安藤なつさん「介護福祉士」を取得!国家資格に挑戦した理由「介護職のネガティブイメージを変えていきたい」
お笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさん(42才)は、中学生のころから長年介護の現場を経験してきた。今年3月には介護福祉士の国家資格を取得。「介護業界を変えたい!」という密かな野望も。そんな安藤さんの介護にまつわるクスッと笑えるエピソードを3回に渡ってお届けする。今回は資格試験の背景や勉強法についてのお話だ。
安藤なつさん介護福祉士の資格を取って変わったこと
「あんなに真面目に勉強したのは生まれて初めて。落ちたら恥ずかしいから、受かってから公表しました。
試験が終わったらなぜか受験票を捨てちゃっていて、ネットの合格発表が見られない(笑い)。合格通知が来るまで冷や冷やしましたよ」
真っ赤なスーツ姿のカズレーザーさんの隣で、紫の衣装に身を包んだ身長170cm、体重130kgの安藤さんはツッコミ担当。ふたりがコンビを組むメイプル超合金は、2015年『M-1グランプリ』でファイナリストとしてブレイク。
安藤さんは、お笑い芸人として第一線で活躍しながら介護現場でのキャリアは20年超。そして2023年3月には第35回介護福祉士国家試験に合格した。
「叔父が経営する介護施設で中学生のころからボランティアをしてきました。お笑い芸人になってからも、スケジュールを調整してアルバイトを続けていたんです。
二十歳のときに初任者研修(旧ヘルパー2級)は取得しましたが、入浴介助にしても排泄ケアにしても、現場で学んでやってきていたので、いずれ本格的に介護福祉士の勉強をしたいと思っていたんです。
資格の勉強をしたことで、ひとつひとつケアの意味や仕組みがわかるようになった。これまで現場で経験してきたことの答え合わせができているという感じ。利用者さんのADL(日常生活動作を記録したカルテ)の見方も変わりましたね」
介護福祉士の勉強に使ったアプリ
「勉強は逃げ出したい瞬間もあったけど、楽しかったですね」
そう語る安藤さんが晴れて合格した介護福祉士国家の国家試験は、夏真っ盛りの今、8~9月が受験の申し込み期間。筆記試験は1月、実技試験が3月に実施される。
安藤さんは昨年の夏ごろから本腰を入れて勉強を始めたというが、どんな工夫をしたのだろうか。
「相方(カズレーザーさん)に勉強法を聞いたら、時間配分が大事だと力説されました。試験日から逆算してやるべき内容を細かく分けて時間配分を決めて勉強すべきだと。
――これは全然できませんでしたね(笑い)。
勉強に役立ったのはスマホのアプリ。空き時間や移動中にひたすらアプリで問題を解いていました」
安藤さんが活用したアプリは『介護福祉士暗記カード+過去問徹底対策(解説付き)』。
また、試験勉強の同志となったのが、友人でお笑い芸人のマッハスピード豪速球・さかまき。さんだ。
「さかまき。も介護の仕事を長年していて、介護福祉士を目指していたので、2人でよく勉強会を開きました。
一緒に勉強をしていると、お互いの得意不得意がわかってくるし、苦手部分を克服するために、問題を出し合ったりして、いい刺激になりましたね」
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心が折れそうになった「実務者研修」
人生初の勉強を楽しんだ安藤さんだが、心が折れそうになる瞬間もあったという。
介護福祉士国家試験の受験資格には、3年以上の実務経験が必要だが、こちらはすでに経験がある安藤さんはクリア。さらに、「実務者研修」という講義を受ける必要がある。
「朝の9時から19時までみっちり授業を受けるんですが、ケアプランを立てるときのICF(国際生活機能分類)とかちっとも頭に入ってこないし、制度が複雑な介護保険の講義とか、心が折れそうになりました。
実務者研修は課題をクリアしないと次に進めないんです。問題を解いて早く進みたいから、ズルをして答えをメモったんですが、まったく別の問題にシャッフルされるので絶望しましたね」
無事に実務者研修の修了試験をクリアし、本番の筆記試験を迎えたが…。
「筆記試験の前日、北海道で講演の仕事だったんです。介護の講演をしている人間が、明日テストってどういう状態だよって感じですよね。
福祉系の学校の先生や生徒さんたちも聞きにきてくれていたんですが、ある先生が『明日、テストを受ける生徒は休ませました!』って。そりゃそうですよね、絶対勉強したほうがいいですよねって。
受験することを世間に公表していなかったので、『私も明日試験なんだけど』とも言えないし、もうニヤニヤするしかなかったですね」
受験票を捨てた天然な自分を呪った
半年間の猛勉強を経て試験を終えたが、安藤さんはもやもやした日々を過ごすことに――。
「自己採点で合格点は取れていたんですが、受験票を捨てるような人間なんで、もしかしたらマークシートが1個ずつズレている可能性もあるんじゃないかとか、不安過ぎて、毎日そわそわして、試験後の記憶が飛んでいます(笑い)。
さかまき。は、ネットで見て先に合格したことがわかって安心しているのに、私は合否の通知が郵送で届くまで、もやもやし続けていました。受験票を捨てた自分を呪いましたね」
資格取得後に描く介護現場の未来
長年の目標だった介護福祉士の試験に合格した安藤さんには、改めて世の中に伝えたい想いがある。
「介護の仕事って大変だ大変だって言われていますが、他の仕事に比べて、仕事内容が見えにくいだけで、実際は大変なことばかりではないんですよ。
介護職はきついとか辛いとかネガティブなイメージを変えていけたらいいと思っていて、介護福祉士の資格取得はその第一歩になるんじゃないかと。
認知症のかたとの会話はもどかしいこともありますが、捉え方によっては絶妙な間合いとか、おもしろいと感じる。この仕事には、笑いの要素もあると思うんです」
昨年度は厚生労働省による福祉・介護の仕事の魅力を発信する『GO!GO!KAI-GOプロジェクト』の副団長も務めた安藤さん。資格取得後の新たな目標は、介護の世界の魅力をPRする“介護の広報大使”。
「介護現場を見るツアーをやってみたいですね。介護フェスみたいなお祭りもいいかもしれません。給料とか待遇面もあるかもしれないけど、介護業界を変えるには、まず介護現場の楽しさを伝えていけたらいいですね」と、ビッグスマイルを浮かべた。
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プロフィール
安藤なつさん
1981年東京生まれ。中学時代から介護施設でのボランティアを経験。高校時代から本格的にお笑い芸人を目指し、女子プロレスラーとしての活動経験も。2012年にメイプル超合金を結成。以降も介護に関する仕事を続けている。2023年介護福祉士の資格を取得。共著『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)。
撮影/市瀬真以 取材・文/氏家裕子