八千草薫さん「90才目前のがん手術」メリット・デメリット
高齢化が進む現在、シニアとがんは密接な関係にある。なかでも問題は、がんがわかった時に手術を「する」のか、「しない」のかという判断だ。
「一般的には、高齢になるとともにリスクを恐れてがんの手術を避けるようになり、80才を超えると多くの人が手術をしません。80代後半で手術に踏み切った八千草さんは、よほど体力があったのだと思います」(上さん)
一方、高齢になるとがんの進行は遅くなるといわれている。手術せずに「天寿を全うする」という人も少なくない。ただし現在は、昔に比べて高齢者が手術を受けやすくなった。
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが指摘する。
「“手術に年齢の上限はない”が今の主流の考え方で、年齢よりもその人個人が身体的に若いかどうかが問われます。また、ここ10年ほどで医療技術が大きく進歩して、高齢者でも手術を受けやすくなりました。例えば『マルチスライスCT』を使えば、一度にたくさんの写真を撮影できて患部を細かく診断できるようになりましたし、腹部に小さな穴を開けてカメラを挿入して手術する『腹腔鏡手術』が普及して、患者の体に与える負担が少なくなりました」
そもそも手術が選択肢になること自体が、完治の可能性を示すと室井さんが続ける。
「確かに切らなくても寿命に関係のないがんもありますが、がんはできるだけ切除すべきです。医師が“外科手術をしますか”と提案するのは、患者が手術に耐えうる体力を持ち、がんを切除できると判断したからです。がんが全身に転移していれば手術は困難ですが、手術ができる時点で“治せるがん”なのだと前向きにとらえるべきです」
手術のリスク「麻酔」「出血」と「入院」
一方で、手術をすることの危険性もある。
その最大のリスクは「死」だ。秋津医院院長の秋津壽男医師が指摘する。
「高齢になるほど体力は低下しており、手術中に血圧が変動して死を迎えるリスクはゼロではありません。また、がん周辺の正常な細胞を切り取ることにより、体がダメージを受けることもあります」
室井さんが注目するリスクは「麻酔」と「出血」だ。
「一定時間、強制的に意識を飛ばして呼吸機能を抑制する場合もある全身麻酔は大きなリスク。特に高齢者は体に負担がかかりやすく、脳に影響が及んで認知症リスクが増す恐れもあります。また高齢者は血管も弱っているので、最悪の場合は手術中に大量出血で死にいたる可能性があります」
術後の「入院」もリスクになる。
「高齢者の場合、入院してベッドで過ごすと想像以上に体力が落ちてしまいます。入院生活で“楽”をしすぎて足腰が弱り、退院してもそのまま寝たきりになるケースがあります。このため、高齢者が入院する場合は、筋力を維持することが大切。最近は、手術後のリハビリに筋トレを取り入れることが大事だといわれます」(室井さん)
八千草も昨年1月の膵臓摘手術後は、人の手を借りなければ歩けなくなっていたほどだったという。
もちろん手術である以上、医療ミスが起きる可能性もゼロではない。
大切なのは“絶対に治す”という「気力」
このように、高齢になるほど手術のメリットとデメリットの振れ幅が大きくなるが、はたして何才まで手術は可能なのか。
秋津さんは「あくまで体力が判断基準」と指摘する。
「寝たきりの70才だったら手術はしませんが、山登りする90才なら手術します。元気があれば100才でも手術する一方で、本人が手術を望んでも、“あなたの体力では手術中に何が起こるかわかりません”と医師が手術を断ることもあります」
高齢者の手術で、もう1つ大切なのは「気力」だ。 「本人に“絶対に病気を治す”という気力があれば、いくつになってもがんに立ち向かえます。八千草さんも“なんとしても舞台に復帰するんだ”という強い気持ちがあったので、手術に踏み切ったのでしょう」(秋津さん)
上さんは、「高齢だからと手術を諦める必要はない」と指摘する。
「昔は年を取ると手術をしませんでしたが、今は医療が進歩して高齢でも手術が可能になりました。ただし普段から体力がないと手術はできないので、日常生活で運動や栄養に気を使い、できるだけ健康を維持しておくことがとても大切です」
がん闘病を告白した所属事務所のホームページで八千草はこうも述べた。
《より一層楽しんで頂ける作品に参加出来るように帰って参ります》
大女優の復帰を待ちたい。
※女性セブン2019年2月28日号