60才から介護・福祉の資格に挑戦した3人の合格体験記「自信がついて若返る」「80才まで現役で働きたい」
いまや定年を超えても働く人はめずらしくなく、せっかく働くなら「生きがい」を見つけたいという人は多い。60才を超えて介護系の資格を取り、「第二の人生」を謳歌している人の人生には、人生後半戦をより豊かに生きるヒントが詰まっている。定年後は自分のキャリアを生かしてもよし、まったく違うものにチャレンジしてもいい。人生は60才からが本番です!
介護職員初任者研修
■遠藤ひとみさん(62)
定年だからもう何もできないと型にはめるのはもったいない
「資格を取るために通った短期カレッジでは、私が最高齢でした」
今年2月、介護職員初任者研修の資格を取得した遠藤ひとみさん(62才)は苦笑いしながらそう振り返る。
結婚後、育児をしながらパートタイマーや契約社員として働いていた遠藤さんは2018年から4年間、母を自宅で介護した。そして昨年、その母が他界したことが改めて自分の人生を考える転機となった。
「夫と気持ちや価値観がすれ違い、この先の人生を共にする自信がなくなり、新たな道を歩むべく熟年離婚をしました。その後、母を介護した経験から、“プロの介護とはどんなものなのか”を知りたくなり、介護専門の短期カレッジに3か月通って1日5時間、実技や介護倫理、法律などを学びました。周りは若い子ばかりでしたが、固くなった頭をフル回転して授業についていきました」(遠藤さん・以下同)
当初、2人の子供たちは「大丈夫?」と心配していたが、日を追うにつれ「生き生きして若返ってきたね」と応援してくれるようになり、試験に合格すると自分のことのように喜んだ。
授業料はトータルで6万7000円ほど。現在は近所のデイサービスで週5日働く。
「実際に働くまで、利用者が徘徊をはじめとして理解できないような行動を取るなど、介護職にはストレスがたまるイメージでしたが、それは大きな間違いだとわかりました。私の職場は若々しい心を持った利用者のかたばかり。ボケとツッコミのキャッチボールができます。フレンドリーに接してくれたおばあちゃんが翌日、“初めまして”と言ってくることもあるけれど…(笑い)。だけどそれも“かわいい”と思える素敵な人たちばかりです。毎日思いがけず起きるハプニングは楽しいし、何より人生の大先輩の話を聞くことができるのは貴重な体験です」
得がたい職場に加え、「自信」と「やりがい」も資格によってもたらされた大切なものだと遠藤さんは続ける。
「定年だからもう何もできないと自分を型にはめるのはもったいない。私は資格を取って働くことで自分に自信を持つことができました。“もう私は”ではなく、“まだ私は”と思うことで、人生は180度変わります。子育てがほぼ終わる定年後こそ、若返ることができるんです」
人生の大先輩に囲まれて過ごす遠藤さんは、今日も生き生きと働いている。
介護福祉士
■合田真弓さん(63)
礼儀正しく丁寧な対応を強みに
大和銀行(現・りそな銀行)で契約社員として働きながら、認知症の母を介護していた合田真弓さん(63才)。
母が亡くなって自身が体調を崩したことを機に定年間際で銀行を退職し、介護を支援するNPO法人を立ち上げた。同時に収入を得るため認知症専門のグループホームで働き始めたが、役立ったのが銀行員時代の「接待術」だった。
「ヘルパーの資格はありましたが、仕事ぶりは素人同然。ただ介護現場はどうしてもスタッフからは“介護をしてあげる”という雰囲気がにじみでてしまうところを、私はつい、銀行窓口で仕込まれた礼儀正しい言葉遣いで応対してしまう。すると“すごく丁寧だね”とほかのスタッフも真似してくれた。介護現場では礼儀正しく丁寧な対応も大事なんだと勉強になりました」(合田さん・以下同)
合田さんは3年の実務経験を積んだ後、国家資格である介護福祉士の資格を取得した。
「合格率は7割ほど。私は何度も試験勉強をしたくなかったので2か月間集中して、毎日空き時間や就寝前に勉強して無事に一発合格しました」
資格取得後の昨年1月、訪問介護事業所を立ち上げ、オリジナルのエンディングノートも作成した。事業者として朝から晩まで休みなく働き、利用者とのふれあいを心から楽しんでいる。
「介護の仕事の楽しさは相手と直にコミュニケーションを取って、さらに喜んでもらえること。寝たきりで弱っていたおばあちゃんを介護した際、“ありがとう”と手を握ってくれて、それから徐々に元気になっていったときも本当にうれしかった。利用者が回復する姿を見届けられることが訪問介護のやりがいですね」
結婚後に専業主婦をしていたとき、社会から取り残された気がして、「人の役に立ちたい」と強く願ったという合田さん。自分と同じような気持ちを持つ人は、介護の仕事に向いていると語る。
「人を手助けすることが好きで、“ありがとう”と言われるのがうれしいと思える人であれば、どんな性格であっても向いていると思います。現場で働く場合、利用者の環境に応じてケアマネジャーさんが差配してくれるため、相性のいい職場がきっと見つかるはずです」
社会福祉士
■白水光男さん(63)
定年後の勉強はあくまでもマイペースを貫くのがコツ
航空自衛官だった白水光男さん(63才)は55才で定年退官。その後、銀行の店頭警備の仕事をしながら、59才のときに日本福祉大学通信教育部に入学した。
「福祉の仕事を選んだのは、息子に発達障害があり、福祉の支援を受けていたので社会に恩返しがしたかったからです。福祉業界では資格がなくても働けますが、大学で勉強して福祉の制度やサービスの知識をきちんと学び、資格を取得することが利用者さんの安心につながると考えました」(白水さん・以下同)
強い情熱は保ちながらも、勉強はあくまでもマイペースを貫いた。
「仕事から帰った後、晩酌するのが楽しみなので勉強は朝型。平日は夜9時か10時には寝て、朝4時に起きて2時間。土日のどちらかは勉強して、1日はゆっくり過ごすようにしました。オンラインの授業やスクーリング、1か月の実習で必要な単位を取り、最後の年は早めに受験準備に入りました。60才を過ぎていたので、記憶力も集中力も若い頃とは違うだろうと不安で…(笑い)」
過去問の解答と解説を掲載しているインターネットサイトを活用し、問題を解いては知らないことはネットで検索して調べるの繰り返しだった。昨年末に銀行を退職してすぐ、今年2月に社会福祉士の国家試験を受け、3月に合格。現在、訪問介護・相談支援事業所で働いている。
「妻も私が大学に行くこと、資格を取ることに賛成で、勉強に集中できるようにサポートしてくれました。昨年秋にはふたりで伊勢神宮に合格祈願に行ったんですよ。合格できたので、有休が取れるようになったらゆっくりお礼参りに行きたいと思っています」
白水さんはほかにも今年2月に「介護職員初任者研修」、4月に外出するのが困難な人の支援や介助をする「移動支援従業者」、7月に視覚障害者の外出援助をする「同行援護従業者」の資格も取得。
「大学では国家資格の精神保健福祉士の勉強もしていたので、実習を終えたら受験する予定です。80才まで現役で働くことが目的なので、しっかり資格を取得したいです!」
文/池田道大、大門太郎 取材/大竹千穂、清水芽々、伏見友里、三好洋輝
※女性セブン2023年10月5日号
https://josei7.com/
●60才から挑戦したい介護資格「介護職員初任者研修」、新設の「生活援助従事者研修」などの取得方法