実は怖い「ホクロ」の話 悪性腫瘍との違いや除去治療「40~60代の相談が増えている」背景を医師が解説
マスクを外すようになり「ホクロが気になって取りたい」と皮膚科医を受診する40~60代の人が増えているという。顔の印象を大きく左右するホクロ。「大人になって増えた」「ホクロとシミの違いは?」など、気になるホクロの素朴な疑問から、放置すると危険な悪性腫瘍、最新のホクロ除去治療まで、皮膚科医に徹底的に解説いただきました。
教えてくれた人
山内輝夫さん/皮膚科医。一般皮膚科と美容皮膚科の両方を行う「湘南皮膚科クリニック中野駅前院」院長。大学病院の皮膚科で7年診療に携わり、今年7月現職に就任。皮膚科専門医の視点を生かし、幅広い世代にあった治療を目指す。https://www.s-b-c.net/skinclinic/nakano-skin/
ホクロとは?「40~60代で気になり、取りたい」相談も
コロナ禍でマスクを外すようになってから、皮膚科の受診者数が増えているという。
「特に、40~60代のかたがたから『このできものは何? 体に悪いものかしら』『ホクロやイボが気になりだしたので取りたい』という相談が多いですね」と言うのは、皮膚科医の山内輝夫さん。
意図せずできてしまうホクロだが、いったいどうやって生まれてくるのか?
「ホクロは別名『母斑(ぼはん)細胞母斑(または色素性母斑)』といって、『母斑細胞』という細胞が増えることでできるものです。ただ、どうできるのかなど、よくわかっていない部分が多いのです」(山内さん・以下同)
多くの人間が持っているものなのに、その正体はミステリアスなのだ。
ホクロができる仕組みは「医師にも謎が多い」
「『皮膚の構造』を見ると、表皮のいちばん下に『基底層』という層があります。
ここにメラニン色素を作る『メラノサイト』という細胞があり、これがホクロのもとである母斑細胞に近い存在だといわれているのですが、メラノサイト=母斑細胞ではない。いまのところ、母斑細胞はメラノサイトと『シュワン細胞』と呼ばれる神経細胞が混ざり合ったものという説が有力ですが、ホクロは医師にとっても謎が多いのです」
皮膚の構造
人間の皮膚は表皮と真皮の二層構造となっている。ホクロは、表皮のみ、表皮と真皮、真皮のみの3エリアのいずれかにでき、表皮に近いホクロは消えることもある。良性のホクロなら、真皮のさらに下にある皮下脂肪の層にできることはまずないが、悪性腫瘍の場合は、真皮を突き破って皮下脂肪や筋肉に達することもあるという。
山内さんによると、一般的なホクロは後天性のものがほとんど。2~6才ででき始め、思春期に急増。20~30代にピークを迎えるという。
「さらに、ホクロと性ホルモンには何らかの関連があると考えられており、妊娠時にホクロが大きくなるケースも多く見られます」
ホクロが多い人と少ない人の差は、どこにあるのか?
「こちらも科学的な実証はないのですが、一部のホクロの種類については統計的に遺伝の可能性が指摘されています。また、コーカソイド(白色人種)は日光を浴びた箇所にホクロが増加する結果が出ていることから、紫外線の刺激も発生要因の1つと考えられています」
怖いのは「ホクロと見間違える悪性腫瘍」
ひと口にホクロと言っても、色や形によって種類が違う。
「主に4種あり、ポピュラーなのが『クラーク母斑』『ミーシャー母斑』『ウンナ母斑』の3種。
クラーク母斑は、腕などにできる小さくて平べったいホクロのことで、前述の妊娠時や日光を浴びたコーカソイドに急増するのはこのタイプのホクロです。
次に、顔にできるのが丸くて膨らみのある『ミーシャー母斑』。ホクロから毛が生えているものもあり、加齢で細胞の活動が弱ってくると、色が薄くなってきます。
そして、『ウンナ母斑』は桑の実のようなツブツブが集まった形状で、体にできます。立体的で大きくなるので心配する人も多いのですが、健康を害することはありません」
最後の『スピッツ母斑』は主に若年層にできる、かなりレアなホクロだという。
いずれも良性で、あっても問題はない。怖いのは、ホクロと見間違えてしまう悪性の腫瘍だ。
「主なものに『メラノーマ(悪性黒色腫)』があります。最初のうちはホクロと見分けがつきませんが、医師が色味や構成パターンを見れば『怪しいな』とわかります」
メラノーマとホクロの違いは上図の通り。ホクロは左右対称で色ムラもないが、悪性の場合は形がいびつで、白や青みがかった箇所があったり、血管が見えるなど、明らかに不規則な形状をしている。
「病院では、『ダーモスコピー』という器具でホクロの形や色味を確認し、怪しいものはダーモスコピーの機能を搭載したカメラで撮影してコンピューター上で再度確認します。悪性を疑うときは、一部もしくは全切除し、病理組織の結果によっては専門の病院を紹介します」
ホクロの種類・悪性orホクロの違い
【ホクロ(色素性母斑)の種類】
・クラーク母斑
体や四肢にできるホクロで、一般的に楕円形で、中央から外側に向かって色が薄くなってい
ることが多く、直径1cm以下のものがほとんど。
・ミーシャー母斑
顔にできやすく、膨らみがあるものが多い。毛髪部にもよくできる。加齢により色が薄くなる
傾向があり、肌色に近いものもある。
・ウンナ母斑
体に多く見られるやわらかなしこり状のホクロ。直径1cmほどで、黒色~茶褐色。
・スピッツ母斑
比較的若年層にできやすい赤~黒色のホクロ。急激に大きくなることもあり、悪性黒色腫と
の判別を要するものもある。
【悪性黒色腫とホクロの違い】
★ホクロ
・左右対称
・境界線が明確
・色調が均一
・大きさが6mm以下
★悪性黒色腫
・左右非対称
・境界線が不明瞭
・色調が多彩
・大きさが6mm以下
資料提供/湘南皮膚科クリニック中野駅前院