兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第220回 明日からショートステイ!】
若年性認知症を患う兄に施設入居に向け、準備を進めている妹のツガエマナミコさん。まずは、特別養護老人ホーム(特養)でショートステイのお試しをすることになりました。いよいよ明日からお泊まりにでかけるにあたり、マナミコさん自身も心の準備も必要な様子です。
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普通に暮らせるだけで幸せ
昨日、夕食の支度をしていると、兄がキッチンにやってきておもむろにパンツをさげたので「ここはダメ! トイレはあっち!」とトイレまでお連れしたツガエでございます。こういう家族が世の中にはどれだけいるのでしょうか…。
今朝の新聞も日本の高齢化を取り上げておりました。総人口に対する高齢者の割合が過去最高で、10人に1人は80歳以上。それに伴い高齢就業者数は過去最高となっているそうです。産業別にみると農業・林業の高齢化が目立っているとのこと。わたくしが生きている間に急激に社会や世界がゆがんできたように感じております。それとも、いつの時代もこうだったのでしょうか?
誰が悪いというわけではなく、これが「個人の幸せ」を追い求めてきた結果のような気がしています。「平和ボケ」と言ってしまうと「じゃ戦争すればいいのか?」という議論になりがちですが、そうではなく、もうそろそろ利便性や効率化を追い求めるのは卒業して、ちょっと不便で面倒くさい暮らしがスタンダードになってもいいのではないかなぁと思うのでございます。生きることがもっと必死なことだったら、普通に暮らせるだけで幸せを感じられるのに、今は普通に暮らせるのは当たり前で、幸せは当たり前の外側にあると思いこまされているように思います。とはいえ、ツガエも自分の手に負えなくなってきた兄を施設に放り込み、自分だけ自由の身になろうとしているのですから、何の説得力もございませんが…。
わたくしは今、兄がデイケアに行ってくれる日が幸せで、お便さま掃除をしなくて済む朝が幸せでございます。そして、兄に食事介助をしなければならなくなってから、ご飯を置いておけば残さず食べてくれた頃は幸せだったのだとつくづく感じております。
世の中を見れば、もっともっと大変な状況で介護をされている方がたくさんいらっしゃいます。申し訳ないことですが、兄がこういうタイプの認知症でなくてよかったと思うような方もYouTubeで拝見いたしました。兄はだいぶ言葉数が少なくなって、何がしたいのか、何を言いたいのかがわからなくなってまいりましたが、素直で癇癪を起すこともなく、食事も口までもっていけばパックリ口を開けてくれます。
そんな兄を介護するわたくし妹は、着々と施設入居に向かって進んでおります。昨日、ケアマネさまに入居に必要な手続き書類の調達をお願いいたしました。
明日から兄は特別養護老人ホーム(特養)3泊4日のショートステイでございます。ケアマネさまのお話しでは、今回のショートステイのあと、長めのショートステイ(最大3か月)を契約できたら、そのまま入居へとつながるだろうとのこと。そんなにうまくいくでしょうか?
特養の待機者が多いのはどうやら一番お安い多床室タイプの施設で、明日兄が利用する個室タイプの施設の場合は、比較的入りやすいとのこと。そう、兄には低所得者の証「介護保険負担限度額認定証・第2段階」という強い味方があるので、多少割高の施設でも格安で利用できるのでございます。預貯金の多い親世代の方々は、きっと低所得者の証が取得できないので、多床室タイプが人気なのかもしれません。
そんな施設入居の話やショートステイの話を兄の目の前で繰り広げておりましたが、兄は「ふんふん」と他人事のようにうなずきながら聞いておりました。おそらく何もわかっていないのでございましょう。明日のことを変に説明すれば異変を感じて「行かない」と言い出しかねないので、いつものデイケアの要領で「車がお迎えにくるから行こう」と騙し打ちする予定でございます。わたくしがいつもと違う雰囲気を出してしまわないようにしなければ…と、すでに舞台前の女優の心境でございます。子どもや犬などもそうですが、言葉はわからなくても案外そういうことの察知能力は高いものなのですよね。女優ツガエ、頑張ります!
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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