んだ唾液を誤嚥すると、誤嚥性肺炎になる。
「毎食後と就寝前の歯磨き、入れ歯の手入れや除菌はもちろん、3か月に1回程度の歯科定期健診もおすすめします」(大谷さん・以下同)
免疫力の低下もウイルスや細菌の侵入、増殖につながるため、運動や睡眠をしっかりとることも重要だ。
「運動不足で筋力が低下するとのどの筋力も弱まり、飲み込む力が衰えます。その結果、誤嚥性肺炎に。私の患者さんでも、運動習慣のない高齢者ほど、肺炎を繰り返しています。一度肺炎にかかると、治療期間中に筋力がさらに落ち、再び肺炎にかかりやすいという負のスパイラルに陥ります」
【肺炎予防法3】食事/誤嚥しにくいものを選んでゆっくり食べる
飲み込む力が弱い高齢者には、誤嚥を防ぐため、調理法や食事のときの姿勢に気をつけるべきだという。
「食事には、片栗粉などでとろみをつけましょう。食べるとき、猫背になると首や頭を支えようとしてのどの筋肉が突っ張り、飲み込みにくくなるので、背筋を伸ばしつつも胸を反らないようにやや前かがみで軽くあごを引くといいでしょう」(田中さん)
食後すぐ横になると、胃液が食道に逆流する「胃食道逆流症」で、胃の内容物を誤嚥する可能性もある。
「食後90分は横にならないようにしましょう。あまり噛まない、早食い、テレビを見ながら食べるなども誤嚥の原因に。食べることに集中することが大切です」(大谷さん)
NG!「あごを上げるとむせやすい」
OK!「あごは引きぎみに」
食べる時は要注意!誤嚥しやすい食品
※食品の特徴/主な食品例
【1】とろみのない液体
水、お茶、コーヒー、ジュースなど
【2】口の中で形が定まらず、まとまりにくいもの
納豆を含む豆類、そぼろ、ひじき、ちくわ、かまぼこなど。刻み食もこの傾向になりやすいため、注意が必要
【3】水分が少なくパサパサしているもの
いも類、油揚げ、パン、カステラ、クッキーなど
【4】口の中やのどに張り付きやすいもの
のり、煮豆や枝豆など豆類の皮、ちぎったレタス、薄切りのきゅうり、もなか、ウエハースなど
【5】噛み切りにくいもの
肉、いか、たこ、貝類、ごぼう、れんこん、たけのこ、エリンギやえのきたけのような軸の長いきのこなど
【6】粘り気の強いもの
もち、団子、とろみの強すぎる食品など
※参考文献/一般社団法人日本呼吸器学会「ストップ! 肺炎」(2021年)